第25話 ギルドの先輩

「あれ、ここ誰か入ったんだ。お前聞いてる?」


「いや」


 だなんて声が部屋の外から聞こえてくる。同じ職場の人だろうか?

 あんまり無視し続けるのもあれなのでドアを開ける。


「どうされました?」


 取り敢えず向こうの要望がわからないので『僕』モードで様子見。

 ドアの向こうにはひょろっとした見た目の男と、まんまる頭の坊主頭の男がいた。どちらも下っ端みたいな装い。

 Aランクの恭弥さんとは比べるまでもない。


「あ、お前。ここがロンギヌスのギルド社宅だって知ってて入居したのか?」


「ここに住めと言ってくれたのは恭弥さんからです。携帯番号も交換してますのでお電話掛けましょうか?」


「恭弥さん? なんでギルドのNo.2がこんなガキに?」


 どうやら早速注目を浴びてしまったようだ。

 それも結構悪い形で。

 SNSで絡まれたことを報告すると、今行くと連絡があった。


「お前恭弥さんの名前を出せば俺たちがビビると思ってんだろ?」


「いえ。実際にお声がけいただいたのは事実ですし」


「どこで?」


「ダンジョンエクスプローラーですか? それで遊んでたら声をかけられました。探索者に興味はあるか、と」


 声をかけられたのは別の話題でだが、別に嘘は言ってまい。


「DEっつーと拾い上げか?」


「こんな冴えないガキを? 俺ら聞いてねーぞ?」


「見た目が冴えるか冴えないは腕前には関係ねぇんだぜ? それと俺の客を門前払いとか、何時からお前らそんな偉くなったんだ?」


 高圧的な二人組の話に割って入ってきたのは恭弥さんである。

 俺を不審がって居た二人は噂の有名人の登場に震え上がっていた。


「きょ、恭弥さん? こいつ恭弥さんの名前を騙ってましたよ!」


「騙ってねーよ。勝手に落とし込めたのはお前らだろうが三雄、幹二」


「じゃあ本当に?」


「まずは荷物も持ちとして働かせるからお前ら世話係頼むな?」


「階級は?」


 階級? クラス、ではなくランクのことか?


「最低のGからだ。この世界は稼がなきゃ上に行けないからな。そこはお前も知ってるところだろ、幹二?」


「ですね。俺も学園をAで卒業しましたが、プロになってようやくDです。二年の足がかりを一足飛びで抜かれたらどうしようかと」


「うちは実力主義だ。実力とは持ち帰り品も含まれる。こいつは剥ぎ取りとモンスター知識が豊富でな。きっとウチで役に立つだろうと拾ってきたんだ。お前らも仲良くしてやってくれよ?」


「へい、そう言うことでしたら」


「しっかし拾い上げると言ってもこいつはランカーにもなれない下っ端でしょ?」


「いや、DEでのこいつのスコアは俺を抜くぜ?」


「「は?」」


 恭弥さん、また面倒な置き土産を置いていくんだから。

 二人に説明する俺の迷惑を考えての嫌がらせでしょ?


「じゃあ後は任せた。俺は相棒の世話をしなくちゃいけないからな」


 恭弥さんは説明を終えたとさっさと立ち去る。

 背が高く細長い印象の男は長井三雄。

 丸顔眼鏡の男は丸尾幹二と名乗った。印象と苗字が覚えやすくてありがたい。

 どちらも陰険な性格をしてるが、学園ではAクラスだったとかで拾い上げてもらったようだ。Aクラス生だったら誰でも拾ってもらえるならそりゃAを目指すよなって思う。


「お前、実はすごい奴なの?」


「ゲームでのお話ですよ。実際には先輩たちの足元にも及びませんよ」


「だ、だよな。ところでお前名前は?」


「六濃海斗。才能の覚醒が出来ないから学園では無能君と呼ばれてましたね」


「あれ? 今って時期的に二学期の終わりくらいだろ? 元学生ってことは?」


「流石にこれ以上粘っても芽が出ないようなら見込みはないだろうなって自主退学しました。なのであの学園で功績を残せた先輩たちにはこれから色々と勉強させてもらおうと思ってます」


「お、おう。最初恭弥さんからスコアのことを聞いた時はビビったが、まぐれだったんだろ?」


「はい。自分では持ち得ないスキル群でしたので、ビギナーズラックを頂きました」


「だよな! だと思った。俺は幹二。今日から幹二さんて呼べよ海斗」


「はい、幹二さん。お世話になります」


「よーし、俺らにもとうとう後輩ができたな。時代がようやく追いついたか?」


 挨拶をして軽く雑談。ヨイショをしたら簡単に乗ってくれた。

 これがAクラス生だったら周囲の人間が余計な入れ知恵を入れて居ただろうが。ここは外の世界。

 ギルドという共同体。

 失敗のツケはトップの顔に泥を塗る。

 学園のような他者を排斥する真似はそうそう出来ないだろう。


 俺の仕事は翌日からとなった。

 ライセンスの配布は二週間後。

 それまで暇なので丁度いいか。

 能力でサポートしながら調子を上げさせるのもいいだろう。

 今は自分の立ち位置を確立させることが最優先だよな。


 ◇


「で、向かう先がFランクダンジョンですか? せっかくお二人はDなんですからD行きましょうよ、D。Fなら俺だって倒せますよ?」


「バッカお前。なんもわかっちゃいねーな。同程度のモンスター相手には無双できねーだろ? 俺たちはプロだからな、失敗は出来ないんだよ」


 幹二さんが名言のように言う。けどそれって新人を前にいい格好したいだけじゃないのか?


「まぁ学園と違ってこっちは早い者勝ちだからな。Dランク帯は他のギルドも多く居るし混むんだよ。こっちなら空いてるしまず失敗しない。小遣い稼ぐのにも丁度いいってな?」


 三雄さんの言い分の方が正しいようだ。

 ようは競争相手に喧嘩を売らないように穏便に過ごしたいってところか?

 彼らはAクラス生だったらしいが、まさか同級生の上位席者に因縁つけられてるのを恐れてるのかもしれない。

 自分より格下相手にしかイキがれない哀れな闘争本能が垣間見えた。上に上がってもそんな態度じゃプロになっても底が知れてるいいお手本が彼らか。

 恭弥さんも粋な采配をするもんだ。


「成る程、それなら仕方ないですね。先輩の活躍を参考にさせてもらいます」


「おー、どんどん参考にしていいぞ?」


 チョロい上に根っからの悪人じゃないのが高ポイントだな。

 うちの学年のAクラス生にも見習わせたいよ。

 初手言いがかりからの暴力。敵わないなら騒ぎ立てて風評被害で追い込むからな。

 逆に先輩達は社会に出て学園でAクラスが如何に井の中の蛙であるかを思い知った分、会話が可能だ。

 人って苦労しないとどんどん傲慢になるから困るよな。


 ──探索開始から十数分後。

 先輩は景気良く進むが、スライムやコボルドのドロップ品には目もくれない。

 信じられない光景に思わず口を出す。


「先輩、これは拾っていかなくても良いんですか?」


「そんなのちまちま拾ってたんじゃ時間が幾つあっても足んねーや。欲しいならやるぞ?」


「あ、じゃあ俺貰っちゃいますね。ゴチになりまーす」


「幹二、海斗はFだったんだ。こんなものでもTPにしないとやってけないんだよ。俺たちとは違ってな」


 三雄パイセンが注釈を入れ、コアを大切なもののように拾う俺を不思議そうに見つめる幹二パイセンを宥めている。

 そうそう、マジでそうなのよ。

 でもこれは別に換金しませんけどね?

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