第24話 異端すぎる能力者(秋津恭弥)

「で、最初はスライムから始めるんだっけ?」


「ああ、いや。あれはみんなを誤解させる解釈です。基点は俺が殺せるモンスターがスタートですね」


「随分と難易度が高いな? 攻撃手段はモンスターありきの才能だろう?」


「一応裏技もあるんですけど。あ、ナイフとかあります? できれば貸してもらえると助かるんですが」


 今手持ちがないので、と両手を広げる。

 着のみ着のまま出てきたようだ。


「借金でいいか?」


「そっちの方が安心できますね。借りると返さなきゃいけなくなりますので──イクイップ」


 フォン、と小僧がマチェットを軽く横に振るうと、武器が呼応するように光った。

 まるで使用者登録をするような手並み。装備一つ取っても手慣れてる。動きから素人臭さは見れない。本当にこいつがFクラスなのかよと実物を見ても不明だ。

 なんなら出来るAクラス生のような振る舞いである。


「さて、まずはあいつを始末しますか。見ててください」


 そう言って指し示したのはCランクモンスターのマンドラゴラ。

 しかし小僧が行ったのは穴掘りで。

 穴をマンドラゴラに繋げると、何処からか赤い液体の入った瓶を取り出して開封。それを穴に流し込んだ。

 マンドラゴラは埋まってるところに近づかない限り飛び出してくることも叫ぶこともない比較的倒しやすいモンスター。

 しかし小僧の攻略法は奇抜で。


「─────!!」


 物理的に声を封じて頭からマチェットを付き刺すと言う簡単極まる討伐法だった。


「あの瓶の中身はなんなんだ?」


「レッドスライムです。アイツの強酸で喉を物理的に焼きました。テイム。よし、完了です。ここからは乱獲していきますね。あ、耳栓入ります?」


 小僧のやることがわかったので拝借し、お手並みを拝見。

 わかりやすいくらいに傍若無人な戦略だった。

 それはマンドラゴラに叫ばせての自爆特攻。

 アイツは叫ぶと自分の声で絶命するからな。

 でも通用するのは同ランク、同グレード以下に限る。


「お前は喰らっても死なねーのな?」


「ははは、いちいち死んでたらテイマーなんて出来ませんよ。あとは一度下剋上で討伐したモンスターは仮契約で使役できます。そいつで下剋上を果たす裏技もありますが、その前に強化しちゃいましょう」


「強化?」


「ダンジョンテイマーは同種モンスターを10体使役出来る様になると強化が可能になります。この強化の効果は実際に見て貰えばわかりますね。強化っと」


 おや、マンドラゴラの様子が変化したぞ?

 現れたのは上位モンスターのドライアドだ。

 下位精霊が中位精霊にグレードアップしたのか?

 それが可能だとしたら。


「……やばいな、ダンジョンテイマー」


 稼ぎ放題になる。

 このドライアドって奴は見つける方が厄介で、パーティで見つけたら奪い合いになるほどの人気。

 絶賛絶滅危惧種認定を受けている。

 それを任意で増やせるとかどう考えてもやばい。


「でしょう? こいつの落とす“命の雫”がTPの収入源でした。こいつをそこらへんで仮契約したモンスターに倒させてドロップをゲット。再度テイムするにはさっきの方法で討伐する感じですね。まぁ手間なんで準備が必要です」


「さっきのレッドスライムか?」


「それと魔封じの瓶ですね。売っちゃえば元は取れますが、Fクラスの換算レートは微妙なんで売る時は纏めてでした」


「2000万が100万になるもんな、Fクラス」


「あ、ご存じでした? そうなんですよ。まぁ稼ぎ方を知ってれば俺の才能の右に出る人は居ないでしょうが」


「いや、それ以上にモンスターに対する攻略法が意外でな」


「それに関しては実際に使役して得意分野と苦手分野を洗い出してますから。見ます? メモ帳」


 またもや異空間から取り出したメモ帳を見せてくる。

 こいつ絶対アーティファクト複数所持してるだろ!

 だが、なんとなしに開いたメモ帳の中にはそれ以上のお宝がゴロゴロ眠っていた。


 既存のモンスターの他に強化させることでしか見えてこないモンスターの弱点や傾向、習性などが記載されている。

 主に使役してみた観点が主体だが、探索者が欲しい情報が複数書き込みされていた。


「お前、このメモ帳単体で値がつくぞ?」


「流石に自分の飯の種を売り渡したりしませんよ。それにこれはまだ途中ですから、売れるとしても恥ずかしくて世に出せません」


 本音なのか建前なのか、小僧は照れながら能力を披露した。

 その結果、能力評価どころか手土産まで持たされる始末。

 こいつ本当にヤバいな。ポンと数千万稼いで貢ぐだけある。

 しかも一回の探索でだ。

 異常性が抜きん出ている。

 それでいてこの低姿勢。

 周囲が勘違いするのもわかると言うもの。


「散歩感覚で5000万稼ぐ奴があるか!」


 何故か2000万だと思ってた命の雫が3000万に高騰していたので予想以上のTPになった。

 本人的にはキッカリ4000万を狙ったと恐ろしいことを言いやがる。

 どれだけお宝の換算値を正確に把握してやがんだ?


「能力の売り込みをするにはこれ以上ないくらいのパフォーマンスだと自負していますよ」


「昼食を牛丼でケチった俺が安く見られらぁ。晩飯には早いがステーキでも食いに行くか?」


「ゴチになりまーす」


「お前の稼ぎだろうに」


「俺は蓄積させるライセンスを持ちませんので、支払いは恭弥さんですよ?」


「そりゃそうだが、はぁこりゃ世話が焼ける奴だ」


 その上でダンジョン外の能力は軒並み低いときてる。

 俺と勝也が贔屓すればそれだけメンバーからの軋轢が生じるってか?

 なんて厄介な奴なんだ。



 ◇



 小僧にはギルドメンバー専用の社宅を一部屋貸してやり、そこでひとまず暮らしてもらうことにした。

 そして俺は勝也に今日の出来事を語る。


「噂のニュービーはどうだった?」


「期待以上だ。学園側が結託して飼い殺すのも無理はない。厄介すぎる能力者だ」


「そんなにか?」


「こいつをみてみろ」


 俺は自分のライセンスを放って投げる。

 それを受け取った勝也が蓄積TPの新規メニュー、今日の稼ぎをみて目を見開く。


「今日の今日でこれか?」


「散歩感覚でその額だ。ただそれよりもヤバいのがモンスターに対する考察だな。アイツの才能はそっちを生かすのに特化してる。いや、逆もまた然り。生かすも殺すも自在ときた。まさに天才。いや、天災の方かも知れねぇな」


「お前でも手に余ると?」


「アイツは誰かの下につく奴じゃねぇよ。今はライセンス欲しさに下手に出てくれてるが、取った後は勝手に上に行く。そんな奴だ」


「そうか。これは妹と新たに交わした約束だが……」


「彼女はなんと?」


「すぐに追いつくのでどこかに行かないように引き留めておいて欲しいと」


「また安請け合いを」


 無理だろ、今日の今日でこれだぞ?

 Fクラスで5000万稼ぐのを俺たちは甘く見ていたのかもしれないな。様子見でCランクダンジョンに連れてっても余裕で対処しやがるし。

 こりゃ、Aクラスモンスターすら余裕で対処しそうだ。

 Aクラスなんて学園のダンジョンにのに、できてしまいそうな凄みを感じさせる。


「例の生徒がこんな特大級の爆弾だって知ってたら引き受けなかったよ」


「だが、引き受けた以上はやらなくちゃいけない。俺たちはプロだからな?」


「その通りだ。その為にもギルドメンバーにも情報拡散を徹底するぞ。恭弥、お前にも働いてもらうからな?」


「えー、今日の今日でかよ?」


「一体誰がこんな案件を持ってきたんだろうなぁ?」


 ゲームセンターの時も、引き取りに行った今も。

 その中心に俺がいたからって酷い八つ当たりである。

 だが、心情もわからんではない。


「ボーナスは期待しとくぜ?」


「生憎とウチは出来高制なんだ」


「世知辛い業界だよ」


「全くだ」


 会話を短く打ち切り、俺たちはそれぞれの仕事に取り掛かった。

 さぁて、忙しくなるぞ。

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