第26話 ウロボロスの眼光

 階層が進んでくると、パイセン達は装備を整える。

 出現モンスターがFからEに変わったからだ。


 D→Fに与えるダメージは1.5倍。

 しかしランクが上がってD→Eに上がると1.25倍とダメージ量が下がる。

 100%通じる時点で十分だが、この人達は無双をしにここにきてるので中途半端に仕留めそこねると気分が悪くなるのかもしれないな。

 そこで俺はサポートに入る。

 投石をしてモンスターの気を俺の方に逸らし、武技発動の硬直時間を稼ぐ。


「海斗、助かる!」


「スラッシュ! 光となれ!」


 勿論光=消滅を意味する。

 一撃で死んでくれと言う祈りを込めての攻撃だ。

 クリティカル時に一瞬光る意味も入ってるのかもね。


 幹二パイセンが撃ち漏らしても三雄パイセンが構えているので釣る数が一匹ならそうそう逃げ惑うことはない。


 ただEランクは敵意がチェインするモンスターが多く、一匹釣るのにダメージを与える能力は厳禁だ。


「先輩、一息入れましょう。スポーツドリンクです。俺の特別製ですよ」


「ただのスポドリだろ? って、おい。消費された武技回数が回復したんだが!」


「何! マジじゃん! 魔法回数まで回復したぞ。これ原料なんだ?」


「企業秘密です。って言いたいところですが、実はさっきドロップしたFランクモンスターの素材を組み合わせて作ってます。配合は秘匿させてもらいますが、ご贔屓にして貰えばお替わりも差し上げますよ?」


「く、恭弥さんができる奴だって言うだけあるか。しかしこんなの学園の授業じゃ習わなかったぞ?」


「僕はFクラスでしたので。なんでも口に入れて検証した結果ですよ。空腹を満たすのにスライムコアを食べたりしたり、あの時は厳しかったなぁ」


「あぁ、Fって貧乏だもんな。俺らは親が金出してくれたから贅沢できてたんだって今になって思うわ」


「ほんとほんと。そろそろ引き返すかなって思ってたけど、これがあるならもうちょっと進めるかな?」


「だな。ドロップ拾いは任せて良いか?」


「それが仕事ですからね。期待しててください。空腹解消と消耗した体力の回復、色々バリエーションがあるんです」


 パイセン達が頷き合う。

 その日は陽が傾くまでFランクダンジョンで過ごした。


「いやぁ、あんなに効率が上がるもんだとはな」


「海斗のサポートがうまく回ったよな。欲しいタイミングでモンスターの気を逸らしてくれるから無駄打ちがなくなるのが嬉しいよ」


「差し出されるスポドリも市販のより美味いしな!」


「それもあるけど、それ以上にこの総額TPだよ」


 パイセン達は総額を見上げて口を大きく上げている。

 Fランクダンジョンだと、無双前提で稼げても日に5万。

 けど今日だけで50万。山分けでも25万。

 普段の十倍である。三人で分けても18万。

 日給で考えれば破格だ。


「本当に海斗はTP受け取らなくて良いのか? 正直俺らじゃここまで稼げなかったぞ?」


「実はまだライセンスの受け取りをしてないので。儲かったと思ったら晩飯奢ってくれたら嬉しいです」


「奢る奢る。美味い焼き鳥屋知ってるんだ」


「あ、俺まだ16なんで居酒屋は……」


「っと、高校生だったな。つっても俺らも最近飲めるようになったばっかだ。フランチャイズのレストランでいいか?」


 俺たちは近場のレストランに向かった。

 メニューを見ながらそれぞれが口を開く。


「肉食おうぜ、肉。初日でこれなら数日はのんびり暮らせるぞ?」


「そういやギルド社宅の月謝はどれぐらいなんです? あ、俺チキン南蛮頼んでいいっすか?」


「そんなケチケチしなくたっていいのによ。でも月謝か、そういや俺ら払ったことねーな?」


 ギルドで管理してると言っても、まさか無料で住まわせてくれるわけでもあるまい。

 それとも昨日の稼ぎで数カ月分は持つのか?

 何人いるかはわからんが、まだまだ貢献しておく必要がありそうだ。


「だなぁ。物になるまでは世話してくれるって世話になりっぱなしだ」


「いいギルドですね」


「ああ。でも新進気鋭だからか古参のギルドから舐められるんだよ。俺らがもっと強ければ見返してやれるのにさ」


 あの時Dランクダンジョンに向かえなかった理由はここにあるのか?

 ギルド同士の衝突か。同級生の因縁でなく、そっちなら手段を選ばないだろうな。それは厄介だ。でも恭弥さんはランク高かったよな?

 ケンカ売ってきて報復は考えないのか?


「でもAランクだと聞きましたよ?」


「恭弥さんや勝也さんはな。ギルドランクはまだCなんだ。TPの総額でなら文句言えないくらいの稼ぎなんだけど、ギルドを立ち上げてからの総額が低くてさ。ランクは低くても人数が多いところはコネがあるのか横暴でさ、参るぜ」


「例のダンジョンが混むってやつですか?」


「そうそう、あれについては封鎖に近いよな。今日は貸切だーって。別にお前らの私有地じゃねーのに幅利かせて嫌になるよ」


 成る程なー。そう言う面倒な連中がいるのね。


「じゃあ当分はFで時間稼ぎですか?」


「向こうの連中からしてもこんなに稼げるってわかったら黙っちゃいなそうだけどな」


「いや、人数揃えたら取り分低くなるからこの稼ぎは無理っしょ」


「ほぼ海斗のおかげだけどな。デザートも頼んでいいぞ?」


「ゴチになりまーす」


 その日はそれで上がりとなり、翌日はフリーとなった。

 早朝から恭弥さんがチャイムを連打して起こされる。

 なんてメンバーの扱いが酷いギルドだ。

 昨日は良いギルドと言ったが早速撤回させてもらおう。

 

「海斗、ライセンス貰いに行くぞ!」


 あれ? それ時間がかかるって話じゃ。


「受け取りは二週間後じゃないでしたっけ?」


「金を積んで急がせた。お前の噂、出回ってるぜ?」


「噂、ですか?」


「幹二と三雄の羽振りが良いと出回ってる。一緒にいた見知らぬお前がフリーなら受け取りたいと指名が出てる。だからウチが既に唾つけてるって他のギルドに見せつけるんだ。ウチのギルド員であると触れ回れば下手なギルドは手を出してこないだろうからな。フリーならどこが手に入れようと勝手なんだ。全く、お前という奴は。あれ程本気は出すなって言ったよな?」


 いや、これっぽっちも本気は出してない。

 だいたい昨日の今日だぞ? しかもまだ朝だ。

 あれから何時間も経ってない。どれだけ嫉妬に塗れてるんだ、この業界?

 揃いも揃って僻み根性丸出しすぎやしないか?


「……上位ギルドからは?」


「ケチな稼ぎに興味は持たんだろ。ただ、お前が本気を出せば動くから気をつけろ」


「了解」


 ライセンスの取得は探索者協会で。

 ギルド員の登録はダンジョン協会でそれぞれ行われた。

 そこへゾロゾロとメンバーを引き連れた女性が現れる。

 嫌な雰囲気だ。もしかして例のクレームをつけてきたギルドがアレか?

 なにやら会話が通じなさそうなオーラを纏っている。

 激しくお付き合いを遠慮させてもらいたい限りだ。


「チッ、随分と目敏いね。早すぎる男は嫌われるよ?」


「誰が早漏だボケ。こいつは既にウチのギルド員だよ。三雄と幹二が一緒にいる時点でわかるだろうが!」


「でも折半はしてないようだった。手に入れるなら今だと思った。そう勘繰られてもおかしくない事実は認めるのね?」


「そう言う狡っからいことしてるから嫌われるんだぜ? お前」


「お知り合いですか?」


「学園の同級生だよ。獅童朱音。やり手のDランクギルド『ウロボロス』のマスターだ」


「同級生という事は、Aクラス生ですか?」


「なんだい、随分とクラスを気にする子だねぇ。そんなに上位クラスは珍しいかい?」


「そりゃコイツは才能の覚醒が出来ずに学園を自主退学してるからな」


「ふぅん、それでもサポートには向いているのならウチにも欲しいわ。昔のよしみで譲ってくれたりなんて?」


「悪いがこいつは相棒のお気に入りなんだ。お前の頼みでも譲れねえな」


「交渉決裂、かしら?」


「初めから横取りする気満々で交渉する気もねぇ癖によく言うぜ」


「ふふふ。私、非常に諦めが悪いのよ。坊や、人気の少ない場所では気をつけることね?」


「坊主、今日はダンジョンに潜るのやめとけよ? こわーいお姉さんが監視してるかもしれないからな」


 獅童さんは妖艶な笑みを浮かべてメンバーを引き連れて出ていった。恭弥さんは会いたくない顔に会ってしまったと大きなため息を吐いて釘を刺してくる。


 ヨシ、早速今日潜るか!

 どうせ絡まれるんなら遅かれ早かれだ!

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