第22話 旅立ちの日

 そうして俺は首席と次席を除くAクラス生との決闘を受けた。


「試合になるかなぁ?」


「いやぁわからんぜ。六濃君は表じゃ攻撃手段ないし」


「判定役もAクラス?」


「何がなんでも追い出す気だな」


「六濃君を追い出したって彼女達が自分達のものになるわけでもないのにね?」


「言ってやるなよ木下君。彼らにも意地があるのさ」


「その意地、きっと犬も食わないやつだよ、秋庭君」


「言えてる」


 かつての旧友達がAクラス生を見てそんな評価を下している。

 彼らからみてもその程度なのだろう。

 才能の質と言ってもこの程度だ。

 Dクラスモンスターとどっこいどっこいか?

 矢先、殺す気で放たれた矢が、頭に向けて放たれる。

 それを余裕をもって避けると非難する声が上がった。


「こら! 逃げるな!」


「受けてもいいが、自信を無くすのはそちらだぞ?」


「ええい、忌々しい奴め!」


 無詠唱での魔法行使。高熱を纏ったバレットだ。

 フレイムバレットだろうか? ランス系より火力は劣るが、バレット系の利点はその同時発動できる限界の多さにある。

 周囲に十数本。それが少し遅れて雪崩れ込んでくる。

 流石腐ってもAクラス生。

 しかし……そいつを片手で塞いで払ってやると驚愕に目を見開いた。


「なっ! 馬鹿な、完璧に不意をついたのに!」


「魔法の詠唱がなくたって、光が目立っていけないね。薄暗いダンジョンじゃまる目立ちだよ? 四階層ではさぞ苦労するだろう?」


 足払いで体勢を崩し、そこへバットを振り下ろす。

 釘付きのバットだが、Aクラス生にFクラス生へのダメージ判定ではダメージは通るまい。

 だが、それを力一杯振るうことでも与えるダメージ法もある。


 精神ダメージとかな?


「うわぁああああ!」


「金里君! この!」


 足元から石槍が俺を狙って這い出る。


「おっとっと」


 お陰でトドメを刺し損ねたが、まぁ別にいいか。

 才能の有無がここでは高く評価される。

 俺の戦いは探索者らしくないと碌な判定を貰えないだろう。


 俺が一人で戦っているというのは差し置いて、Aクラス生が全員でかかっても五分、息一つ見出すこともできない俺に何を思うんだろうね。


「しっかりしろーAクラス! いつも威張り散らしてる横柄な態度はどこ行ったー!」


 Bクラス生上位の木下君がAクラス生に発破をかける。


「外野は黙ってろ!」


 俺一人に敵わないのに、外野に余裕かましていていいのかね?

 足払いで転ばして、再度バットで恐怖を刻む。

 向こうの短剣やら宝刀など付与付き武器に比べれば殺傷力はないに等しい。


「死ねぇ!」


 随分な過激な言葉と共に差し込まれるナイフ。

 腰の入った良い突きだ。

 でも、俺にはダメージ無効<A>がある。


「……なんで、通らないの?」


 当然、その刃が俺の肉体に突き刺さることはなかった。


「なんでだろうね?」


「反則よ! そいつは今反則をしたわ!」


 一人の魔法帽を被った女子が不躾に俺を指差した。


「具体的にはどんな?」


「状態異常魔法をかけたのに弾かれたの! 魔道具を持ってるに違いないわ!」


 ふむ。確かにそう取れるだろうね。

 でもどうしてそれが反則になるの?

 持ってたらダメなんてルールはないよね?

 しかし持っていたとしても、どうやって手に入れたのか?

 説明出来ないくせに反則で通そうとする浅はかさ。

 審判までグルだからこそ出来る判定狙いか?

 一応弁明はさせてもらおうか。


「え、どうやって? 僕はFクラス生で弱くて雑魚なのにダンジョンで生きていけるとでも? その上でポイントだって低いよね? 奨学金枠の僕がどうやってそんなお高い装備を買えると思うのさ?」


「そ、それは! そうよ、御堂さんを脅してTPを奪ったに違いないわ!」


 また無茶な事を。じゃあどうやって脅すのか教えてくれって話だよね。


「だってさ。そうなの、御堂さん?」


「あり得ません。そもそもFクラス生相手に状態異常魔法を使って弾かれたからと文句を言うのは筋違いですよ? 忘れた訳ではないでしょう、上位クラス生は下位クラス生に勝って当たり前なのです。なぜこうも抵抗されているのです。これでは関東のAクラス生は間抜け揃いだと下位クラス生、引いては全国のライバル達に吹聴しているものですよ? 決闘を仕掛けたのはあなた方。これ以上無様を晒して私を失望ささせないでください」


「あの御堂さんが私達にこんな事を言うなんて!」


「あり得ない!」


「きっとあいつに洗脳されてるのよ!」


「そうに違いない!」


「いい加減御堂さんを解放しろ!」


「「や、め、ろ! 学園や、め、ろ!」」


「「学園から出ていけー!」」


「「周王学園の面汚しめー!!」」


 その後実力で一切勝てないからと大声で叫んで辞めろコール。

 判定までもが自分の仕事を放棄しちゃったよ。

 俺はその場で肩を竦め、こんな状態になっても自分たちの非を認めないAクラス生に対して相手にするのも馬鹿らしくなった。


「つー事で、俺はもう出て行くことにするわ。Fクラス生がいなくなったら困るのは学園だから、誰かがFクラスに行くか、今ここで不祥事やらかした全員が行くこともあるか? 最後に佐咲さん」


「何?」


「後から手違いでしたと言われても困るからこれ渡しとくな?」


「もう既に出て行く準備は済ませていたのね? 一体どこまで見据えて行動しているのやら」


 それだけ言って学園を後にした。

 御堂さんに例のゲームセンターで暇を潰すとだけメッセージで送る。後はお兄さんの手のものが俺を拾ってくれるかもしれない。

 くれないかも知れない。

 一応二、三日食ってくお金は持ってきてるが、急だったからな。

 用意が少ない。

 生徒手帳もつっかえしたからTPでの買い物はできないし、これで俺は根無し草。拾ってもらえなきゃの垂れ死ぬ運命。


 例のゲーム、ダンジョンエクスプローラーと言ったか。

 それを今度は本気で遊んでいると、なにやら外が騒がしくなった。

 なにやら有名人のお出ましらしい。


「早速注目浴びてんな、MNO君? 迎えに来たぜ」


 またも時間内に終わらせて終了。


「最後までやってかないんだ?」


「まーた変なのに絡まれても嫌なんで」


 迎えにきてくれたのはチャラそうな兄ちゃんだった。

 秋津恭弥と名乗ったその男は、凛華のお兄さんの相棒だと言う。

 DEではATMというネームで登録しているらしい。

 ランキング五位にいたのに俺のせいで六位に落ちたとかで恨み節を聞かされた。

 これ、最後までやってたら絶対怒られるやつじゃん。

 最後までやらずに終わらせた俺を褒めてやりたい。


「相棒から聞いてるぜ? 能力はあるが目立つのは得意ではないと」


「色々あるんですよ、こっちにも。とりあえず親戚に僻み根性ばっかり強い探索者がいるんで」


「稼いだら稼ぐだけ金持ってかれんだって?」


「ええ、俺の都合に妹は巻き込ませたくないんで御堂さんに預かってもらってます」


「大金渡したそうじゃねーか。妹ちゃん震え上がってなかったか?」


「もっと大金を渡してるので気にしてくれないことを祈ります。それに人一人預けるのにタダでお願いは出来ないでしょ」


「そりゃそうだ。人は生きてるだけで金のかかる生き物だ。先立つものさえあればなんとかなる」


「ええ」


「ところで昼飯は食ったか?」


「実は食う前だったんですよね。奢ってくれたらありがたいっす」


「お前ならすぐ稼げんだろうよ?」


「生徒手帳突っ返してきたから今金ないんすよ」


「あー、まずそっちから手配するべきか。取り敢えず役職決まるまでは見習いでいいか?」


「バイトでもなんでもいいっす。俺の能力については御堂さんから?」


「一応は聞いてる。ダンジョンに入らない限り無能君だって?」


「どっちとも取ってくれて良いですよ。苗字は六濃ですし」


「おもしれー奴だな。よし、飯は牛丼でいいか?」


「奢りならもっと高い奴食いたいっすね」


「お前、遠慮を知らねーと先輩達にドヤされるぜ?」


「まぁ今はなんでも食えたらいいですね」


「そういうとこ、好きだぜ?」


「その言葉は可愛い女の子からの方が嬉しいです」


「言ってろ!」


 秋津さんとは話が良く合った。

 21と聞いていた時は話が合わなかったらどうしようかと思ったが、まだ学生気分なのか趣味が似ているのだ。


 だからって飯食って最初に行くところがダンジョンかよって。


「ライセンスの仮免が先じゃないんですか?」


「申請してから時間かかるんだよ、アレ。お前は荷物持ちのポーターとして連れてくから、それでも許可が出るのは二週間後だな。今日は能力調査だ。お試しって事でランクはCで良いよな?」


「新人を最初に連れてくところじゃないでしょ」


「御堂の妹ちゃんもソロでクリアしてるし、ヘーキヘーキ」


 この人の平気の基準、一体どうなってんだ?

 まぁ、死にはしないだろうけど。この人とコンビ組んでるお兄さんの気苦労が嫌でも伝わってくるようだ。

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