第11話 トップランカーの影(御堂勝也)

 俺は妹から正体を隠してる同学年の生徒がいるとSOS信号を受け取り、秘密裏に調査を進めていた。

 が、正直調査は難航していた。


 妹の言う通り、同級生のAクラスにまともな人材はいない。

 なんだったらBクラス、Cクラス生の方が上に行くのに貪欲だ。

 そういう教えなのだろうが、この学年においておかしな点はいくつかあった。


 A〜Fクラスは才能の優劣をつける為に序列が敷かれている。

 入学時はきちんと分散していたようだが、一学期終了時を間近にBクラス、Cクラス生が異様にたくさん増えたのだ。

 俺の時代にはまずない顕著な点がここである。

 なんならDクラス、Eクラスに全く一人もおらず、Fクラスに至っては一人しかいない始末。


 これは怪しいとたった1人残ってるはずのFクラス生に詰問に行くが、いつも不在。

 同級生も存在しないので手がかりはそこで途切れていた。

 ますます怪しい。でも捕まらない。そんな日々が数日続く。

 卒業生でAランクの探索者だろうと学園内でそこまでの権限はない。

 あくまでOBとして学園内を歩く許可をもらえた程度だ。業務の邪魔などできるはずもない。


 そんな捜査に難航してる時、ゲームセンターに面白いやつがいると言う情報を恭弥から受け取った。

 秋津恭弥、俺と同じくこの学園のOBで、そして一緒にギルドを立ち上げた同志。

 親父のギルドから真っ向から対抗し、人材をモノ扱いする業務から妹を退けるために作った居場所だった。


 そんな事業責任者からの誘いにダメ元で乗ってみる。

 他愛もない息抜き程度の情報だろうが、今はどんな情報でも欲しかった。


 ゲームセンターに着くと揃いも揃って覇気のない顔をしている連中が出迎える。

 所詮遊びにムキになってる連中。多少毛色の違う奴がいたって目を見張る程のものじゃないだろうに。

 だが、俺の登場を他所に何かのデータに群がる人垣。

 それこそが恭弥の言う面白いやつのデータなのだろう。


 そのゲームは未来の探索者発掘のために本物の情報が入っている。

 モンスターの動きだったり、魔法の発動などの基礎情報がありありと記載されているのだ。

 しかしゲームはゲーム。ご都合主義のオンパレード。

 宝箱から魔法のスクロール(読めば瞬時に覚えて使い倒せる)が手に入ったり、そこら辺が現実準拠ではない。

 スキルばかりは才能に覚醒して、その職業の中で覚えるものだ。

 都合よく手に入れられるものじゃない。


 だと言うのにそいつは使って見せていた。

 ランキングトップのプレイヤーネームには英字三桁でこう書かれている。


 MNO


 エムエヌオー?

 何かの団体名だろうか?

 そして人だかりの元に目を向ければそこは例のプレイヤーが残したプレイデータが残されていた。

 それをまじまじ見つめる俺にかけられる声。


「どうだ、現役の探索者からみても面白い奴だろう?」


「恭弥か。お前はこいつをどう見る?」


「欲しいね、凄く欲しい。こいつの見識眼は俺らに足りないものだ。こいつが入ってくればさらに上を目指せる。そんな確信がある」


「俺も同意見だ。でも相手の素性もわからんのだろう?」


「いや、特定は可能だ」


「なに?」


「そいつ、周王学園の制服を着てたらしいぜ? MNO。このイニシャルに該当する奴を探せ、勝也。マスター命令だ」


「俺とお前で共同マスターだろ。働かないくせして命令だけは一丁前だな?」


「ヌハハ! そうお堅いこと言いなさんなって。お前の妹ちゃんも来るんだ。地盤固めくらいはしときたいだろ?」


「まぁな探索者協会のお偉方相手に戦果を持ち帰るのもギルドの務めか」


「そうそう、せっかくAランク探索者になれたんだぜ? 方々に恩着せて名前売ってこうぜ勝也?」


「お前は懲りない奴だな。まぁ妹からの依頼もある。そっちと並行して取り掛かるとするか」


「妹ちゃんの? でも確かお前の妹ちゃんって……」


 何を想像したのか鼻の下を伸ばしている。

 やはりコイツ、一度絞めておくか?


「どんな依頼を受けたんだ?」


 気を取り直して質問。まぁいい、今はこんな奴でも頼らなけりゃほしい情報は得られないからな。


「自分よりすごい奴が学年内に隠れてる。俺にそいつを探し出して欲しいんだと」


「え、でもお前の妹ちゃん学年トップだろ、あの実力なら」


「実はポイントランキングで一人頭のおかしいポイントを取り続けてる奴がいるらしいんだ」


「妹ちゃんを差し押さえての一位? どれくらいだ?」


「聞いた時は540万と」


「一学期でか?」


「いや、一学期の途中でだ」


「踏破したにしちゃ少ないな。もしかして、クラスが低いのか?」


 恭弥の言葉に俺は眉を顰める。


「一人、怪しい動きをしてるFクラス生が居るらしい。俺はずっとAクラス生だったから詳しくないんだが、クラスが違うと儲けは変わるのか?」


「そりゃ変わるだろ。俺はCクラスからスタートだったから、あの違いは頭を抱えたぜ? CクラスとAクラスの違いは実に二倍、Aクラスの交換レートの半分だ」


「だが、妹はA〜Eにはいないと言った。もしFだったら?」


「Fか〜、俺もFクラスの話は噂でしか聞いたことしかないんだが、相当絞られてるって聞くぜ? ただでさえEクラス以上の生徒からサンドバッグ扱い。才能を持たない奴が学園の敷居を跨ぐんじゃねぇよと散々な目に合って自主退学が主だな。俺だったら一週間もせず辞めてるな。残ったって寿命を縮めるだけだし」


「そのFクラス生は一人を残して全員がCクラスに上がったと聞く」


「あん? Fクラス生がか?」


「ああ、Aクラス以外の編入回数が恐ろしいくらいに変わってDクラスとEクラスが消滅する勢いだ」


「そのFクラス生は?」


「不動でそのクラスに居座ってるそうだ」


「ますます持って怪しいな。俺からもFクラスの情報を仕入れとく。それとゲームの掲示板で情報拡散しとくわ。もしそいつが妹ちゃんの頭痛の種なら兄貴分としては取り除かなくちゃだろ?」


「妹の敵となるなら、だが。現状はTPの上位に居るだけだ。それで価値が下がるほど俺の妹は安くないぞ?」


「へいへい、シスコン兄貴は相変わらずだねーっと」


 恭弥がヘラヘラしながら手を振った。

 態度は悪いが、頼るになる奴だ。


 さて、俺も引き続き学校の調査をしよう。

 教員から何か引き出せればいいが。

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