第12話 全国の強者が注目する存在

 ダンジョンエクスプローラー、通称DE。

 在野に眠るであろう一般人から探索者を拾い上げるべく開発されたダンジョン探索型ゲーム。

 全国のゲーム店舗でネット配信され、ランキングこそ店舗内にしか反映されないが、店舗毎にトップランキングをダンジョン協会に発表する義務があった。


 それによって更新された全国スコア。

 DE好きの一部のプロも当然その中に名を連ねており、そこに新しく刻まれたネームにプレイヤーの特定を急ぐべく議論が加熱していた。



【記録更新?】DE雑談板#505【関東エリア新人登場?】


0189.神戸のHDDさん

 だぁ、くそ! トップテン落ち!

 誰だよ、俺を追い落とした野郎はよ!


0190.愛媛のMKMさん

 どんまい、HDDさん


0191.鎌倉のPPRさん

 うわ、それ悔しい奴!

 HDDさん頑張ってましたもんね


0192.奈良のSIKさん

 あれ? HDDさんってプロじゃなかったっけ


0193.東京のSSMさん

 関東エリアって事はAランクの御堂さん居るでしょ?

 あの人が参加するとは思えないけど、ランキング入るって言ったら

 その可能性がワンチャン


0194.神戸のHDDさん

 AランクがDEに出張ってくんじゃねーよ!

 俺だってランクさえ上がりゃあよぉ……


0195.三重のKRNさん

 いやぁ、上位ランカーの一人はその御堂さんの相棒だから

 余裕のAランクです

 ダンジョンで会ったことあるけどDEやってるって言ってたよ


0196.東京のSSMさん

 草

 そりゃ抜けねーわ

 でもプロが出張ってきたら俺ら活躍できねーじゃんよ


0197.東京のATMさん

 その事だけど、どうやらランキング入りしたのは周王学園生っぽいんだ

 誰か心当たりある奴おる?

 

0198.三重のKRNさん

 あ、ご本人登場!

 ATM君ちっすちっす


0199.東京のCRMさん

 俺も学園通ってるので俺の方からも探してみます


0200.神戸のHDDさん

 俺の妹も関西の学園居るからそっちからも聞いてみっか


0201.群馬のNMHさん

 妹に頼る時点でクソ兄貴確定!


0202.沖縄のHSSさん

 あれ? HDDさんて確か女性じゃ?

 俺っ子という新しいジャンルを築いたお方

 Bランクのニュービーだぞ


0203.神戸のHDDさん

 誰が俺の情報晒せってつったよ!

 あ!?

 あと誰が妹より下だって?

 ヤキ入れられてーのか、コラ!


0204.沖縄のHSSさん

 ひえー、すんません姉御!

 

0205.東京のATMさん

 実は今年入った一年坊にポイント荒稼ぎしてる奴がいるらしい

 御堂の妹ちゃんの同期って事で今のところ注目は妹ちゃんに向かってるが本人から否定の言葉が入っているとの事だ

 これは相棒からの情報な?


0206.東京のCRMさん

 え、一年の御堂っつったら学年トップのやべー子じゃん

 俺ファンなんです

 サイン貰えませんか?


0207.東京のATMさん

 それ、俺の相棒のブチ切れ案件だけど一応伝えとく?


0208.三重のKRNさん

 容赦なくて草

 御堂さんていえば獄炎の覇者として全国の探索者ランキング4位の人ですよね?


0209.北海道のTRSさん

 そういうKRNさんは探索者のトップなんだよなぁ

 なんでここに居んのっていつも思う


0210.群馬のNMHさん

 意外とプロ居るよな、ここ


0211.東京のATMさん

 そりゃ、面白いやついたらスカウトするのが目的だし?

 それに上位陣はほとんどプロだ

 そこに入れる時点でプロレベルって寸法よ

 誰だって欲しいしうちも欲しい


0212.東京のCRMさん

 え、そんな目的が?

 じゃあランクの四位に入ったやつってやべー奴やん

 俺も頑張ろ!

 ワンチャン拾い上げあるかもだし?


0213.三重のKRNさん

 そんな甘い考えで入れるランキングじゃないよー?

 入れるだけで探索者協会内で幅利かせられるから


0214.奈良のSIKさん

 ゲームでマウント取り合ってて草

 もっと現場で頑張って!


0215.東京のATMさん

 今の探索者協会はポイント主義者だからなー

 優先されるのが強さよりも持ち帰ったアイテムの換金によるポイントでランキング決めてるから

 強いだけじゃ上に行けないのよ


0216.三重のKRNさん

 御堂君と実際に戦ったら僕が負けるよね?

 でも噂の新人君がプロになったら僕の地位も危ないかな?


0217.北海道のTRSさん

 どうしてそう思うんです?


0218.三重のKRNさん

 仕入れた情報だと、そのプレイヤーって途中で棄権してそのランク入りらしいんだよ

 まだ時間があったのに途中放棄って話だ

 プロとしては気が気じゃないよね?

 ATM君が躍起になるものわかるよ

 ウチもギルドとしても呼びかけてみようかな?


 こうしてプロが本腰を上げて動く事で周王学園全体に噂が広まっていく。



 ──周王学園関西支部。

 二年生Aクラス出席番号一番【疾風怒濤】の二つ名を欲しいままにする犬飼真希は、姉から仕入れた情報に気持ちを昂らせていた。昂ると言っても恋をしている訳じゃない。真紀にとって最高の存在である姉を侮辱されたとして怒りが満ち満ちていた。


「どうもあーしの姉貴に恥かかせた野郎がいるらしいんよ。誰か聞いたことある?」


「聞いた聞いた。でも男か女かわかってないって話っスよ?」


 取り巻きの一人、【魔弾】の二つ名を持つ葛西朱乃がヨイショする。


「いや、そんな舐めた事すんのは男だって相場は決まってるし。あーしらは探索者になるのに命かけてっから。男だ、女だって時代はとっくに変わっちまってんのよ。ちゅーか、名乗りもせんとか探索者の風上にも置けん。あーしが直接しばいてくるわ!」


「かー、しびぃ。やっぱ犬飼の姉貴は最高っすわ! 一生ついていきます!」


「くせーこと言うなよ。あーしだってまだまだ半人前だ一緒に頑張ろうぜ? 朱乃?」


「ハイっす!」




 ──周王学園北海道支部。


「ふぅん、どうやら今になって新星が現れたらしいな?」


 TRSこと、三年Aクラス出席番号一番、荒牧大吾は、掲示板を覗き見しながら自分の世代に新しい風が吹いたことに気を良くしていた。

 学年のトップと言えど、数多いる生徒は有象無象。遊びでやってたDEもプロの溜まり場との噂を聞いて挑戦するも歯が立たない。

 そこでプロとの差を感じつつも、その分厚い壁に穴を開けた歳下が居るとして、嬉しい気分になってきた。


「これは、地域別交流会が楽しみになったな。同学年で競い合えるヤツというのはなかなか巡り合わせの星が合わんもんだ。なぁ?」


「はい、荒牧さんの世代は敵が少なすぎました」


 クラス一同が声をそろえて言葉を発する。ここには絶対の上下関係がある。しかしそれは王と忠誠を誓う騎士の二律のみ。

 【覇王】の二つ名を持つ荒牧大吾はどんな役割の才能も己の指揮下に置けば役割を確立する王に相応しい風格を持つ。

 大吾の能力の真骨頂は統率。

 その為人数を率いての戦闘では最高率を誇るが、ソロでの探索は大吾の能力を持ってしてもランキングで20位に入るのが精一杯。

 上位の壁が厚すぎるのだ。

 戦えば強い、しかしダンジョン協会の方針が持ち帰り品の換金に重きを置く為なかなか上位に行けない仕組み。

 だが現役の学生の中では十分誇れる成績だ。


 プロからの指名も欲しいままにする大吾であるが、同時に虚しさも感じていた。

 それは同学年に競い合えるライバルの存在が皆無だったこと。

 二つ上もひとつ下もない。戦力においてはまさに圧巻。

 モンスターの方がかわいそうになるくらいの圧倒的規模での攻略で、全国の合同訓練でも常に一位を維持する覇者、それが大吾である。


「MNO、お前はワシを失望させてくれるなよ?」


 大吾は誰ともわからぬプレイヤーに期待を寄せた。

 生まれた年代があと一年早かったら出会えていたであろう強敵達。

 東京の御堂、秋津コンビ。三重の麒麟字、博多の狩野。

 どれも同世代でプロの上位に立つ探索者、

 大吾は生まれた年を何度も呪った。あと一年早かったら、と。

 だがその年に生まれたからこそ、今になって現れた超大型新星との出会いに歓喜する。

 無駄に思えた二年はこの時の為の修練だったのだ。

 その期待が果たして肩透かしで終わるか、満足のいくものになるか。それを楽しみにしている大吾だった。




 ──周王学園沖縄支部。

 ここはできたばかりで学年も一年生しかない。

 そもそも生徒の一定数に満たないことが起因して今の今までかかってしまった。漸く人数が規定に達してめでたく開校。

 けれど学年一位と二位に天と地の差があった。

 まだ一学期にしてダンジョンポイント1000万を超える、まさに今季の超新星。

 四ヶ月に一度の全校ランキングで一位にいると信じて疑わなかったポイントであるが、それよりも更に上が居たことに驚きよりも興味が上回った。

 遠い地の見知らぬ誰かに運命を感じてしまったのだ。


【天地鳴動】北谷ちゃたん久遠くおん

 一年Aクラス、出席番号一番。

 野生児のようにあちこちを飛んだり跳ねたりと忙しないが、その実力もトレジャー回収能力も周囲を突き抜けて目を見張るものがあった。


「ふっふふ〜、運命をかんじてしまうね。待っててダーリン、今会いにいくよぉ♪ 」


 右手にはミサンガ、それを撫でる久遠はの笑みはまるで愛しい恋人に向けるものだった。

 それは海斗と同じく五階層踏破の証。

 腕輪型のアイテムバッグ、その偽装時の姿。

 ソロで、且つアイテムでもある。それを知ってるのは入手した当人のみ。

 自分よりも弱いものに興味のない不思議少女久遠は、まだ見ぬライバルの存在に胸の高鳴りを感じていた。

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