第13話 Aクラスへの編入生
二学期が始まり、新しい編入生がやってくる。
B〜Fのクラス生の入れ替えは激しいと聞いていたが、よもや完璧と言われたAクラス生まで及ぶとは思いもしなかった。
「お久しぶりね、凛華さん。まぁあなたは私のことなんて覚えても居ないでしょうけど」
凛華を見下ろす形で隣に席に座ったのは、かつて海斗の横に座っていた佐咲寧々である。
当時はFクラスの最底辺にいた彼女だが、海斗のおかげで才能覚醒。現在は才能ランクSSSのルーンナイトとしてポイントの上位に位置していた。
夏休み中も殆どダンジョン探索に注ぎ込み、今では凛華の隣に座れるほどの成績を誇っていた。
そこで確信する。
突如上位に現れたハイランカー。
二位と圧倒的差をつけ、独走状態のポイントの持ち主は凛華ではない事を、佐咲寧々は見抜いていた。
実際にポイントを三位につけて、どの席に座るかを確かめにきていたのだ。
もし席順が三番目であるならば、一位は悔しいが凛華となる。
しかし実際は二番手となった。
もし一番がいるのなら、それはきっと海斗に違いないと予測している。何故いまだにFクラスに在籍しているかはわからない。
だが、一度三階層で見かけた時に、変わらず警戒度マックスで三階層のモンスター相手に引けを取らない攻略法を見せていた。
Fクラス生なのにだ。
一階層ですらいっぱいいっぱいだったFクラス生だった当時の寧々。
Bクラス生になり、パーティを組んでどうにかメイン探索層として歩ける様になったが、未だにソロで赴くには危険な場所という認識。
一体彼はどこまで凄くなるんだろう。
親の復讐に巻き込まれて、一矢報いようとしていた寧々は、もう凛華への嫉妬をするのに虚しさを覚えていた。何せもっと凄い目標に出会ってしまったからだ。
凛華を一瞥した後、授業に集中した。
「あの、私があなたに何かをしてしまったのでしょうか?」
「いいえ、親の話よ。うちの父さんはね、あなたのお父様の探索者ギルドのお抱え探索者だったの。でも一度のミスの責任を取らされて首にされてしまった」
「その逆恨みをしに私に文句を言いにきたと?」
凛華はまたか、とばかりに嘆息する。
御堂の娘というだけで親の会社関連の逆恨みををよく受ける。
親と自分は違うのに、身分の弱い自分へ非難の声が集中するのだ。
まだ学生の自分に。
寧々もそう言った類なのだろうと決めつけて、席を立つ。
「あら、座学を免除するなんて余裕ね?」
「教科書から学ぶことなんて何もないわ」
「それは実際にCランクのダンジョンを踏破したから?」
「ええ、そうよ」
寧々の言葉はいちいち棘があった。
これ以上話し合うには無駄だ、と凛華は教室を後にする。
「断言するわ。私はあなたを追い抜くでしょう。それも今学期中に」
「随分と強気な発言ですが、それは無理です」
「やってみなければわからないわ。私はやると言ったらやるわよ?」
寧々は挑発する様な笑みを凛華に向けた。
「お好きにどうぞ」
凛華は教室を後にした。
騒然とするクラス内。Bクラスからの編入生である寧々に何か言いたいのだろうが、実力もポイントも上の相手にかける言葉が見つからなかった。
今までだったら凛華に対してなんてモノの言いようだと忠言でもしていただろう。しかし、その忠言を無視され続け、凛華と関係を築けなかったAクラス生達。
新たな上位の一人の誕生に、今度こそ取り巻きになってみせると言葉を飲んだ。
座学の授業を終えて、次の準備をしている寧々に、呼びかける声がある。
「あの、佐咲さん」
「何かしら?」
「凛華さんへのあの言葉、本気なの?」
「私はいつでも本気よ」
「そうなのね、じゃあよかったら今度一緒にパーティを組まない?」
「ごめんなさい、先約があるの」
「Bクラス生と? 今はAクラス生なんだから私達と組んだ方が効率がいいわよ」
「そうだよ、俺たちならBクラス生より足手まといにならないぜ?」
後から後から湧いてくる。
なまじ返事をしたもんだから会話が成立すると思っているのが厄介なところだ。
寧々は深い溜息をつき、拠点としている探索場所を示す。
「別にあなた達と組んでもいいけど、私のメイン探索層は四階層よ? 効率良くと言うけど、あなた達はまず一人でそこまでいけるのかしら?」
「え? Bクラス生だった頃から四階層に?」
Aクラス生でも三階層はパーティを組んでようやくだ。
寧々が四階層に至れたのもつい最近の事。
もちろん単独ではない。元Fクラス生と結託してのことである。
最後の最後まで海斗と一緒にゴブリンを討伐したあの三人だ。
「あなた達にとってのBクラス生は自分より才能の質が劣ると思っているんでしょうけど、正直私から言わせれば直ぐに追い落とされるぐらいの微差でしかないわ」
「そ、そんな言い方しなくたっていいだろ!」
「同じAクラス生なのよ? 切磋琢磨していきましょうよ!」
寧々は再びため息をつく。
これが憧れのAクラス生の実態とは。
これだったらまだ六濃海斗のいたFクラスの方が居心地が良かった。
あの頃のクラスメイトは同じ目的のもとに一致団結できていたものだ。
「ごめんなさい、私も他人に構ってるほど余裕はないのよ。でも今の凛華さんだったら、追い抜くことは可能ね。あんな位置で足踏みしててくれたんだもの」
寧々のポイントは120万まで至っていた。
背中を追う凛華は150万。
しかしクラスメイトは頭をかしげる。
学校側で成績優秀者は御堂凛華と発表されたからだ。
Aクラスの首席である彼女が、TPのトップだと信じて疑わない。
実際は全くの別人で、大きく離された二位のその人こそが凛華である事を知っているのは次席に着いた寧々のみである。
(六濃君、クラス毎のポイント交換レートが違う事を知ったらきっと怒り狂うでしょうね)
寧々はFクラス生だった頃と、Bクラス生の頃のポイント交換レートの違和感について思いを巡らせていた。
それは在籍中のクラスによって獲得ポイントに大幅な下方修正を受けること。
スライムのコアはFクラス生なら5ポイントと何の足しにもならないが、Bなら80、Aなら100ポイントと差があった。
もしAクラス生のレートが一般探索者の通常レートだった場合、Fクラス生であり続ける限り、素材の交換レートは95%OFFにされ続ける。
クラスを上に上げることは、自信につながる以外にポイントの稼ぎにも影響するのだ。
そりゃクラス毎に格差が生まれるわけである。
(だというのに、彼ったらその上で飛び抜けていくんですもの)
寧々はそれがおかしくって仕方がない。
もし海斗が一般レートで稼ぎを出したのなら、それこそ探索者そのもののランキングに影響を与えそうだ。
(それまでに、私は彼の隣にふさわしい女になって見せないと。でもその前に……凛華を蹴落として首席くらいにはなって見せないとね?)
寧々は他力本願でポイントを稼ぐ事に御執心なクラスメイトを残して、集合場所へと足を向けた。
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