第9話 誰でもできるダンジョンアタック
結局ボロクソに負けた俺以外のFクラス生。
つーか、普通に才能に頼り切りで相手の動きとか見ないんだもんよ。そりゃ負けるって。
遠距離タイプか近距離タイプの相性ジャンケンで、自分の得意な相手以外が来るまで何回もやり直すみたいな考え方だからダメなのだ。
苦手分野を削って近接相手にも強みを見せろよ。一生これで食っていくんなら頭使えって。
逆に俺は時間いっぱいまで逃げ回ってたけど傷ひとつないんだが?
案の定教師からの評価は低いが、逆に都合がいいので訂正はしない。
向こうから無能の役立たずくらいに思われてる分には俺の正体は隠せるしな。
しかし自分の落ち度を認められない奴は、俺に対して批難轟々。
「言ったじゃん、手を抜いてくれるように頼んでって言ったじゃん!」
「いや、普通にもっと戦いようがあるじゃんよ? 俺なんてなんの才能もないのよ? 才能のあるお前らが俺以上に健闘しなくてどうなのよ?」
「お前だけ手を抜いてもらったんだろうが!」
「え、お前ら俺の試合ちゃんと見てた? 木下君本気だったろうが。一秒も余所見できない試合展開だったろ?」
「じゃあどうして無傷なのよ! 私たちはこんなに傷だらけなのに」
「そりゃお前らが才能ありきの攻撃しかしないからだろうが。これから探索者になるんだろ? 魔法使いだからって近接が苦手とかプロになってから言い訳できねーぞ? ここはまだ学園だから言い訳は聞く。セミプロだからな。だがプロの世界はそんな甘くない。全員がライバルだ。自分の弱点が分かってるならそれを消していけよ」
「それができれば苦労しないわよ!」
はいはい、図星突かれたからって切れない。
「じゃあ俺が才能なしでもコボルドをぶっ倒せるお手本を見せてやるよ。そうしたら納得してくれるか? 才能がない状態でも知恵とほんの少しの勇気で探索者の真似事ができるってことを」
「は? Fクラス生が二階層に行くだって? 自殺しに行くのか?」
「お前らにとってはそうでも、俺にとっては違うんだよ。要は知恵を使えってことを言いたいんだ。お前らだって魔法や武技は回数制限があるだろ? レベルアップで多少の回復はするだろうが、序盤からスキルを使いまくってたらそりゃ息切れするさ。少しくらいTP稼ぎたいんなら、序盤はスキル無しで行ってみろよ。最終的な稼ぎが変わるぞ?」
「お前……どうして僻んで攻撃した俺たちにそんな真似を……」
壁ドンボーイが困惑の眼差しを向ける。
俺は肩をすくめておどけて見せた。
「俺だって探索者に憧れてこの学園に入ったんだぜ? だと言うのに才能を真っ先に覚醒させたお前らがこの体たらくじゃ、覚醒してもこんなものかと俺の夢が潰えちまうんだよ。だからさ、お前らはさっさとこのクラスを抜けて上の方で俺がそこに追いつくのを待っててくれよ」
「お前……そうだな、俺たちは実際才能に頼り切ってたところがあった。でも俺たちでもお前と同じ事ができるのか?」
「してくれなきゃ困るな。ビッグになったら元同級生として自慢させてくれよ。実は昔お前と同じクラスでーって。それくらいは夢見たっていいだろ、無能なりにさ?」
「お前……俺たちがその位置に行けると本気で思ってるのか?」
「今のままじゃ難しいだろうな。でもよ、まだわかんねぇぜ? なんせまだ一学年の一学期が終わるだけだ。あと二学期あるんだぜ? 諦めるには早いだろ」
「そっか、そうだな!」
「杉君、そいつの話を聞くの?」
「聞く事でしか俺たちが前に進めないんなら、聞いておいて損はないと思う」
「そう、じゃあ私もお願い出来る?」
「おう、早速今週のダンジョンアタックで実践しようぜ? それまでは一人ずつスキルの方向性を教えてくれたら、モンスターにどのように使うと効率いいかを教えてやる。俺だったらこうするって憶測でよければだが」
「助かるよ。Eクラスだと全員がライバルだからスキル構成を秘匿するのが当たり前で、誰にも気が許せなかったんだ。もっと早く仲間を作ってれば足の引っ張り合いに巻き込まれずに済んだのか?」
「それは俺には分からんが、鬱憤を晴らすのにFクラス生に当たり散らした事が一度でもあるんなら、どのみちその立場に甘んじてたさ」
「そうだよな」
壁ドン君は憑き物が落ちたみたいに平常心を取り戻した。
俺がクラスに戻ってきた時のような鬼気迫る感じもない。
あれは地位の格下げの焦りからくる不安だったんだろうな。
散々殴る蹴るしてきた=サンドバッグのFクラス生。
そのFクラスに落とされるってことはそれこそ自分がしてきた事がそのまんま帰ってくるのだ。
そして上に上がる見込みもないとなれば自棄になって現Fクラス生の俺に当たっても仕方ない。
いや、やられた方は溜まったもんじゃないが。
◇
そして週末、他のクラスがダンジョンの二階層に向かっていくのを見送ってから行動開始。
「最後に行動するのなんて初めてだわ」
「バッティングしたらイチャモンつけられるからな。余計な怪我はしたくないだろ? それとスライムを見つけたら優先的に退治しろ。コアを集める感じだな」
ちょっとした豆知識のつもりでアドバイスすると、おさげガールが訝しんだ。
「コア? ポイント的には10かそこらよ? 集めても時間の無駄よ」
ん? FクラスとEクラスじゃ換算レートが違うのか?
コアはTP5のゴミだから交換する価値なしだと思っていたが、実は結構稼げるやつだったり?
まぁそんなわけないか。
「こいつは空腹を誤魔化すのに使う。換金すると確かに安いが、食料を買う方が高くつく。タダで手に入る食料と考えたら十分に美味いだろ? それとコアは腹持ちがいい。りんご風味のゼリー味だから食べられないってことはないはずだ」
「そう考えると、無駄なものなんてないのね?」
「スライムは食事中にこちらに攻撃しない習性がある。そこら辺に生えてる毒草が主食だから軍手つけて引っこ抜いてそこら辺に撒いておけ。食いついているうちに殴れば簡単に倒せるぞ」
「私はいつも一番弱い魔法で倒してたわ」
「勿体無いな、使いようによってはワーカーアントを倒す一撃にだって使えるんだぞ?」
「そう思うと途端にもったいなく思ってきたわ。軍手一つでそこまで効率が変わるのね? 今度買ってみる事にするわ」
おさげガールが軍手の購入を真剣に検討していた。
いや、そこまで考える事かよ?
それとも今は無駄な出費を避けたいのだろうか?
スライムのコアを集めたら、今度は穴を掘る。
そこに毒草を放ると、どこからかスライムが集まってくる。
今回は俺がテイムで集めたが、放っておいても集まるので作戦をみんなに説明する。
「と、今回はゴブリンをスキルなしで討伐する方法だ。あいつらは光り物を集める習性がある。一匹釣ってくるからみんなはここで待っててくれ」
何をするつもりなのか、この状態では分からぬと壁ドンボーイとおさげガールが様子を見守る。
今更だがダンジョンの中は薄暗いので、足場が見えにくくなっているので、足場を確認せずに俺を追ってきたゴブリンが突如足をスライムのたっぷり入った穴に落ちた。
俺は穴の上からそれを確認し、スマホのシャッターを切る。
フラッシュを炊くのが目的だ。
急にゴブリンを撮影し始める俺に変な人を見るような目で見てくる一同。
「いや、ちゃんと意味あるから。これはゴブリンの目を焼いて視界を潰す目的がある。あいつらは視覚で獲物を捉えるからな」
「でも鼻も利くわよ?」
「絶賛スライムの池で溺れているのに嗅覚を利かせる余裕があると思うか? 目が見えると武器の投擲もあり得る。だから即座に潰した。今はスライムが相手をしてくれている」
「そんな理由が……でも、これでゴブリンの討伐が?」
「いや、あくまで相手の攻撃を縛るだけだな。近接が苦手な魔法タイプがゴブリンを武器のみで倒す手段だ。これだけなら近接組パーティからハブられてもアイディアでレベルアップできるだろ? Eクラスだとどのように討伐していたかは分からないが、ここで教えるのはレベルアップの手段であり、効率的に狩る手段ではない。効率化するなら魔法や武技を使った方が早いからな」
「そうね、でも釣ってくるのだって危険が付き纏わない?」
「そこは慣れだな。そもそも俺はなんの才能もないんだぜ? あんたより危険な場所に身を置いてるんだが?」
「そうだったわね、ごめんなさい」
おさげガールが首を垂れる。本人に悪気はないのだが、自分達がいい思いをして当たり前みたいな考えが前提にある。
そこを正しておかないとダメだぜ?
今はFクラス生になってるんだからさ。
「ゴブリンの討伐に慣れてきたら二階層に行くぞ。基本的に逃げ回ることになるが、大丈夫か?」
「危険地帯だからな。Eクラスでも下位は肉盾扱いだ」
「そりゃ険悪にもなるわな。でもここで教えるのは誰かを盾にする方法じゃないので安心してほしい。モンスターの習性を悪用したちょっとした擦りつけだな。モンスター同士にもナワバリがあるんだ。それを覚えとけば役に立つぜ?」
Fクラス生に説明しつつ、俺は消えたはずのスキル枠が再度活動を再開するのを認知していた。
これ、もしかして消えるのは使役していたモンスターだけで使役可能モンスターは再度操れるのか?
試しに意識を送ったら操れた。【1/1】となるが、これは使えるな。基本的に数を増やせるのは下克上が前提となるが、一度解放したなら一匹だけなら暫定で操作可能か。
これはありがたい。Eクラス生に見つかったら速攻なすりつけるか。慌てふためく顔が見ものだな。
俺はほくそ笑みながら地下一階を歩く。
習性の良し悪しについては任意説明しつつ、ここでコボルドのドロップ品に説明をする。月光花の雫である。
「そう言えばこの情報って出回ってるのか?」
「そのアイテムか? ポイント的に旨くないからってゴミ扱いされてるぞ?」
「ゴミ、ねぇ。ちなみにこれ、俺は飲み水にしてるんだが」
「喉の渇いた時用のアイテムなのね?」
「なら水でいいんじゃね? そこら辺の川に水あるじゃん?」
「いや、お前。ダンジョンなんかに流れてる水なんて怖くて飲めねぇよ。何が混ざってるか分かったもんじゃねぇし」
俺は本音を述べた。壁ドンボーイはキョトンとする。
ドロップ品には口をつけるのに、ダンジョン内のものは差別するとでも思っているのだろう。
全くもってその通りだ。
「まぁそんな残念そうな顔をするな。こいつにはもうひとつ驚きの効果がある」
「驚きの効果?」
「こいつはさ、コボルドとコボルドシャーマンがよく飲んでいるんだよ。それも魔法や武技を使った後に必ずと言っていいほど口にする」
「それって、回数制限の武技や魔法の回復効果があるってこと?」
「俺はスキルを持ってないのでわからないが、もしかしたらってこともある。もしそうだったら後々だいぶ効率が変わるんじゃないか?」
「それが本当だったら学園に引き返さなくても良くなるわ!」
「俺はもっと食い出のある肉とかがいいけどな」
「そういうのはポイントで買うんだな。まぁ林檎とか柿とかもあるにはあるが、階層ボスから無傷で入手する必要があるので、リスクを犯すのならポイントで買ったほうが安いな」
「くぅ、悩むぜ」
「でも今回一緒に来て授業で学べないことばかりですごく役に立ったわ。知識だけでこんなに楽ができるなんて思わなかったもの」
おさげガールの言葉に、壁ドンボーイや他のクラスメイトも頷いた。これならちょっとアドバイスするだけですぐ上に行ってくれそうだ。
本当は面倒を見るつもりはないんだが、俺の行動に制限かけてきそうなのがいると色々と厄介だ。そうなると一人の方が便利だよなぁ。
当分は教師達がよこしてくる同級生は世話してやるか。
全ては俺が俺らしく活動できるために。
学園の都合なんて知らん。俺は俺の目的の為、大金を手にする必要があった。
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