第4話 ダンジョンアタック③

 俺たち一行はスライムぐらいなら難なく倒せるようになっていた。

 まぁ、才能検証も兼ねて使役してるので、スライムがクラスメイトを襲うことはないんだけどさ。


 しかし現状集まるのはスライムのドロップ品であるスライムコアのみ。

 口に含めば若干の歯応えと何故かりんごのフレーバーで非常食にはちょうど良い。


 しかしどれだけ頑張って使役しても一切強化の項目が出てきやしなかった。

 俺の才能だけやたらピーキーすぎない?

 秋庭君のと違って使用回数がないのだけが救いかな?

 そんな時、一匹のゴブリンと運悪く遭遇してしまった。


「グギャッ、ゲゲ」


 言語なのか、はたまた鳴き声なのか判別はつかないが、周囲を舐めるように見回してスライムに近づき、手にした武器を振り下ろす。

 たったの一撃でスライムを討伐してみせたゴブリン。


 それが俺たちとゴブリンの格差だった。

 まだ俺たちの姿は見つかってないのか、次々とスライムを虐殺していく。

 俺たちもスライムを倒せるようにはなったが、こうも瞬殺とはいかない。草を食わせて不意打ち。それも複数で囲んでようやくだ。

 

 こんなゴブリンでさえ、モンスターの中では最低ランク。

 俺たちから比べたら脅威でしかないのに、才能持ちからしたら雑魚モブなのだ。


 しばらくしたらコアを腰にくくりつけた袋に入れてどこかへと姿をくらませていた。


「行ったか?」


 秋庭君がフラグのようなセリフを放ち、その場の全員が頷いた。まだいるかもしれないのに声を出すバカ。

 全員が秋庭君へバカを見る目を向けていた。


「いや、何か作業してるようだよ。あれはなんだろう?」


 濁った瞳組の理系男子である木下君が目ざとくゴブリンの行動の意味を探る。

 調合かしら? と意味を探る佐咲さんと共に乳鉢ですり潰したコアを傷を負った脇腹へと当ててしばらくすると、傷が塞がっていった。


 よもやスライムコアにそんな意味合いがあるとは知らずに俺たちは普通に食事をしていたが、やはり原住民。

 ここでの暮らしでは俺たちの知識の上を行っていた。


 そんな相手に丸腰で挑むのはバカのする事だ。

 それを言ったら才能を持つ者は総じて馬鹿ということになるので俺は口をつぐんだ。


「コアにあんな用途があったなんて。教科書には載ってなかったわよ? ゴブリンはもっと知恵が遅れてる生物だと説明されていたけど、それは正す必要がありそうね」


「でもそれを知れたからこそ、活路が見えた」


「傷を負っても常備してれば慌てなくて済むからか?」


「でも傷を負ったらそれどころじゃなくなるわ」


「戦う上では向こうのほうが格上。だから真正面から戦ってもきっと勝てないよ」


「そうだな。じゃあどうする?」


「人間は知恵を生かして地上を支配した歴史があるでしょ? だからゴブリンの予想もつかないことをするのさ。まぁみてて」


 俺は秋庭君を牽制しつつ全く別のスライム活用法を講じた。

 それがスライムのトラップ化である。


 現状ゴブリンはスライムのコアを集めて様々な効果を持ち得ている。だからスライムを見つけるなり攻撃するはずだ。

 なんせ一発で倒せるから。

 全然脅威と思ってないのだ。いつでも返り討ちにできるからこその余裕、油断。そこを突く。


 なのでスライムにある信号を送れば、それはゴブリンの知らない動きとなる。俺がした事はいたって単純、攻撃が当たる際コアを別方向に逃すというたったそれだけのことだった。


 当たれば一発だが、基本的にコアさえ無事なら物理が無効なスライム。

 夢中になって攻撃してる間に全員で両手両足を封じ込めて、あとはもう一人がスライムの好物をゴブリンの口に押し込めば勝手に口の中に入ってくれる。


 武器で一発の相手が口の中に入ったら?

 自分では攻撃できない体内を人間の肉すら溶かす消化液で攻撃したら?

 答えは明白。

 最初は暴れていたゴブリンも次第に動かなくなり、そして俺は使役下にゴブリンを増やした。次にテイムしたら使役してみたい欲に駆られるが、そこは我慢をする。

 何せ今までスライムを倒しても一切才能の覚醒をしなかった全員が、同時に才能の覚醒に立ち会えたのだから。


 ダンジョン内で倒すモンスターの難易度によって、得られる才能は変わってくる。

 モンスターが強ければ強いほどランクの高い才能に開花するようだ。

 中にはランクこそ高くても、扱いが難しすぎて困るのはスライムでも覚醒できるようになっている。

 ソースは俺。

 

 こうして俺以外の全員が才能の獲得に成功した。

 本当は俺も覚醒してるけど、学園に戻ったら足を引っ張ることは確定なので打ち明けられないでいる。


「おめでとう、みんな。これでFクラスから卒業できるね。上位クラスに行っても仲良くしてくれたら嬉しいな」


 そんなふうに見送る俺の言葉を遮ったのは他ならぬ秋庭君だった。


「水臭いぜ、相棒。俺たちはもうパーティメンバーじゃないか。こんな場所で見捨てて行けるかよ」


 シャドウナイトの秋庭君は現在武技を使い切って無能の仲間入りをしている。カッコつけてるけど、そう振る舞うことで株を上げようという算段だろう。俺は騙されないからな?


「そうよ、これからわ私達が六濃君を守るから。ねぇ、みんな?」


「うん」


「だね」


「その前にお互いの才能を公開し合おうか? 秘匿してたってしょうがないし?」


「それもそうね」


 俺が口を挟む前に、全員が勝手に秘密の共有をし始める。

 居合わせたクラスメイト、その時初めて知った名前もあったが、その指摘はするだけ野暮だろう。


 秋庭_シャドウナイト/S

 佐咲_ルーンナイト/SSR

 木下_ガーディアン/SR

 関谷_ポイズンクッキング/B

 紅林_キャッチャー/C

 六濃_ダンジョンテイマー/SSR(自己評価F)


 意外と学園側の評価が高いのは秋庭君だろうか?

 器用貧乏の極致と言わんばかりのスキル配分だが、学園の判断は高いようだ。

 問題は秋庭君がそれを使いこなしてない点にある。

 まぁ、頑張れ。

 俺も頑張ってる。


「佐咲さんはSSR? 凄いね」


「使いこなせる自信は全くないのだけど」


「スキルの方は?」


「攻撃を同時に引き寄せるタウント、タウント時に防御アップ。あとは目潰し程度のフラッシュという魔法よ。タウントそのものは回数制限がないけど、防御アップと魔法は回数制限付きなの」


「え、でもヘイト取ってくれるのは攻撃役が少ないこのパーティにうってつけじゃない?」


「微妙に役割が被ってる僕はなにも言えません」


 佐咲さんの評価をしてると、同じく盾役の木下君がいじけた。

 メンタル弱くない、この子。この先大丈夫?


「私は相手の投擲物をキャッチするのが得意だよ。成長すればリリースする事で同じ威力で相手に投げ返すことができるんだって。基本物理的なものによるけど、才能の成長次第では大化けするって説明に書いてあった」


 紅林さんが大器晩成型をアピールした。

 つまり現状はキャッチしかできない無能宣言である。

 しかし伸び代があるのは嬉しいな。

 俺なんて自分で倒したモンスターしかテイムできないんだぞ?

 なんのリスクもなく扱えるスキルを俺にもくれよ!


「私のポイズンクッキングは基本的に食事に毒の効果を付与しての毒殺がメインになるわね。ちなみにスライムに毒は効かないようよ?」


 最後に泣きながら自分の無力さをアピールする関谷さん。

 まぁまぁ。スライムに使えなくてもコアの方には使えるってオチでしょ?

 君は今日からゴブリンキラーに徹してもらうから。

 大丈夫、足止めは上手くやるさ。

 なんせ相手のゴブリンは俺の使役下にあるんだからな!

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