第5話 ダンジョンアタック④

 「じゃあみんな、今日はここまでで」


 ゴブリンを狩尽くした俺たちは、自分の芽生えた才能にすっかり自信を持っていた。

 同時に俺の方も自分の才能の新たな力の使い方を思い付いていた。

 それはスライムによる肉体侵食。

 ゴブリンの内側に巣食って無理矢理脳のリミッターを解除する外道法。

 流石にこれをクラスメイトの前でやるのは気が引けるとしてここで別れるとする。


 正直、引き止められた。

 ここで学園に帰れば俺たちはバラバラのクラスに振り分けられる。

 学園内には至る所に生徒の獲得した才能クラス、有能なスキル配分、持ち帰ったTPを具にチェックする魔道具が仕掛けられている。


 全員の才能が覚醒した今、一緒にいられるのは今日までだった。

 流石に飲まず食わずで探索できるほど俺たちは強靭な肉体ではない。

 先に入った上位クラス生もちらほら帰還してきている。

 色んな意味でも頃合いだった。


 俺の才能が覚醒するまで付き合うと言ってくれたみんなを騙してるようで気がひけるが、俺にはみんなと探索者ごっこに興じてる時間はなかった。


 勿論、このままじゃ自分の立場も危ういのだが、それをなんとかする目算もあるので平気だよと強がった。


「次はコボルドでも倒してみせるさ。次に会うときに上のクラスにいても嫉妬しないでくれよ?」


「本当に、一人で平気なのね?」


「もうゴブリン相手にてこずらないよ。それはさっきまでの戦闘で分かった事でしょ? 殆どがスキルを使い切っての一般人と相違ない能力。それでもゴブリンは討伐できた。僕にはその戦闘経験が蓄えられている。佐咲さんは心配性だな」


「そう、だったら先に上のクラスで待ってるわ」


「うん、そうして。勿論すぐに追いつくけどね?」


「言ってろ! 俺たちだってガンガン成長すっから。お前の追従をモノともしないくらいに上に行くぜ、なぁみんな?」


「うん」


「そうね、今日という経験は今後にも活かせると思う。戦闘スタイルも方向性が見えてきたわ。六濃君も頑張って」


「勿論、今まで僕たちを見下してきた連中を見返してやろうぜ?」


 俺たちは円陣を組んで、それぞれに檄を飛ばす。

 次会う時はライバルだ。

 そう鼓舞して、それぞれの岐路についた。


 ◇


 現在俺はダンジョンに引き続き篭っている。

 あの後帰らなかったのかって?

 地上に出たら消えるこの能力をわざわざご丁寧に消すバカがどこにいる?

 居ないよなぁ?

 俺はそういう愚は犯さないんだ。


 早速スライムを規制させて肉体のリミットを解除したゴブリンを使役してみたところ、同族を紙を千切るように虐殺してまわっていた。

 みろ、同族がゴミのようだ!


 すると頭に流れてくるメロディ。


<モンスターの一定数の討伐に成功しました>


<種族ゴブリンの使役数が1→2に変更されます>


 へえ。これは面白い。

 一定数の討伐で分母が増えるのか。

 じゃあスライムもそうなのか?

 実行してみたらそうだった。

 

 ────────────────────

 同時使役枠【2/5】

 ☆スライム:ランクF_グレード1【1/2】

 ☆ゴブリン:ランクF_グレード2【1/2】

 ────────────────────


 こんな表記が生徒手帳に記される。

 この生徒手帳は才能チェッカーとしても有能で、まぁ教員はこの生徒手帳経由で生徒をクラスに振り分けているのだ。

 生徒手帳兼盗聴器だな。どっちにしろ碌なもんじゃない。


 俺のは学園に帰ると消える都合上、実際に使役状況を知る手段でしかないのだが、色々気になるところはあるにはある。

 それを気にしすぎても仕方がないので今は無視して。


「ヒャッハー、ゴブリン狩りじゃああ!」


 分母がどれくらい増えるかの検証を始めた。


 おおよそにして三十分。スライムとゴブリンの枠が【10/10】となった。

 ゴブリンは簡単に殺せるけど、倒すより見つけるほうが大変だった。そしてその結果、頭に響くメロディ。


<条件を達成しました>


<一定数の種族使役枠を解放したことにより強化が解放されました>


<又、強化をせずに種族枠を開放することもできます>


 つまり、この強さか、数の暴力かを選べる?

 スライムは非常食兼傷薬以外の役割がないので今のところ強化の線はないな。こっちは枠の強化を選択して。

 戦力のゴブリンを強化すると……


 ────────────────────

 同時使役枠【2/5】

 ☆スライム:ランクF_グレード1【0/11】

 ★ゴブリン:ランクF_グレード3【0/1】

 ────────────────────


 ☆が★に変わると、なんかグレードが上がった?

 ランクは変わらないが、グレードが一つ変わるだけでスライムに一方的な戦力差を見せたゴブリンを俺は忘れてない。

 これはもしかして本当に最強の能力なのかもしれないな。


 早速その検証をするために二階層へと降りることにする。

 正直ワープゲートはとっくの昔に発見してたけど、今の戦力で行けるものか分からずじまいで敬遠してたところはあるんだよな。

 だが強化を得た今、新たなる知的好奇心が刺激されていた。


 それが格上キラーになり切れるかという点である。


 ◇


 二階層は一階層に比べて随分と様式を変えていた。

 全く違うモンスターが君臨しているおかげだろう。

 確かこの階層から大型虫型モンスターが出てくるのだ。

 ワーカーアント、ナイトアンツ。

 なんでナイトだけアンツなのかは教科書にも記されていなかったが、きっとグレードの違いがあるのだろう。


 こんにちわ、死ね!

 サーチアンドデストロイの要領で強化ゴブリンにスライムを寄生させてリミッターを外した埒外の攻撃。

 腹部に当たっただけで肉片が周囲に飛び散るグロテスクな光景が映し出された。

 ゴブリンTUEEEEE!

 ドロップ品は用途不明の欠損部位。

 まぁなんかの役に立つだろうとスライムに持たせる。


 早速使役下に置いたワーカーアントを駆逐しまくる。

 そして強化!

 新たな下僕が現れた。


 ───────────────────────

 同時使役枠【3/5】

 ☆スライム:ランクF_グレード1【11/11】

 ★ゴブリン:ランクF_グレード3【1/1】

 ★ワーカーアント:ランクF_グレード3【1/1】

 ───────────────────────


 そういえばあれから結構ゴブリンを倒してるんだが分母が【1/1】から増える告知がされないな。

 もしかして強化って一度のみ且つ、使役枠が増やせないデメリットがあるのか?

 いや、これだけ強力なら確かにその可能性もあるか。


 そしてワーカーアントはゴブリンと同列のグレードであるが図体がそもそも違うので同じ運用方法では使えない。

 なので体内にスライムを飼わせて巣穴ごと占領する事にした。

 餌と偽ってスライムを献上させるのだ。


 案の定、スライムを捕食したクイーンアント。

 しかし予想外だったのがクイーンアントの消化力の方だ。

 捕食されたスライムは攻撃すらできずに栄養にされてしまった。

 これは直接攻略は難しいな。

 クイーンの周りはナイトアンツの強力な守りがある。


 あいつらただの色違いじゃないぞ?

 グレードの差も相当ありそうだ。

 アント社会を占領することが叶わず、違う策を考えた。

 それが……


 ゴブリンの上位モンスターとして学園側に認識されているコボルドの討伐だ。

 実はこのコボルド、アントに餌としてみられている。

 それもそのはず、アントは基本集団行動。

 漆黒の攻殻は物理攻撃の効きが悪く、魔法攻撃すら効かないのだ。

 グレードはコボルドの方が上回るが、相性が悪くて逆に狩られているのが現状だった。


 そんなわけで複数で囲んで討伐して軍団に入れる。


 ─────────────────────────

 同時使役枠【4/5】

 ☆スライム:ランクF_グレード1【11/11】

 ★ゴブリン:ランクF_グレード3【1/1】

 ★ワーカーアント:ランクF_グレード3【1/1】

 ☆コボルドファイター:ランクF_グレード3【1/1】

 ─────────────────────────


 なるほど、コボルドがゴブリンより恐れられているわけである。

 こいつらジョブ持ってやがんじゃねぇか!

 つまりスキル持ちということだ。


 どうりでおかしな行動に出ている個体がいる訳だ。

 ドロップ品は月光花の雫。

 名前の通りの甘い液体だ。

 コボルドを倒すと高確率でこいつを落とした。

 飲み水にちょうどいいので集めることにする


 コボルドファイターは強化ゴブリンと同グレードなだけあってポテンシャルが大きく違う。

 中でも大きな違いはスキルの有無だ。

 ダンジョンの外でも中でもその有無が格差を有無のだから世知辛い。

 まるで社会の縮図だと辟易しながら駆逐する。


 コボルドファイターを強化して★コボルドファイターとした。

 ここで選手交代。

 枠も4/5と差し迫ってきたのでゴブリンを解雇する事に。

 今までありがとよ。


 テイム解除、寄生解除したゴブリンが早速野良のワーカーアントに食べられていたが、これも食物連鎖の宿命。

 諦めて食べられてくれ。


 その後便宜上の敵を取って、俺たちは新たな仲間を加えていた。

 それがコボルドシャーマン。

 こいつは魔法タイプのスキルが使えるやつで氷の礫を飛ばせる『アイシクルブリッド』と防御力を強化する『バイタルアップ』を使える。

 そういえばこいつのドロップ品も月光花の雫だったなと思い出し、すぐに倒さないでどのような用途で使うのかみていたが、奴ら急にスキルを使わなくなったと思ったら、それを飲み始めるのだ。

 その後に再度スキルでの攻撃。

 それってつまり使用回数の回復の効果を持つってことなのか?


 使えなくなったら補充すればいいやって考えの俺だったが、回復できるのであれば話は別だ。

 正直ゴブリン同様倒す手間より探す手間の方がかかるのだ。

 特にジョブ分けコボルドの中でもシャーマンはレア中のレア。

 殆どがファイターやナイトの物理攻撃組なのでシャーマンの存在は希少だった。

 でも見つけたら殺すし、強化の一択だ。


 ★コボルドシャーマンのグレードは4と群を抜く。

 使えるスキルも更に増えて対象を炎上させて窒息させる『フレイム』、攻撃力を強化させる『ストレングスアップ』を使えるようになった。正直この階層に敵は居ないのではないか?

 そんな万能感に溢れるが、現実は非情である。


 敵の首領、クイーンアントは空気が無くても生きていけるし、なんだったら状態異常すら無視した。

 なんせグレードが5である。

 物理無効も相まって本格的に撃つ手がない。


 うん、まぁ現状太刀打ちできないだけで無理して倒す必要はこれっぽっちもないのだけど。これはコレクターとしての意地だった。

 テイマーという才能上、相手の能力は知っておくに限る。

 倒す上での策や、運用する上でのデメリットも後々役に立つので知りたいのだ。


 仕方ないのでナイトアンツを使役するに留める。

 正直二階層の攻略には過剰すぎる戦力投下。

 使役してる俺が弱いままなので、万全を期すのは当たり前なのだ。


 ─────────────────────────

 同時使役枠【5/5】

 ☆スライム:ランクF_グレード1【25/25】

 ★ワーカーアント:ランクF_グレード3【1/1】

 ★コボルドファイター:ランクF_グレード3【1/1】

 ★コボルドシャーマン:ランクF_グレード4【1/1】

 ★ナイトアンツ:ランクF_グレード4【1/1】

 ─────────────────────────


 ちょくちょく沸くスライムを補充してるうちに最大枠は25となった。正直コアで空腹を満たす以外に傷薬がわり、肉体を乗っ取ってリミッター解除に一役買ってくれているのでいつ雇用を外すか考えてるうちに現在に至る。


 正直解雇するタイミングを逃したのは言い訳できなかった。

 いや、マジで相棒だよスライム。

 俺の手にかかれば無能なこいつも立派な軍師になれるんだもん。

 そこらへんで補充できるから消耗品としてのコスパもいいし最高なのだ。


 え、情はないのかって?

 嫌なやつだったけどクラスメイトを食ったスライムに沸く情なんてあったら人間社会で生きてけないよ。

 

 なお、二階層のボスはトレント。

 ★コボルドシャーマンの『フレイム』でよく燃えたことをここに記しておく。

 正直ドロップ品もTPに換算しても美味しくないのでスルーして三階層へ。

 教科書にはキャッチャーを連れて行くと果実をゲットできると書いてあったが、売ったところで一万円。

 ただ珍しいという理由だけで高騰してるので持ち帰れば持ち帰るだけ値崩れする未来が待っている。

 

 希望をちらつかせて掌を返すのはいつだって大人のやり口だ。

 俺はそんな小金に頼らなくても生活できるようなトレジャーを持ち帰るべく深層に身体を押しやった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る