答え

IORI


 ひらり、ひらり、今年もこの庭は、薄紅色に染まる。君の一番好きな季節。縁側に座り、一際大きな桜を見上げる。相変わらずの立派な幹と、可愛らしい花弁だ。

 どうして、この季節が好きなのか。

 と、君に尋ねると、悪戯っ子のように笑って、

 貴方ならそのうち分かる。

 と、言われた。その挑発的な口調に、僕はむっとしてしまう。気になってその答えを探していると、いつの間にか、いつも傍に君が居た。まだ見つからないの?また君は微笑む。その微笑みに恋をしたなんて、絶対に教えてやらない。


 ふと気づくと、夢中になって答えを探す僕が居た。反対に、答えを見つけてしまったら、君と一緒に居られる理由が無くなるのではないかと恐れる僕も居た。その微笑みを、もう僕に向けてくれなくなる。それが怖くて堪らなかった。複雑な思いを抱えたまま、あまりに早く時は流れた。何度も何度しつこく質問したり、君と色んな場所に行ったりと、あまりにも思い出が増えすぎてしまったよ。


 僕の掌には皺が増え、いつかのように、走り回ることが出来なくなっていた。ゆっくりとした足取りで、あの縁側に座る。結局答えは教えてくれないまま、君は空に旅立ってしまったね。最期でさえ、変わらない微笑みのまま、永い眠りについた。すっかり冷たくなった君の顔に、そっと触れる。嗚呼、名前を呼んだら起きそうだ。おはようって、答え見つかった?って、叶わないと分かっていても、唇を見つめてしまう。諦めが悪い、僕の悪い癖。


ずっと前から愛してたんだ


 膝から崩れ落ちた。出したことの無い大声で、君の名を叫ぶ。何度も、何度も。堪えてきた感情が、津波のように流れ出す。届かない言葉は、静寂に飲み込まれる。どうか許して欲しい。今の壊れかけた心で、君に口付けをしてしまったことを。


 優しい春風に、君を重ねる。いつだって昨日のように思い出せてしまう、笑いあった日々。今だって本当は、どこかに隠れてて、ひょっこり出てきてくれるんじゃないか。時折振り返っては、確認してしまう。

 一人でなにやってるの?

 君の声が聞こえてきそうだ。笑ってくれるだろうか。

 毎年この季節になると、早く早くと、待ちきれない子供のように、この縁側に座ろうと催促される。そして、麗らかな日を浴びながら、大きな桜を二人で見上げる。ゆったりと流れる時間を共有する。僕にとっては贅沢な夢のような時間だった。もしも、君もそうだったら、この季節が好きな理由がそれだったら、これ以上に幸せなことはないだろう。都合の良すぎる我儘に、我ながらに嗤ってしまう。隣が暖かいのだって気のせいであろう。

 徐々に重くなる瞼に逆らって、愛しい人が愛した景色を焼き付ける。

 

 嗚呼、どうしてだろう。主演のいない映画を見ているようだった。

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答え IORI @IORI1203

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