第51話 罪状
しばらく二人が泣いて、ブルーノが一息ついた。
「では、わたくしは仕事に戻ります。
みなさま。ベルティナのこと、重ね重ねよろしくお願いします」
ブルーノが深く深く頭を下げる。顔をあげたときには執事の顔であった。
「大丈夫よ。ベルティナお姉様のことはみんなで守るわ」
クレメンティに胸を借りて泣き声を殺していたセリナージェが無理やり笑った。
三人も頷いた。
「ありがとうございます」
ブルーノはベルティナの肩に手を置いた。
「幸せになってくれ」
「はい、お兄様」
ベルティナは肩に乗せられた手に自分の手を重ねた。ブルーノがベルティナに頷いてその手を離した。
「メイドを呼びますゆえ、どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ。では、失礼いたします」
ブルーノが部屋を出るとすぐにメイドが来て温くなった飲み物を交換してくれた。
「はぁ! なんだか、お腹空いちゃったねぇ」
イルミネの冗談にみんなが笑ってテーブル席へと移動した。
「王城のお部屋に王城のお料理。贅沢な新年パーティーね。ふふふ」
セリナージェは無理に明るく振る舞った。
「せっかくだ、楽しもう!」
クレメンティもセリナージェのそんな気持ちを汲み取る。
「そうだな。では、新年を祝って、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
『チン、チン』
グラス合わせて五人のパーティーが始まった。
「ベルティナ。これからもよろしくね」
「はい」
『チン』
シャンパングラスの音が響いた。
五人は笑顔であった。仮初の笑顔であっても、それはこれから幸せになろうという決心の笑顔である。
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後日、国王陛下とエリオとで密談がおこなわれた。タビアーノ男爵一家及び使用人が殺人未遂とならなくても、使用人を含めて、罪人とすることを密約した。
タビアーノ男爵夫妻は王族のパートナーを害したことと、国王陛下に直に嘘をついたことで一生強制労働施設から出られないことになった。本来死刑でも不思議ではないが、ブルーノとベルティナの虐待が何年も続いていたことを鑑みて、すぐに死を迎えさせることをよしとしないためである。強制労働施設の中でも最下級の扱いとなるよう取り図られた。最下級の者は他の受刑者のイジメ対象になりやすい。
長男長女は当時未成年とはいえ、否、未成年だからこその虐待イジメが苛烈だったことがブルーノとベルティナの口から語られている。なので有無を言わせず罪人となった。
使用人たちは、ブルーノとベルティナによって一人一人顔見世をし、虐待に加担或いは本人が虐待をしていた者が罪人となることが決まる。虐待に加担していたと判断された者がすでに退職していた者の名前まで出したので、七人の使用人が罪人となった。
貧乏男爵であるタビアーノ男爵家では常時二人か三人だろうと思われる使用人たちだ。使用人たちが変わっても変わっても虐待に加担していたようだ。良心を持たぬ雇い主には、良心を持たぬ使用人が居着くものなのかもしれない。
〰️ 〰️ 〰️
そして、半月後。
タビアーノ男爵夫妻は王家侮辱罪と発表された。
長男長女と使用人たちは『過去とはいえ隣国の王家に嫁ぐ者を害した。これは隣国との戦争の火種になる可能性がある。つまりは、国家転覆罪になる』と発表され、北の無人島に島流しとなった。そこは船で一時間ほどの場所だ。大きさこそあるものの年の半分は雪に覆われる島であり、今はまさに真冬だった。カバン一つだけの荷物が許されたが、船は九人を降ろすとすぐに帰ってしまった。
殺人未遂について罰則をとらなかったのは、法の整備が無いので裁けなかっただけである。国王陛下は貴族に対し『子供への過激で度重なる虐待は、家族であっても暴力事件として殺人未遂または傷害の罪とする』と公布した。今後は殺人未遂が適応されることもありえると、貴族たちには改めて通達された。
妹と弟は王宮預かり、兄嫁と兄の子供たちは兄嫁の実家へ戻された。これは、ブルーノとベルティナの願いであった。
長男の嫁と子供は離縁し実家に戻った。タビアーノを名乗ることは許されない。長女の婚約も当然解消となった。
弟妹は王宮預かりとなったがベルティナもブルーノも兄姉であることは名乗り出なかった。自分たちの代わりに虐待をされていないかは気にはなったが、ブルーノもベルティナも自分に必死であったので、弟妹への家族としての愛情はなかった。それに、虐待されていた時に常に近くにいたことが、ブルーノとベルティナにとっては嫌な思い出の引き金になる存在だったのだ。
弟妹にとって家族と引き離された原因であるブルーノとベルティナの存在は知りたくないだろうという配慮もある。
弟妹には『領地経営がうまくいかず家族で生活していくことが困難となった』と伝えていく予定だ。弟妹はブルーノと違い通いのメイドに引き取られたので、ブルーノとも顔を合わせることは一生なかった。大人になれば両親の罪名は知ることになるかもしれない。
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