第44話 挨拶

音楽が止む。


「みな、面をあげてくれ」


『ザッ!』


 国王陛下へと向く。ベルティナが初めて近くで見た国王陛下はとても堂々としており、年若いはずなのにとても貫禄があった。


「みなのお陰で、また新しい年を迎えることができた。感謝している。今宵は存分に楽しんでほしい」


『ザッ!』


 会場全体が頭を垂れる。


 国王陛下が手で合図を送れば、優雅な曲が、話し声を邪魔しない程度に流れ始めた。


 王家の面々が、椅子に座った。

 文官が国王陛下に招待客の紹介を始める。これは、入場と逆でエリオたちから始まる。


「ピッツォーネ王国からお越しいただきました、ピッツォーネ王家エリージオ第三王子殿下。お連れ様は、ティエポロ侯爵家ベルティナ様でございます。お付きは、マーディア伯爵家イルミネ様でございます。

並びにピッツォーネ王国からお越しいただきました、ガットゥーゾ公爵家クレメンティ様、お連れ様はティエポロ侯爵家セリナージェ様でございます」


「新年おめでとうございます、国王陛下、王妃殿下、並びに王子殿下、王女殿下。今宵はご招待いただきまして、誠にありがとうございます」


 エリオとともに五人で頭を下げる。


「よい、面を上げてくれ」


「はっ! 国王陛下におかれましては、ご健勝であらせられるご様子。大変嬉しきことと存じます」


「うむ、学園の方はどうだ?」


「はい、大変勉強になっております」


「今日の様子だと良い縁もあったようだの」


 ベルティナは国王陛下の笑顔に『まさか国王陛下にまで知られているのか?』と内心ドキドキした。


「はい。国王陛下のご理解をいただきまして、大変感謝をしております」


「あと、三月、学園生活を楽しまれよ」


「はっ! ありがとうございます」


 また五人で頭を下げ、今度はすぐに頭を上げて横へと下がる。

 後ろには公爵家から伯爵家が並んでいる。国王陛下に挨拶できるのは伯爵家までだ。後は特別に何かあったときに挨拶できることもある。

 

 五人は舞台の手前の方の高位貴族が多くいるべき位置に立った。イルミネがエリオに耳打ちする。


「ベルティナ。君の元両親もいらしている」


 当然のことなのにベルティナは肩を揺らしてしまった。


「なるべく僕と離れないでね。レストルームを使いたいときには、セリナと一緒に。近くまでイルミネも連れていくんだよ」


「はい」


 ベルティナは少しだけ不安だったが、頑張って顔に出さないようにした。


「まだ、ご挨拶は続きます。休憩室を取りましたのでそちらへ」


 イルミネの先導で休憩室へ向かった。


〰️  


「やっぱり、緊張するねぇ!ハハハ」


 イルミネは入室とともにいつもの調子になった。五人でソファーテーブルにつく。メイドが飲み物を持って来てくれた。

 イルミネがまず口にして頷く。毒味をしたようだ。エリオはイルミネが口にしたものをとった。


「シャンパンか。ベルティナ。セリナ。果実水でももらうかい?」


「私たちはこれで大丈夫よ。それより、エリオ、説明してくれる?」


 エリオは隣に座るベルティナの手を握った。


 エリオはシャンパンを一口飲み、ゆっくり話始めた。


「騙していたみたいになってごめんね。正直なところ、こんなに大切に思える女性と出会えるなんて思っていなかったんだ」


 エリオはいつものクセで頭に手をあてるが、整髪剤を触って手を引っ込めた。本当は照れ隠しで頭をかきたかったのだろう。


「ふふふ、あ、ごめん、なんでもないわ」


 ベルティナはエリオがやりたかったことを想像して笑ってしまう。ベルティナには余裕があるようだ。


「四月の頃のレムの様子を知っているだろう?公爵家のレムでさえ、あんな状態だったんだよ。僕が王族だと知ったらどうなっていたか……。

パッセラ子爵家はね、母上の実家なんだ」


 エリオはもしもの想像をして苦笑いをした。みんなもその状況をよぉく知っているので、クスクスと笑いが出る。 


 エリオがベルティナの顔を見た。


「ベルティナは薄々感づいていたよね」


 エリオが断定した。


「「「え?」」」


 三人は驚いていた。ベルティナだけは笑顔で返した。


「エリオは私が気がついていることに気がついていたのね。ふふふ。

ええ、気がついていたわ。三人の関係性がおかしいと思ったのよ。レムもイルも、時々、エリオを上の者として扱うから。

最初はレムとエリオの爵位を取り替えているのだと思ったのよ。だけど、セリナとのことでレムは本物の公爵家だとわかったでしょう。

だから、エリオは筆頭公爵様、または大公様かなって。まさか王子殿下であるとまでは想像しなかったわ」


 公爵同士でも差がつくことはある。

 ベルティナのきちんとした説明にエリオでさえびっくりしていた。

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