第42話 家族

 ベルティナは夜中に二度悲鳴と共に目を覚ました。セリナージェはそのたびにベルティナの背を擦り『大丈夫よ。大丈夫よ』と語りたかけた。


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 翌日。寮の共同談話室にティエポロ侯爵夫妻が来た。セリナージェと話をしている。


「ベルティナはどうだ?」


「眠っているわ。昨夜は何度か悪夢で目が覚めたみたい。保健室から寝るお薬をもらってきたの」


「そう、あなたがそばにいてくれてよかったわ。引き取ったばかりの時も悲鳴を上げながら起き上がったりしていたの。記憶が鮮明に蘇ってしまったのかもしれないわね」


 ティエポロ侯爵夫人はセリナージェの手を握った。瞳は悲しみに濡れていた。


「そのための家族だ。屋敷に戻ってくるか?」


 ティエポロ侯爵の口調はとても優しいものだった。


「ううん。今、ベルティナを動かしたくないし、このままでいいわ」


 セリナージェの『ベルティナは自分が守る』という強い意思を感じられて両親は頷いた。



「あの後、タビアーノ男爵はどうなったの?」


「以前、金を払ってベルティナを買ったはずだと言ってやったさ。これ以上ベルティナに関わるなら、うちの州からは出ていってもらうとも伝えた。うちの州を首になればどの州も管理者として雇ってくれるわけがない。もう、来ないだろうさ」


 ティエポロ侯爵はタビアーノ男爵の話になると打って変わって厳しい口調厳しい表情で説明した。


「そう。よかったわ」


 セリナージェは心からホッとした。


「セリナ。あなたは寝ることができているの?」


 ティエポロ侯爵夫人は少しだけ眉尻を下げてセリナージェの心配をした。


「お母様、ありがとう。大丈夫よ。学園はお休みにしてるの。ベルティナが元気になったら、また頑張るわ。心配しないでね」


 セリナージェはティエポロ侯爵夫人にガッツポーズをしてみせた。


「あなたも大人になっているのね」


 ティエポロ侯爵夫人はセリナージェを眩しそうに見て少し笑顔になった。


「私は今、ベルティナが私にしてきてくれたことをしているだけよ」


「そうか、わかった。じゃあ、ベルティナのことは任せたぞ」


 ティエポロ侯爵はセリナージェの肩を叩いた。


「うん!」


 セリナージェは父親ティエポロ侯爵から聞いたことをベルティナに話した。ベルティナはまた泣いた。


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 それから三日後、ベルティナはセリナージェともにクラスに戻った。まだ笑顔はぎこちないが、普段の生活に戻れば回復するだろう。


 ベルティナとセリナージェでロゼリンダにお礼に行くと、ロゼリンダに笑顔で三人でのお茶会の約束をさせられた。


 放課後になると、エリオたちは教室を出てから女子寮の玄関にベルティナとセリナージェが入るまで、決して離れることはしなかった。朝も女子寮の前まで迎えに来る。

 エリオはベルティナに危害を加える者を近づけさせたくなかったのだ。


 ロゼリンダとのお茶会はとても楽しく、それ以来、月に二度ほど行うようになった。三度目には、ベルティナのお願いでフィオレラとジョミーナを招待した。やっと、二人とも蟠りをなくすことができた。



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 明日から短い冬休みだ。ベルティナの心の傷もすっかり癒えて笑顔が戻っていた。


「セリナ。ベルティナ。実は、僕たちは新年のパーティーに招待されているんだよ。セリナとベルティナには僕たちのパートナーをお願いしたいんだけど。どうかな?」


 エリオからのお誘いだった。


「いいわよ。イルミネはどうするの?」


「俺の役割は騎士だからね、パートナーはなくても大丈夫!」


 イルミネが親指を立ててグッとポーズをした。


 ベルティナははっと思い出した。


『いつか感じた違和感だわ。でも、あの頃と違って、私はエリオを信じているもの。違和感を感じさせる何かは、理由があってのことなのでしょう。いつか話してもらえればいいわ』


そう考え直して、何も言わなかった。



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 そして、パーティー当日、ベルティナとセリナージェは、口を開けて、建物を見上げていた。

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