第32話 謝罪
ロゼリンダたちに関してはなんとなくスッキリしないままに一週間が経った。
そんな朝だ。
「彼らが君たちに報告があるそうだ」
先生に促されて入ってきたのはランレーリオとロゼリンダだった。みんながざわめく。
「あの時はみんなに迷惑と心配をかけてすまなかった」
ランレーリオとロゼリンダが頭を下げた。みんながザワザワとしてしまう。半数以上が下位貴族の者なのだ。最高位の公爵子女が頭を下げていい場所ではなかった。
「今はまさに『爵位を関係ない交友』ということで気にしないでもらいたい」
公爵子息ランレーリオにそう言われればみなは頷くしかない。みんなの顔が強ばる。
「すべての問題が解決したわけではないが僕とロゼリンダ嬢の中でははっきりとした。書類上はまだだが僕とロゼリンダ嬢は婚約することにしたんだ。それも踏まえて残りの学園生活もクラスメートとしてよろしく頼みたい」
二人はもう一度頭を下げる。みんなは内容を理解して一気に笑顔になり拍手を贈った。
「「「おめでとう!」」」
「「「よかったなぁ!」」」
クラス中が祝福している。
「あ! この席どうぞっ!」
ランレーリオの隣の席だった男爵家の男子生徒が窓側に移る。その姿が少しだけ笑いを誘いクラスはとても良い雰囲気だった。
「ということで遅くなったけど。授業始めます」
先生の少し間の抜けた声もまたみんなの笑いを誘った。
その日の昼休み。五人はランレーリオにランチに誘われた。学園長に許可を得て特別執務室のソファーセットを借りることにした。ランレーリオとロゼリンダを含めて七人でテーブルについた。
ベルティナは初めは同席を遠慮した。ロゼリンダとランレーリオがどういうつもりであるかは容易に想像ができ、個人的なそこに男爵令嬢である自分はいるべきではないと考えたからだ。
「すべてをみてきたベルティナ様ですもの。なんの問題もありませんわ。それに先程もレオが言いましたように『爵位に関係ない交友』を今からでも是非お願いしたいですわ」
ロゼリンダに笑顔で言われた。
「なら僕も子爵家だからやめておこう」
さらにはエリオにもそう言われてしまい渋々同席することになったのだ。
着席してすぐにロゼリンダが切り出した。
「セリナージェ様。クレメンティ様。貴女たちを傷つけてしまってごめんなさい。
確かにクレメンティ様のガットゥーゾ公爵家から断りのお手紙をいただいておりましたわ。わたくしの浅はかな行動でご迷惑をかけてしまって本当にごめんなさい」
ロゼリンダはきちんと頭を下げて謝罪した。
「それはもういいです」
セリナージェはロゼリンダの腕をさすり頭をあげてくれるように頼んだ。ロゼリンダがランレーリオに目で確認するとランレーリオは頷いた。ロゼリンダは困った顔で少し笑い頭を上げた。
「それよりロゼリンダ様はご納得できる結果になったのですか?」
セリナージェにとってはそちらが気になる。爵位が重くて結婚が難しいことはクレメンティに出会うまでのセリナージェにも言えたことなのだ。ランレーリオがロゼリンダの代わりに現状を説明した。
「正直に言ってまだなんだ。だけど僕たち二人の気持ちはもう決まったからね。二人でそれを確認できたら家でできることはこれ以上ないかなって。
それよりしっかり勉強してキチンと宰相、というかまずは高官にならないとね。ロゼにカッコつけたのにできませんでしたってわけにはいかないさ」
ランレーリオがロゼリンダをチラリと見て笑顔を見せるとロゼリンダが照れたように微笑む。ベルティナとセリナージェはロゼリンダのその笑顔がすべてだと感じた。
「そうか! いい方向に決断できてよかったね。おめでとう!」
エリオも同じことを感じたに違いない。
「ああ、全てはクレメンティ君の言葉のお陰だ。僕は公爵にならなければって思い込んでいた。ロゼを迎えに行くのは僕が権力を持ってからだって思って勉強だけを必死にやっていた。公爵は家の地位だが宰相は僕の地位だ。それを示せばいいなんて。
クレメンティ君。ありがとう」
ランレーリオがクレメンティに握手を求めてクレメンティはとても照れながらその握手に答えた。
「レムはセリナに夢中だっただけなのにな? 人助けになってよかったな」
エリオが『おいっ』というように肘で小突いた。イルミネがわざと椅子から落ちた。みんなが笑った。
「どうかロゼリンダ嬢を守ってあげてほしい」
クレメンティはランレーリオの手をとったままそう言った。
「ああ、約束するよ」
ランレーリオはクレメンティの手をギュッと握り返した。
「ロゼリンダ様。おめでとうございます」
ベルティナははじめてロゼリンダと目を合わせて話をしたような気がした。
「ありがとうございます」
ベルティナはロゼリンダの見たこともない笑顔に本当に幸せなのだと見てとることができた。
二月後、ランレーリオとロゼリンダの婚約は正式なものとなった。
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