第33話 誕生日
十月。次週にベルティナの誕生日を控えた週末。ティエポロ侯爵に呼ばれて、ベルティナとセリナージェは王都にあるティエポロ侯爵邸に戻ってきた。お邸には、セリナージェの兄ジノベルト夫妻、双子の姉たちとそのベイビーたち、ティエポロ侯爵夫妻が揃っている。
「少し早いが家族でベルティナの誕生日を祝おう。ベルティナ、十八歳だな。成人となったわけだ。おめでとう!」
「「「おめでとう!」」」
みんなが笑顔で祝っている。ベルティナが侯爵家に来てから、毎年必ず家族が集まってくれるのだ。そして、セリナージェの時とそっくり同じことをしている。少しだけ違うのは、メイン料理。セリナージェは豚肉が好きだが、ベルティナが好きなのは鶏肉だ。
だが、ベルティナはそれを口に出して言ったことは一度もない。それなのに、ベルティナのお誕生日パーティーのメインディッシュは鶏肉になっている。ベルティナは家族はもちろん使用人のみんなにも感謝と尊敬と愛情を感じずにはいられなかった。
ベルティナは今年も泣いていた。嬉し涙だ。
食事の後、サロンにみんなが集まり話をしていた。セリナージェはクレメンティの話を強請られ照れていた。でも、六月の頃のように決して否定したりはしない。恥ずかしがりながらもクレメンティのことを惚気けていた。
さらに今回は双子の姉たちのベイビーたちという主役もいる。まるでこちらも双子のようにそっくりな女の子たちで、ティエポロ侯爵の目は開いているのかわからないくらい細くなってタレていた。
「あなたたちも一緒に産むと楽しいことも2倍よ」
ポニージェとメイージェがベルティナとセリナージェにウィンクした。
「二人は嫁になどいかん! ずっとここにいるのだっ!」
セリナージェの惚気け話を聞こうとしていなかったティエポロ侯爵は本音をぶちかました。隣りにいたティエポロ侯爵夫人に頭を『コツン』とされていた。これにはみんな大笑いだ。
〰️
そこへ、執事が紙とペンを盆に乗せて入ってきた。盆をテーブルに置く。
「みんな。テーブルに座ってくれ」
ティエポロ侯爵の命で大きな丸テーブルに全員が座った。ベルティナはティエポロ侯爵夫人の隣に呼ばれた。いつもはそこはセリナージェの席だった。
「ベルティナ。君はもうすぐ十八歳の成人だ。それは先程も言ったな。成人は書類上のことも自分で決められるようになるのだ。
ただし、貴族はどうしても親の意向が強いのはわかるね」
ベルティナとセリナージェが頷く。セリナージェもクレメンティが好きだし一緒にいたいが父親から政略結婚を望まれたら拒否はできないと思っている。それが『親の意向に従う』ということだ。
だが、今のティエポロ侯爵がそのようなことを言うとは思えない。話の行き先が読めないベルティナのセリナージェはティエポロ侯爵の言葉を待った。
ティエポロ侯爵が一つ息を吐く。
「ベルティナ。君の両親が君の存在を自分たちのものだと主張する前に、君には自由になってほしいと私たちは思っている」
『もしかして、卒業後はここを出ていけということなのかしら……』
ベルティナは侯爵が言わんとすることを考えて怖くなった。それはセリナージェも考えたようで、セリナージェはベルティナの手をギュッと握る。
「父さん。遠回しすぎて二人が捨てられた子供見たいな顔をしているよ」
ジノベルト兄夫妻と姉二人がベルティナとセリナージェの青くした顔を見てクスクスと笑っている。ティエポロ侯爵は苦笑いした。
「ベルティナ。あなたは子供の頃にされていたことを覚えているわよね? わたくしたちは、あのような家にあなたを返したくはないの」
ティエポロ侯爵夫人がベルティナのセリナージェが握っていない方の手を握る。
「叔母様……」
「オッホン! そこでだ! ベルティナ。私たちの子供になりなさい」
やっと本題を出せた父親に兄夫妻と姉二人は笑いが止まらないようで、肩を揺らしていた。
「「え?」」
ベルティナだけでなくセリナージェにもわからない話だ。
「私と正式に養子縁組をし私の子供となるのだ。私たちの子供になったとはいえ、君を縛るつもりはない。君は文官になりたがっているとセリナから聞いている。それを反対したりはしない。
だが、君はタビアーノの家名のまま文官になるとタビアーノ家に給料を取られたりするかもしれない。いや、文官にさえさせず家で奴隷のように働かされるかもしれない。それはわかるね?」
ティエポロ侯爵は先程のようなおどけた顔ではなく真面目な大人の顔であった。
ベルティナは視線を落として頷いた。
セリナージェだけが話の半分を理解していない。
「どういうこと? なぜベルティナがそんなことをされるの? ベルティナと家族になれるのは嬉しいけど、お父様の言っていることがわからないわ!」
セリナージェが興奮気味にみんなの顔を見ていく。誰もすぐには答えない。セリナージェが理解していないのは、ベルティナがタビアーノ家にされるかもしれないという内容についてだ。
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