第28話 告白
エリオはクレメンティに向き直った。
「レム。こういう時に急ぐのはよくないよ。レムの不安な気持ちはわかる。だからこそ、ちゃんと把握できるようにしよう。な」
エリオはベルティナの手を握っていた手をクレメンティの肩にそっとおいた。
クレメンティが目を伏せて頷いた。
「ねぇ、ベルティナ。今日のこの事態にはロゼリンダ嬢たちが絡んでいるんだね? でないとあの席は考えられないよね?」
エリオはロゼリンダたちが一言もなくエリオたちの後ろに座ったことが当然気になる。
優しく声をかけ続けベルティナを導いていく。ベルティナは頷く。
「ベルティナ。ゆっくりでいいんだ。何があったのかを話してみて……」
ベルティナは途切れ途切れに昨夜の話をした。セリナージェの気持ちを考えると涙が止まらずうまく話せない。それでもエリオとクレメンティは辛抱強く聞いてくれた。
ベルティナが気がついたときにはクレメンティの顔は真っ赤で目には怒りが表れていた。
『ドン!』
クレメンティが地面を拳で殴りつけた。
「レム。落ち着いてキチンとベルティナに説明したほうがいい。
いや。こうなったらセリナも一緒に話をしよう。
ベルティナ。寮の共同談話室にセリナを連れてきてくれるかい?」
ベルティナが頷くとエリオはサッと立ち上がりベルティナの手を引いた。三人は寮へと戻ることにした。
〰️ 〰️ 〰️
ベルティナは朝と打って変わってセリナージェの部屋に入り込み嫌がるセリナージェにフード付きのローブを被せ無理やり部屋の外へと出した。そして、エリオとクレメンティが待つ共同談話室へとセリナージェを引っ張ってきた。
談話室に入るとクレメンティがこちらに来ようと立ち上がったがエリオが押さえた。エリオたちが待つテーブルへと進みセリナージェをクレメンティの隣へ座らせる。
「セリナ。大丈夫かい? レムから話があるから聞いてやってほしい。何も言わなくていいからね」
エリオの言葉にセリナージェは小さく頷く。フードを深く被っているので顔は見えない。
「セリナ。嫌な思いをさせて済まない。実は夏休みにティエポロ領から学生寮へ戻ってくるとピッツォーネ王国の両親から手紙がきていたんだ。それには僕とロゼリンダ嬢の婚約話があると書かれていたよ」
セリナージェの肩が大きく揺れた。ベルティナはセリナージェの手をギュッと握った。セリナージェも握り返してきた。セリナージェも心を強くして聞かなくてはならないのだと覚悟したのだろう。そしてその時にはベルティナに側にいてほしいと願ったのだ。
「でもね。両親からの手紙は僕の気持ちを聞いてくれる内容だったんだよ。だから、僕は好きな女性がいるからロゼリンダ嬢との婚約話を断ることを書いて両親にすぐに返信をした。
ティエポロ領から戻ってすぐに書いたんだけどまだ両親には届いてないかもしれないな。だけど、僕の両親は僕の気持ちを無視して話を進めるような人たちじゃない。
それに僕の気持ちはもう決まっている」
エリオは立ち上がりベルティナの手をとり離れたテーブルへ移った。
クレメンティが椅子をセリナージェの近くに寄せ背中を擦りながらセリナージェの耳元で話をしているのが見える。
「ベルティナ。よくセリナを連れてきてくれたね。大変だったろう? ありがとう」
エリオはベルティナの手を握ったままもう片方の手でベルティナの頭をナデナデしてベルティナを優しく見つめた。
「え? あ、そうね……」
ベルティナはエリオのその暖かな両手の温度を全身で感じて少しポッーとエリオを見つめて考え事をしていた。
ベルティナは朝には一人ではできなかったことをセリナージェにした自分に驚いている。それをできた理由をホワホワした頭で考えていた。
「本当に助かったよ。レムから両親の手紙については聞いていたんだ。はっきりしたことは何もないのに、君たちに伝わるなんて思ってなくて。後手にまわってしまってすまなかったね」
少し下を向いてそう説明するエリオの声をベルティナは上の空で聞いていた。だが、エリオの両手がベルティナの手をすっぽりと包んでいてとても暖かくてその暖かさだけは鮮明に感じていた
『なぜあんな無茶ができたんだろう?
……そうだわ、私、エリオのことを信頼しているのだわ。エリオが連れてきてほしいと言うから任せても大丈夫って思ったのよ。
エリオはいつでも私を支えてくれているのね。この暖かな手を私は信じているわ』
そう思ったベルティナはまるで当たり前のように言葉にしていた。
「私、エリオが好きみたい。あなたのことをとても信頼しているの」
二人の間に沈黙が流れる。
そして、先に我に返りベルティナの突然の告白に慌てたのはエリオであった。我に返ったのに『アワアワ』としていて何も答えない。
ベルティナはそんなエリオを見て告白してしまった自分にびっくりしてしまった。
「エ、エリオっ! 友達としてってことよ。今日もセリナを助けてくれたし、頼りになるなぁって思って。あまり深く考えないで」
「あ、そうか。そ、そうだよね。うん、わかった。信頼してくれてありがとう」
ベルティナは自分で友達だと言ったくせにエリオにそれを認める発言をされて心のどこかでがっかりしていた。その気持ちが何を表すのかは考えることをこれまた心のどこかで拒否していた。
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