第17話 夏休みのお誘い
夜。寮で食事の後、ベルティナとセリナージェはいつもセリナージェの部屋で勉強したりおしゃべりしたりしている。
「レムのお勉強ははかどっているの?」
「私が教えられることなんてないのよ。レムはとても優秀なの。だから、そのぉ……教えるというより一緒にお勉強しているの」
「まあ! それはよかったわね」
ベルティナは名案を思いつき両手の平を胸の前で『パチン』とさせた。
「ねえ、セリナ。もうすぐ夏休みよ。レムを領地へお誘いしてみたら?」
「え! そ、そんなこと!!
………来てくれるかしら?」
「きっと大丈夫よ。」
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クレメンティがセリナージェ誘いを断るわけもなくクレメンティが行くならもちろんイルミネもエリオも行くことになる。
こうして五人は夏休みをティエポロ領で過ごすことになった。
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ティエポロ侯爵州ティエポロ侯爵領はスピラリニ王国の中では北に位置しており夏は王都より幾分か涼しい。
クレメンティは隣国の公爵令息なので王城から護衛が出されることになったがクレメンティがあまり大事にしたくないと固辞して騎馬騎士四名という護衛のみになった。これなら侯爵令嬢の帰省には普通の護衛であろうから目立たなくて済むだろう。
道中何事もなく州都に到着した。セリナージェの家族は仕事の都合で今年の夏は帰省できるかどうかもまだわからない。
五人はお忍びで州都探索にでかけた。さすがに侯爵州の州都だけあってかなり大きな都市だ。
お昼前に出掛けたので屋台街へと足を向けた。近くに行くだけで肉の焼ける香ばしい匂いが広がる。焼き肉やサンドイッチを買い設営テーブルに付くとなぜかクレメンティがそそくさと串肉を外そうとした。
「レム、何をしているの?」
セリナージェがクレメンティの手元を見つめる。
「だってこのままじゃ君たちは食べにくいだろう?」
「レムって串肉食べたことがないの?!」
ベルティナがびっくりして聞いた。
「ブッ! ブハハ! そんなわけないじゃん!」
イルミネは腹を抱えて笑っていた。
「じゃあ、どうして?」
セリナージェが首を傾げてクレメンティを見た。
「セリナのため? かな?」
エリオが代わりに答えた。クレメンティが赤くなる。
「やっだぁっ! そうだったの? レム、ありがとう! でも、郷にいれば郷にしたがえ、よ。こういうところではこれが正解なのよっ!」
セリナージェは串を持ち上げて串肉にかぶりついた。クレメンティは目を見開いた。
「わあ! 美味しい!」
「こう食べないと美味しくないわよね。フッ、ハハ!」
ベルティナも肩を竦めて笑った後に同じようにかぶりつく。クレメンティはベルティナの姿にも目を丸くしていたがイルミネは大笑いエリオはニコニコとしていた。
「いいねぇ! 二人とも! 楽しみ方をよく知ってるじゃないか」
イルミネもかぶりつく。
「うん! 美味い!」
「どれ? ほぉ! 本当に美味いな。レムも食べよう!」
たくさん買ったはずの串肉はあっという間になくなりサンドイッチもすべて平らげた。
それから市街地をブラブラと歩く。そこにかわいい雑貨屋さんがあった。
「わぁ、これ、かわいい!」
「本当だ。どれもステキね」
セリナージェが喜んで近づいたそこには、色とりどりのビーズが使われた髪留めピンが並んでいた。
「あ、あの、セリナ。どれかプレゼントさせてくれないか?」
「え!」
セリナージェが赤くなる。
「す、すまないが、まだ君の好みがわからないんだ。君はどれがほしいの?」
「あ、あのぉ……。レムはどの色が私に似合うと思う?」
クレメンティはどうしたらいいかわからなくてあわあわとしていた。イルミネが髪留めピンを一本を取りセリナージェの耳の上辺りに合わせる。
「うーん、これはちょっと違うみたいだね。 こっちは? うーん、こっちもなんか違うねぇ。
レム。ちゃんと選んであげなよ」
クレメンティとセリナージェはお互いに顔を赤くしながら髪留めピンを選んでいた。ベルティナにはそんなセリナージェが眩しかった。
三人は二人から少し離れて他の物を見ていく。
「ふふ、これ、かわいい!」
そこには、いろいろな模様が刻まれた鉄の刺しピンブローチだった。
「べ、ベルティナ! よかったらお揃いで買わないか?」
エリオはどもりながらベルティナに声をかけた。
「まあ! それはステキね! 五人の仲間の印になるわっ!」
イルミネはポカンと口を開けたあと大笑いを始めた。ベルティナは何が可笑しいのかわからない。エリオはイルミネを肘でど突いていた。
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