第16話 お茶会
双子のお姉様たちとのお茶会はいつも穏やかでリラックスできて自然と会話が弾む。ベルティナは今日の話題が昨日の話でお姉様たちはセリナージェから聞き出したいのだと察した。
「まあ、あちらは気候が穏やかで過ごしやすいと聞いているわ。それでどういう感じのお方なの?」
「真面目で思っているより融通がきかなくてでも一生懸命で、まわりのことを気にすることができて、優しい人だわ」
セリナージェは昨日ベルティナにされた質問なのでスラスラと答えることができた。
「そう、とても良い方のようね。お名前は?」
「え?」
セリナージェは一人の人だけを思い描いていたことに気がついて顔を赤くした。
「ベルティナ。教えてくださる?」
「今の説明ですと、ガットゥーゾ公爵家ご長男のクレメンティ様だと思います」
ベルティナは笑いをこらえて答えた。
「なっ! ベルティナったらっ!」
セリナージェはベルティナを睨む。
「まあ、セリナ。ベルティナを責めてはいけませんわ。わたくしたちは三人の殿方のことを質問したのに、セリナがお一人の方のお話しかしなかったのでしょう?」
「お姉様……。意地悪です」
セリナージェはボニージェを恨めしい目で見た。
「まあ、そうおっしゃらないで。わたくしたちは心配なの。この家にはお兄様とわたくしたちがいて、家についてはどうにかなるわ。だからお父様もお母様もあなたを自由にしてきたでしょう?」
「お兄様やわたくしたちも、ね。
でも、セリナはもうすぐ十八歳なのよ。そろそろ大人にならないとお嫁に行くところがなくなってしまうわ」
二人はまるで示し合わせたかのようにピッタリであった。
「お嫁って! まだ恋もしていないのにっ!」
セリナージェが必死になる。
「ふふふふ、もうその方に恋をなさっているではないの?
『殿方』と言われて、頭の中にたった一人しか出て来なかったら、それは恋が始まっているのよ」
ベルティナの頭にたった一人が浮かんでしまった。ベルティナは心の中で慌てた。でも、顔には出さなかった。
「もう、お姉様たちったらっ! やめてくださいな。私、明日からどうしたらいいの?」
セリナージェが顔を両手で隠して下を向いてしまった。
「気がついてからが大切ですわね。あなたが、お相手にしてあげたいと思うことをしてさしあげればいいのよ」
ボニージェがゆっくりとお茶を口に運んだ。
「無理にするのではなく、自然にですわよ。自分の気持ちをゆっくり温めなさい」
メイージェがゆっくりとお茶を口に運んだ。
「お姉様たちのお言葉は難しいわ」
「ふふ、セリナ。考えることは大切よ。あなたの将来にも関わるのだから」
ボニージェがカップをテーブルに置く。
「ベルティナもよ。あなたの頭に浮かんだその方をまずは大事になさいね」
メイージェがカップをテーブルに置く。メイージェの言葉にベルティナは肩を揺らしてびっくりした。
「エリオだったでしょう?」
さらにびっくりして目を見開いたままセリナージェの顔を見た。
「昨日の殿方のお一人ね。ふふ、恋は楽しんだ方がいいわ、ね、メイー」
「ボニー、わたしたちの学園時代を思い出すわね」
それから二人は自分たちの学園時代の話をベルティナとセリナージェに聞かせた。二人は確かに今の旦那様とは小さい頃からの婚約者であったがその旦那様方に学園時代に恋をしたそうだ。
二人の恋物語はとてもロマンチックだった。
〰️ 〰️ 〰️
月曜日、ベルティナとセリナージェは屋敷から学園へ登校した。二人が教室へ入るとまずはイルミネが見つけてくれた。こういうとき彼の明るさはとても素晴らしい。
「おっはよぉ! この前ごにょにょ……」
クレメンティに口を押さえられる。エリオがイルミネの頭を『コツン』と叩く。
五人でランチをしていることも五人で出かけたことも内緒なのだ。特にロゼリンダたちには知られたいことではない。出かけたことは隠したいわけではないが知られたら面倒くさいとは思っている。
三人の絶妙なチームプレーにベルティナもセリナージェも笑ってしまった。
でもベルティナはちょっとだけまたひっかかりを感じた。
とにかくイルミネのおかげで自然に話ができたことは間違いない。
エリオとクレメンティが小さな声でクッキーのお礼を言った。
その日からクレメンティの態度は一変していた。休み時間に後ろを向いて話をすることはもちろん教室移動にもセリナージェと並んで歩く。朝には玄関前でセリナージェを待ち教室まで一緒に歩くほどだ。
出かけたことを知られないようにしたことは全く意味を成さなかったが、そんなことより寄り添う二人が楽しそうで三人は心から応援している。
ベルティナとエリオとイルミネはさり気なく少しだけ距離を置くようになった。そうすることで見えるセリナージェの笑顔がとても幸せそうに見えてベルティナは自分のことのように嬉しかった。
「セリナ。放課後なんだけど。よかったら図書室で勉強をみてくれないか?」
クレメンティが前のめりでセリナージェを誘う。セリナージェは嬉しそうにしながらも控えめに下がる。
「それならベルティナの方がいいわ。ベルティナはとても優秀だから」
「セリナ。ごめんね。私、先生に呼ばれているのよ」
もちろん嘘だ。こうしてセリナージェとクレメンティは放課後には図書館デートをするようになった。
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