第15話 双子のお姉様

 セリナージェはゆっくりとクレメンティを思い浮かべながらベルティナの質問に答えた。


「そうねぇ。とても真面目で思っているより融通がきかなくて、でも何にでも一生懸命で、周りのことを気にすることができて、周りのために一歩引ける人、かな。それに優しいわ。

ふふふ、優しすぎて心配性なところもあるわね」


 セリナージェは心配顔のクレメンティを思い出すとついつい笑ってしまう。


『まあ! すごく可愛らしい笑顔だわ。その笑顔がセリナの気持ちを表しているのではないから?』


 セリナージェが男の子にこのような気持ちになったことは今までなかったのでベルティナはとても嬉しくなった。


「そんな人が人を騙したりからかったりすると思う?」


 セリナージェはクレメンティが誰かを騙してほくそ笑んでいたり、罠に嵌まった人を嘲笑っている様子を思い描いた。クレメンティの人物像には全く被らなかった。


「………そうよね………」


 ベルティナはセリナージェを待つ。


「私、どうしたらいいのかしら?」


「んー…… セリナはどうしたいの?」


「よくわからないわ」


「じゃあ、レムに優しくされてどう思ったの?」


「それはうれしかったわよ。だって、誰にだって優しくされたら嬉しいものでしょう?」


「エリオもイルも優しいわよ?」


「そうね」


「今はまだ今のままでいいんじゃないかしら? きっと、自分で自分の気持ちがわかる時がいつか来るわ」


「そうよね。すぐにお別れってわけじゃないしね」


 セリナージェが少しだけ起き上がってベルティナの顔を見た。


「ねえ、ベルティナはエリオのことをどう思っているの?」


「エリオ? なぜエリオが出てくるの?」


「え?! ふーん。ベルティナにもわからないことってあるのね。なんだか嬉しいわ。ふふふ」


 セリナージェは再び布団の中にもぐった。

 ベルティナは不思議そうな顔をしてセリナージェを見ていた。


 セリナージェがまた話始める。


「あ、あのね、五人でストックの木の太さを測ったでしょう?」


「うん。小さな子供になったみたいで面白かったわね。ふふふ」


「うん。面白かったわ。それで、ね、その時、エリオとレムの手が繋がらないって言うたびにイルが私の手をどんどん離していって、イルが指で私の指先を掴んだ状態で、もうイルと私の指が離れそうってなってやっと五人がつながったの」


「ええ、私もそうだったわよ。イルは震えながら、私の指先を離さないように頑張っていたわね」


 また、セリナージェが黙ってしまった。ベルティナはセリナージェを見ないで上を見たまま待っていた。


「それなのに、ね……。レムったら私の手をギュと握って全然離そうとしないのよ。レムが私の手をイルみたいしたらきっとすぐに届いたわ。まるで届きたくないみたいに……」


 ベルティナは慌てて布団を目元まで被った。ベルティナの手を繋いでいたエリオもそうしていたことを瞬時に思い出したのだ。ベルティナはその時イルミネの頑張りにばかり目を向けていた。


 エリオとクレメンティの手が届かなければエリオとベルティナはずっと手をつないだ状態が続く……。


 ずっと…………。 


「も、もう、寝ましょう。さすがに疲れたわ」


 ベルティナは誤魔化すようにセリナージェを促した。


「うん。おやすみ」


「おやすみ」


〰️ 〰️ 〰️


 次の日は日曜日だ。ティエポロ侯爵邸にセリナージェのお姉様たちがお昼過ぎに遊びに来た。セリナージェのお姉様方お二人ボニージェとメイージェは双子だ。

 二年前にそれぞれ伯爵家に嫁ぎ二人とも現在妊娠中。どちらも旦那様が王城に仕えているので王都で暮らしている。


 サロンの窓を開け放てば涼しい風が通るので、四人はサロンでお茶をした。


「お姉様方、お体の具合はどう?」


「とても良くなったの。やっと落ち着いたってところかしら」


「わたくしもそうね。先月などはずっとベッドの中でしたもの」


 ボニージェの言葉にメイージェが賛同した。


「安定期になりましたのね。お二人の赤ちゃんに会えるのが楽しみです」


「ベルティナ。ありがとう」


「ベルティナ。セリナのこともいつもありがとう」


 二人はそっくりな笑顔をベルティナにむけた。


「二人はもう学園の三年生でしょう。ステキな殿方は見つかりましたの?」


「そんな、簡単なお話じゃないんです」


 セリナージェが少し唇を尖らせた。


「あら? 昨日、ステキな殿方が三人もいらしたとお母様からお聞きしましたよ」


『お二人はおば様から偵察を頼まれたのだわ。おば様は昨日、エリオたちともっと話をしたそうだったもの』


 ベルティナはそう察した。だから、あまり口出ししない方がいいだろうと聞く側にまわる。二人のお相手はセリナージェに任せることにした。


「三人ともクラスメートですよ。席も近いのでお話することも多いのです」


「まあ! そうやって親睦を深めてますのね。いいことだわ。どんな方たちなの?」


「隣国のピッツォーネ王国からの留学生です」


 セリナージェはすまし顔でどんどんと質問に答えていく。

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