第14話 クッキー
馬車で学園の近くまで三人を送る。ベルティナとセリナージェは今日と明日は屋敷に泊まって月曜日の朝に学園へ帰る予定だ。
三人が馬車を降りた。ベルティナとセリナージェも紙袋を三つ持って一緒に降りる。
「これは昨夜作ったの。だから私も最初から最後までやったわよ」
「ふふふ、そうね。
これ、おやつに出そうと思って作ってきたのだけど、三人ともお腹いっぱいだったみたいだったから出さなかったの。お土産だと思ってね」
ベルティナがエリオとイルミネに渡した。セリナージェはクレメンティに渡す。
「開けていい?」
エリオが少し上目遣いで二人に聞いた。
「「どうぞ!」」
「わぉ! クッキーじゃん! スゴイ! カラフルだね! 色んな味になってるのかな?」
イルミネが喜びの声をあげた。
「そうよ。楽しんで食べてね」
セリナージェの自信満々な様子が可愛らしくて、ベルティナはつい笑ってしまう。
「ありがとう。すごく嬉しいよ」
「ああ、楽しみだな」
三人があまりにも中を真剣に見ているので、ベルティナが照れてしまった。
「あ、あんまり期待しすぎないで、ね」
「もう、ベルティナったらっ! こういうときは、自信持って渡した方が美味しいのよ!」
「そうかもしれないな。ハハハ。セリナ。楽しみに味わうよ」
クレメンティの言葉に今度はセリナージェが照れてしまった。
「じゃあ、今、感想を言ってしまおう!」
そう言ってイルミネが袋から取り出して一つをパクリと食べた。
「バターのいい香りだ。これはどうして緑なの?」
「ほうれん草が入っているのよ」
「え“?」
エリオがカエルが潰されたような声を出した。エリオがほうれん草を嫌いなようだとベルティナは気がついていた。イルミネと違って我慢して食べているが残すことも多い。
エリオの一言にベルティナはクスクスと笑う。
「エリオ。一つ食べてみたらいいよ。全くわかんないから」
イルミネのおすすめにエリオが恐る恐る口した。そして、目を見開いた。
「あれ? うまい……」
「ふふふ、よかったわ。エリオに食べてほしくて作ったのよ」
ベルティナが笑顔でそう言うので、エリオは頭をかきながら照れていた。
「じゃあ、レムはこの赤いのを食べてみて!」
セリナージェがクレメンティの袋からオレンジ色っぽいクッキーを出してクレメンティの口元に持っていった。クレメンティはそれを肩を揺らしてびっくりする。セリナージェもクレメンティの反応で自分のしていることに気がついて手を引こうとした。
しかし一瞬はやくクレメンティがセリナージェの手首を掴んでしまう。そっと顔を近づけセリナージェの手にあったクッキーを口に入れた。
セリナージェは真っ赤になった。
「うまい!」
クレメンティは笑顔だったがまだセリナージェの手首を離さない。
ベルティナはそれをないかのように話を進めた。
「それは人参入り、ね。ふふふ」
「え“?」
クレメンティはびっくりしてセリナージェの手首を離した。セリナージェは顔を赤くしたままで話ができそうもない。
「ああ! 俺には好き嫌いがないから工夫なんてしてもらえないやぁ」
イルミネが口を尖らせた。イルミネが野菜をクレメンティの皿に乗せるのは野菜嫌いなわけではなくクレメンティで遊んでいるだけなのだがベルティナはそこまではさすがに知らない。
「イルは野菜嫌いが多過ぎるのでしょう?」
「あ……バレているんだった。あはは」
「イルの袋には多めにナッツクッキーを入れておいたわ。人参クッキーも嫌がらずに食べてね」
「ベルティナ! 本当に? やったぁ! 楽しみだなぁ!」
イルミネがあまりにはしゃぐので、みんなもついつい笑ってしまった。
〰️ 〰️ 〰️
ベルティナとセリナージェは久しぶりに一つのベッドで寝ることにした。ベッドに入ってもすぐに寝れるわけじゃない。二人で寝るので尚更である。
ベルティナの隣で横になっているセリナージェが今日の出来事を興奮したように話している。ベルティナはほとんど知っている話にも関わらず、セリナージェの様子があまりにも可愛らしくてずっと聞いていられた。小さく相槌を打ちながらセリナージェの話を聞いている。
セリナージェが急におとなしくなったと思ったらお話の内容が少しだけ変わった。
「ねぇ、ベルティナ。レムは……そのぉ……私のことどう思っている……のかしら?」
「どうって?」
「もしかしたら……私、からかわれているのかなって……」
少し不安の混じる声にベルティナは横を向いてセリナージェの顔を見た。
セリナージェは毛布を目元まで持ってきて顔を隠した。赤くなっているかもしれない。
ここでクレメンティの名前が出るということはクレメンティがセリナージェとベルティナに差をつけて接していることはわかっているのだろう。
「セリナはレムがどういう男の子だと思っているの?」
ベルティナは予想しているクレメンティの気持ちのことをわざと言わなかった。
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