第11話 ガーベラ

 ベルティナとセリナージェはベルティナのお願いで前日からティエポロ侯爵邸へ戻っていた。ベルティナは朝早くから起き出して忙しそうだ。セリナージェも朝食の後には手伝だった。

 こうして大きな籠四つが用意ができた頃に三人がやってきた。

 玄関ではベルティナとセリナージェだけでなくティエポロ侯爵夫人も迎える。


 執事がドアを開け三人が入ってきた。


「まあ、いらっしゃい! ステキな男の子たちねぇ。ふふふ」


 ティエポロ侯爵夫人が満面の笑顔で出迎えた。


「ティエポロ侯爵夫人様。ピッツォーネ王国、ガットゥーゾ公爵家が長男クレメンティと申します。以後お見知りおきください」


 クレメンティがガチガチの表情で裏返った声でティエポロ侯爵夫人に挨拶をして深く頭をさげた。セリナージェはその姿にびっくりしており、ベルティナは肩を揺らして笑っていた。

 さすがに夫人の前ではイルミネもニヤニヤすることはなくイルミネとエリオは極々普通に挨拶する。


「フフフ。みんな可愛らしいのね。セリナもベルティナも目が肥えてますこと」


 扇で隠された夫人の笑顔の独り言は周りには聞こえない。


「三人とも! こちらに来て!」


 セリナージェが中庭に三人を誘った。三人は夫人に軽く頭を下げてセリナージェについていった。


 そこには見事なガーベラが咲き誇っている。


「あの時の花かい?」


 エリオはすぐに春休みのボランティアを思い出し口にするとクレメンティとイルミネも納得している様子だ。


「ほとんど庭師の方の力なのだけれど、キレイに咲いたから見てもらいたかったの」


「もう! ベルティナったらっ! 『私たちも頑張ったのよう』でいいじゃない。真面目なんだからぁ」


 セリナージェは笑いながらベルティナをからかったが意味が理解できないベルティナはキョトンとした顔をする。ベルティナの中にはそれを自分の手柄にするという発想がないのだ。


「その真面目さがベルティナのいいところの一つだろう?」


 エリオがこれまたあまりに真面目に答える。一瞬五人に間が空きベルティナが真っ赤になった。そんなベルティナを見て三人は笑っていたがエリオもまた赤くなって頭をかいていた。


「セリナはどの色が好きなんだ?」


 クレメンティがなんの脈絡もなく質問する。


「ガーベラはどんな色でも好きよ。こうしてお庭にあっても切り花でお部屋にあってもステキよね」


「そうか。セリナにとてもよく似合いそうだ」


 クレメンティは無自覚に褒めてセリナージェが頬をほんのり染めていたことに気がついていないようだった。


 二組の微妙な男女。イルミネはどちらのこともニヤニヤと見守っていた。


 五人はしばらく庭を散策して中庭を後にし侯爵家の馬車へと乗り込む。


「では、お母様。いってきまーす!」


「いってまいります」


 ティエポロ侯爵夫人にセリナージェはヒラヒラと手を振るがベルティナは丁寧にお辞儀した。


 五人は狭さの理由からクレメンティとイルミネが並んで座りセリナージェとベルティナとエリオが反対側に座った。


「ベルティナ。僕の隣で嫌じゃないか?」


 エリオが気遣うがベルティナは不思議そうな顔をした。


「ランチではいつも隣じゃないの。気にしないで。ふふ」


「そ、そうだな」


『違う意味で気にしてほしいのだが』


 エリオは心の中でがっくりした。

 それを察したイルミネは『クックックッ』と笑っていた。ベルティナとセリナージェにはイルミネが笑っている理由がわからない。クレメンティがイルミネにキツめの肘打ちをした。


「っと! 今日は二人ともかわいいね。夏が近いなって思えるよ」 


「イルはいつも上手ね。そういう三人もとても涼し気でおしゃれね」


 そう返したセリナージェだが褒められれば嬉しいものだ。可愛らしく笑顔になった。


「ホントに? 女の子に服を褒められるって嬉しいなぁ。言わなきゃ伝わらないことってあるよね。

なあ」


 イルミネはそう言って隣のクレメンティに肘で『コツン』とする。


「あ、ああ、すごく似合っている。うん!」


 クレメンティは恥ずかしそうに頬を染めた。


「そうだね。二人ともステキだね」 

 

 エリオもすぐに追従した。


「ふふ、ありがとう」


 ベルティナも笑顔でお礼を言った。


 セリナージェが窓を少し開ける。


「今日はいいお天気でよかったわね」


「そうだな。どのくらいで着くのかな?」


 クレメンティもセリナージェと同じ窓に近づく。


「執事さんの話だとお昼前には着くそうよ」


 クレメンティの質問にベルティナが答えた。


「え、それなら、どこかで食べてから行くか?」


 エリオが慌ててイルミネを見た。イルミネは首を左右に軽く振った。


「エリオはよく見てないんだねぇ。メイドさんが何やら用意してくれていたじゃないか」


 セリナージェは少しばかりびっくりしてイルミネを見た。


「イルは目敏いのねぇ?」


「まあね。セリナのお母様がとても美しいのもちゃんと見たよ。な、レム?」


 クレメンティがなぜか赤くなって小さく頷いた。


「セリナにそっくりだったね。な、レム?」


 クレメンティはさらに赤くなって頷いていた。これにはさすがのセリナージェも赤くなった。

 ベルティナは隣のエリオを見た。エリオはベルティナの視線を感じてベルティナに頷いた。


「イル。その辺にしとけよ」


 エリオはイルミネの足をつま先でコツンと蹴る。


「はーい。プックック」


 そこからはエリオとベルティナが大袈裟に話をしていきしばらくしてクレメンティもセリナージェも復活してからは普段の昼休みのような雰囲気で楽しい道のりとなった。

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