第10話 外出の約束
翌日、ベルティナとセリナージェは五つのランチボックスと三つのサンドイッチを持って、いつもの場所へ行った。シートを四枚小さな四角になるように敷き、その一枚にベルティナとセリナージェは二人で座った。
昨日と同じ場所の茂みが揺れる。
「へぇ! ここはいいね」
それは大きな体を縮こませてクレメンティであり後ろにはエリオもついてきている。
「おお! 結構開けているんだな」
「二人ともお待たせ」
イルミネが二人に手を振った。
「とにかく座って」
セリナージェがそう言うと三人は改めてその場を確認した。
「シートまで用意してくれたのかい? ありがとう」
エリオがベルティナの隣に座るとクレメンティもセリナージェの隣にイルミネはエリオとクレメンティの間に当たり前のように場所がきまった。
三人とも靴を脱いでまずはあぐらをかいた。
「確かにこれは気持ちがいいな!」
クレメンティがあぐらをほどき長い足を投げ出す。シートからははみ出てしまっているが気にした様子はない。
「だろう! リラックスできるよなぁ」
「あれ? 僕達の分、多くないか?」
エリオが自分たちの分とベルティナたちの分の違いに気がついた。
「春休みにあなたたちがどれだけ食べるかは何度も見てるもの! ねぇ、セリナ、ふふ」
「クスクス。私たちと同じランチボックスじゃ足りないでしょう?」
「わぉ! さっすがぁ!」
イルミネは大喜びで早速サンドイッチの箱を開けた。
「おいおい流石にマナーがぶっ飛んでるぞ」
「ならレムの分も食べてやるよ」
イルミネが伸ばした腕をクレメンティは勢いよく叩く。
「やるわけないだろっ!」
そんな二人のやり取りに三人も声を上げて笑った。五人はランチを始めると春休みの頃のように話が弾む。
〰️ 〰️ 〰️
昼休みが終わる頃、ベルティナたちはバラバラに教室へ戻った。
後から教室へ入ったベルティナとセリナージェはクラスメートたちが昼休みのことを知っている様子は見受けられず安堵して自分の席へ座った。
次の休み時間になるとロゼリンダたちがクレメンティの席へとやってきた。さすがに高位貴族令嬢の三人は怒りも戸惑いも顔には出していない。
「クレメンティ様。お昼休みはどちらにおいででしたの? わたくしたちはずっと皆様をお待ちしておりましたのよ」
ロゼリンダはクレメンティに平静な口調で詰め寄る。クレメンティはどこ吹く風と飄々といなした。
「ロゼリンダ嬢。大変申し訳なかったね。留学の内容について三人で先生に呼ばれていたのだ。これからも先生との話し合いが昼休みになりそうだから、僕たちのことは気にしなくていいよ。君たちのお陰で食堂を使うことにも慣れたし。
これまでどうもありがとう」
クレメンティにそう言われるとロゼリンダたちは下がるしかない。
ロゼリンダはすぐに振り返って席へと戻って行ったが、フィオレラとジョミーナはベルティナを睨むことは忘れなかった。
『レムは先生とのランチだって言ってるのに、どうして私を睨むのよ?』
ベルティナは少しだけ口を尖らせた。それにしても二人はクレメンティの昼食にベルティナとセリナージェが絡んでいると思っているようだ。女の勘は恐ろしい。
こうして、晴れの日には五人でランチをした。雨の日には、三人は本当に先生の部屋で食べているようだ。イルミネがベルティナとセリナージェを見つけたのは偶然であり、ロゼリンダたちの誘いを断るために本当に先生の部屋で食べるつもりだったのだろう。
ベルティナは雨の日を残念に思うようになっていた。しかし、その気持ちがどこから来るものなのかをベルティナが考えることはなかった。
〰️ 〰️ 〰️
六月になった。いつものような昼休み、いつもの場所で五人はランチをしていた。
「三人とももうすっかり学園に慣れたみたいね」
「うん。毎日楽しいよ」
セリナージェもエリオもランチボックスのおかずを口に運びながら楽しそうだ。
「あ、そうだ。久しぶりに五人で市井に行こうよっ!」
「おお! それはいいな」
イルミネの提案にクレメンティも乗り気だ。エリオもモグモグと食べながら、ウンウンと賛成の意思を出している。
「いいわね、どこに行く? ベルティナ。行きたいところある?」
セリナージェもその気になり、ベルティナに意見を求めた。
「ストックの丘へ行ってみたいわ」
ベルティナは前々から考えていた場所を口にした。
「僕たちは聞いたことがないな?」
エリオの視線での確認に二人も頷いた。
「私も知らないわ」
セリナージェも目をクリクリさせている。
「大きなストックが一本だけ立っていてね、王都が一望できるんですってっ! クラスの女の子から聞いたのよ」
「へぇ! それは見てみたいな」
「そうだな」
「じゃあ、明日は朝に屋敷に行って、馬車と護衛を頼みましょう。寮の前に集合すると目立つから。
あとで地図を書くわね。ここから十五分ほどよ」
セリナージェが『決まり』というように話を進めた。
「セリナの家にいくのかっ?」
クレメンティが裏返った声で確認してきた。
「ええそうよ。私たちはさすがに護衛がいないと出かけさせてもらえないもの」
セリナージェは目をクリクリさせて不思議そうにクレメンティを見る。
「プッ! レム。支度に気合い入れすぎるなよ。引かれるぞ。ぶっはっはっ!」
セリナージェとベルティナには全く意味がわからなかった。エリオはからかっていると思われるイルミネを呆れた顔で見たが、特に注意もせずセリナージェに答えた。
「とにかく。明日の朝、寮で食事を済ませて十時頃伺うよ」
エリオの一言で決定した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます