第7話 違和感

 ベルティナは、なぜかあまり話さなかった。実はこの三人にまだ違和感を感じていたのだ。それをずっと考えていた。


「ベルティナもそれでいい?」


 エリオが心ここにあらずのベルティナに確認する。


「え? あ、何?」


「ベルティナ。今からレムをクレメンティ様って呼べる?」


 セリナージェがお茶目っぽくベルティナに聞いた。


「それは……まあ……できるけど」


「ハハハっ! 真面目なベルティナらしいね。でも、俺たちはそれを望んでないからさっ。ね? エリオ?」


 ベルティナの真面目さもイルミネにかかれば笑いの種だ。


「そうだな。そうしてくれると嬉しいな」


 ベルティナはびっくりしてセリナージェを見た。だが、セリナージェが頷いているのでベルティナは反対することはしなかった。女子二人の中ではセリナージェが高位なのだから。

 まあ、二人はそんなことは気にしていないが。



〰️ 〰️ 〰️



 ベルティナとセリナージェはいつものように寮の夕食の後セリナージェの部屋にいた。


「ねぇ。あの三人だけど何か違和感ない?」

 

 ベルティナは朝からずっと考えていることをセリナージェに相談してみた。


「えー? 別に何も感じないけど? 王都散策の時からあんな感じだったでしょう?」


「そうね。それはかわらないと私も思うわ」


 ベルティナも春休みを思い返してみた。確かに三人の雰囲気は同じままなのだ。それなのに今更違和感を感じてしまう。


「それよりこれからどうする? 昼休み……」


 セリナージェは違和感を感じていない。

 それより今日の騒ぎの方が気にかかる。美男子である三人に女の子たちが取り巻きになっているのだ。放課後などは三人が男子寮へ帰ればいいだけなので気にしないが、昼食が抜きになるようなことになれば可哀想だ。何せ三人が結構大食なとことは知っている。とはいえ、男子生徒なら普通の量だが二人は知る由もない。


「うん。あれではしばらくは付き合ってあげないと可哀想よね?」


「そうね。じゃあ、そうしましょう」


 だが、次の日には二人は開放されることになる。


〰️ 



 翌日も、廊下には男女問わず見物人が大勢来ていた。イルミネが手を振ると廊下で黄色い悲鳴が響いた。


「イル。やめろって。お前だけの話じゃないんだぞ」


 クレメンティがイルミネの手を叩いた。


「そうだぞ。セリナやベルティナに迷惑になるかもしれないから、やめておけ」


 エリオもイルミネに釘を刺す。


「私たちは特に問題はないわよ」


 マイペースのセリナージェは廊下の騒ぎについては全く気にしていない。


「そうね。今のところは」


 ベルティナはセリナージェに何もなければそれでいいと思っている。


 そう話しているところへクラスメートで高位貴族令嬢の三人であるロゼリンダとフィオレラとジョミーナが来た。


「クレメンティ様。

本日からお昼は、わたくしどもがご案内さしあげることになりましたの。よろしくお願いいたしますわ」


 ロゼリンダがクレメンティに話しかけているだけなのに、フィオレラとジョミーナはベルティナを見てニヤニヤしている。その視線は決してセリナージェに向かうことはない。


「いや。もう場所はわかっていますし問題はありませんよ。みなさんはみなさんでゆっくりなさってください」


「学園長様に頼まれましたので、そういうわけには参りませんの。テーブルも予約してありますので、ゆっくりはできますわ」


 クレメンティがやんわりと断るもロゼリンダは引かない。


「え? 食堂室って予約なんてできましたっけ?」


「セリナージェ様。お言葉」


 セリナージェがいつもの調子でロゼリンダにツッコミを入れたので、ベルティナは慌ててセリナージェを注意する。


「まー! ベルティナ様。男爵令嬢である貴女が侯爵令嬢であるセリナージェ様に同等な言葉遣いですの? 常識を疑われますよ」


 フィオリアはベルティナがセリナージェに『様』を付けたくらいでは許してくれないらしい。


「申し訳ありません……」


「ちょっとっ! 私、わたくしのお友達に文句は言わないでちょうだい。言わないでくださるかしらっ!」


 謝るベルティナをセリナージェは一生懸命に庇おうとしたが普段言葉と高位貴族令嬢言葉がバラバラである。


「その辺でおやめなさい」


 ロゼリンダの顔はフィオレラとジョミーナに向かっていたが、本音はどちらに言ったのかはわからない。


「クレメンティ様。とにかくそういうことでございますので、後ほどお迎えに上がりますわ」


 ロゼリンダが軽くお辞儀をして踵を返しクレメンティに返事を聞かずに去っていった。ロゼリンダたち三人は席へと戻った。


「ねぇ。レムだけ行けばいいんでしょう?」


 イルミネが小さい声で意見するとクレメンティは思いっきり渋面をした。


「イル。意地悪はよせ。今日のところはしかたあるまい。放課後にでも教師に相談することにしよう」


「はーい」


 イルミネも意地悪には自覚があるようで素直に返事をする。


「申し訳ありません。それしかないようですね」


 三人のやり取りにベルティナはまたしても違和感を感じた。答えがわからなくてムズムズするベルティナだった。

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