第5話 王都見学
次の日、約束通りランチの後王立図書館へ出かけることにした。ランチは宿屋トーニが営む小さなレストランですませた。お互いの国の話で会話がとても弾んだ。
食事を終え外で辻馬車に乗ることにする。ベルティナとセリナージェは、実は辻馬車に乗るのは初めてだったのでドキドキした。男の子三人も一緒なので、そういう意味では安心して利用できた。
ベルティナとセリナージェの二人で王立図書館へ行くときには屋敷の馬車を使うのだ。だが、なんとなく彼らとはお互いに身分を隠しているので、屋敷の馬車を使うわけにはいかなかった。
ベルティナとセリナージェは『エリオたちが二人に護衛がついていることに気がついている』とは思っていない。
個人馬車と違いとても大きい馬車は荷台がぐるりと座席になっていて十人も乗れる。箱馬車ではなく庇のような屋根が付いているだけだ。オープンになっているのでゆっくりと進むが風が気持ちいい。五人は町並みを楽しみながら王立図書館へ行った。
ベルティナもセリナージェも王立図書館は初めてではない。三人が興味があるというコーナーへ連れていく。三人はピッツォーネ王国の人なのに、スピラ語―スピラリニ王国の言語―が話せるだけでなく読み書きもできるという。三人共とても優秀なことがわかった。
民族文芸コーナーではベルティナとセリナージェもピッツォーネ王国とここスピラリニ王国との違いを三人から聞けて、とても楽しく、とても有意義な時間となった。
それから話の流れでベルティナとセリナージェは三人に毎日付き合って王都の見学をすることになった。二人は執事やメイドに聞いてから案内した場所もあり、二人もかなり王都に詳しくなった。
ある日王立公園へ行ってみると、教会主催のボランティアの花壇作りをやっていた。五人は汚れることなど気にせずに、一生懸命に手伝った。帰りに神父様から残った苗をもらった。
「僕たちには育てる場所がないからね」
エリオがそう言って苗はベルティナとセリナージェがすべてもらうことになった。
またある日は、メイドたちオススメの喫茶店へ出かけた。フルーツをふんだんに使ったパンケーキがとても美味しいお店だった。しかし、三人には量的に少々物足りなかったらしい。屋台で肉の腸詰めを挟んだパンを三つずつ買ってその場で平らげていた。ベルティナとセリナージェは呆れながら笑っていた。
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そして、二週間があっという間に過ぎた。明後日には学園が始まる。なので、お別れの挨拶をした。
「私たちがお付き合いできるのは今日までなの。楽しんでもらえたかしら?」
セリナージェが小首を傾げて可愛らしく聞いた。
「ああ! とても楽しかったよ。いろいろとありがとう」
エリオはキレイな顔で満面の笑みで返した。ベルティナは何度見てもエリオのキレイな笑顔にはドキドキしてしまう。それでも、それは外に出さないようにベルティナも笑顔で返した。
「それはよかったわ。私たちも楽しかったわ」
「僕たちはまだ当分王都にいるから、また会ったらお茶でもしようね」
イルミネの明るいお誘いは社交辞令だとわかりやすくて答えやすい。
「そうね。図書館とかでなら本当に会いそうね。ふふ」
セリナージェは図書館での時間がとても楽しかったようだ。この二週間に三度も行った。
「イルが一人で図書館に行くことはないだろうけどな」
クレメンティのイルミネへのツッコミにみんなが笑った。
「「じゃあね」」
お互いに名乗らず広場の噴水前で別れた。ベルティナとセリナージェは家の馬車を待たせてある方へと歩き出す。二人が広場から出るまで見送ることにした。二人がある程度離れた頃合いでイルミネがベルティナたちに手を振ったままエリオに尋ねた。
「エリオ。これでよかったのか?」
「今更名乗るのか? 彼女たちが貴族だと言い切ったのはイルだろう? 上手く行けば明後日会えるさ」
エリオもまだ見える二人の後ろ姿に手を振っていた。
「貴族学園は一つじゃない。万が一同じ学園だったとして、あの学園に何クラスあると思っているんだよ。学年だって同じとは限らない」
そう言いながらセリナージェが振り向いたことに気がついたクレメンティは大きな体を少し背伸びをして手を振った。
「でも、会える気がする……」
エリオが断言した。
「会いたいの間違えだろう?」
イルミネの意地悪なツッコミにエリオは前蹴りで仕返しした。
二人の背中が広場から消えたのを確認した三人は宿屋へと戻った。
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春休みが終わりベルティナたちのクラスのメンバーに変化のないまま三学年になった。二学年終了時、ベルティナは学年一位であったし、セリナージェは三位であった。
二位はランレーリオ・デラセーガ公爵子息だ。彼の父は現宰相であり、代々宰相家の長男である彼も宰相を目指しているという噂だ。
「ベルティナ。どんなふうに勉強してるんだ?なぜ僕は君を抜けないんだ?」
ランレーリオは笑顔で朝一番にベルティナに質問してきた。彼のそれが決して嫌味などではないことはこの二年間切磋琢磨してきたのでよくわかっている。
「科目によってはあなたが上でしょう? 私もうかうかしていられないわ。あなたのおかげで勉強を頑張れるしとてもはかどっているわ」
ベルティナもとてもいい笑顔で返した。ベルティナがここまで努力できているのはランレーリオのおかげだとベルティナは本気で思っている。
「そうかっ! なら僕も努力していくだけだな。ハハハ」
ランレーリオは気さくなイイヤツなのだ。
「よしっ!」
ランレーリオは気合を入れ直して席へと戻っていった。
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