第4話 宿屋

 パン屋のおばさんに教えてもらった場所にそれはあった。平民が使うには豪華な宿屋だ。入口に屈強な大男がいる。大男はエリオが客であることを覚えていたようですぐに通してもらえた。セリナージェは後ろの護衛たちを手で制して待ってもらうことにする。

 宿屋に三人で入る。


 入口に三人が入っただけで二人の男の子が走ってきた。


「エリオ! 大丈夫だったか!?」


「はぁ〜……よかったぁ」


 そして、エリオの肩に手を乗せエリオの無事を喜んでいた。


「二人ともごめん。大丈夫だよ。彼女たちに助けてもらったんだ。

僕の友達のクレメンティとイルミネだよ。こちらはセリナ嬢とベルティナ嬢だ」


 エリオが両方を紹介した。


「ステキなレディに助けてもらえて、助かりました。ありがとうございます」


 頭を下げて丁寧にお礼を言う方がクレメンティ。


「ホントに助かったよ。俺達も探したんだけど、見つからなかったんだよ。だから、ここで待つことにしたところだったんだ」


 軽快なノリがイルミネ。


「大きな迷子さんはこれで大丈夫そうね。うふふ」


 セリナージェがお茶目な笑顔でベルティナにウィンクした。


「ふふふ、そうね。じゃあ私たちは行きましょうか」


 ベルティナも笑顔で返す。


「「では、さよならぁ」」


 二人が引き返そうと後ろを向くと、エリオが声をかけてきた。


「あ、ちょっと待って! あのぉ、よかったら、明日とか王都を案内してくれないかな?」


「エリオ!」


 エリオの意見にクレメンティが即座に反対の意を唱えた。親切にしてもらったとはいえ、異国の地で知らない者を身近に置くことは得策とは言えない。


「レム。俺はいいと思うよ。地理がわからない俺たちでウロウロするより、ずっといい」


 イルミネはエリオの意見に賛成のようだ。しかし、クレメンティは2対1でも意見を変える気がないように渋面だった。


「あ! でも、私たちもそんなに詳しいわけじゃないのよ。小さなお店とかはあまり知らないの」


 ベルティナは自分たちの正直な状況を説明する。基本的に生真面目なベルティナとセリナージェは、今までも比較的安全と思われる有名なところにしか行っていないのだ。


「僕たちは、初めてきた町だからね。二人が知ってるところで全然構わないよ」


 エリオは、ベルティナの状況を聞いてもクレメンティの渋面を見ても、意見を変えるつもりはないらしい。


 ベルティナとセリナージェが顔を合わせる。二人としてはどちらでもかまわないのだ。そして、二人はクレメンティを見た。


「よろしくお願いします」


 クレメンティが納得したのか諦めたのか、丁寧に頭を下げた。


「そう? じゃあ、私たちは明日は王立図書館へ行くつもりだったんだけど、それでいいかしら?」


 セリナージェがベルティナと二人で元々予定していたことを提案した。


「え!!」


 クレメンティの目が変わった。明らかにキラキラしている。


「なっ! 頼んでよかったな!」


 イルミネがクレメンティを肘で小突いた。クレメンティは頬を染めて小さく頷いた。 


「クスクス。じゃあ明日、昼前に来るわ。どこかでランチをしてから図書館へ行きましょう」


「それで頼むよ」


 ベルティナの意見をエリオが賛同しそれに決定した。


 帰り際、エリオからドーナツを2つもらった。サクサクとしたドーナツはとても美味しかった。

 ベルティナもセリナージェも同い年くらいの男の子からそんなスマートな扱いを受けたことが初めてだったので、なんとなくフワフワした。


 ベルティナとセリナージェを宿屋の外で見送る。二人の背中が見えなくなると三人は宿屋の中へ戻った。


「やっぱりどうみてもご令嬢だね。後ろには護衛もいたし」


 イルミネはベルティナとセリナージェの服装や仕草、そして帰り際に二人の後ろに付いた者たちをすきなくチェックしていた。


「ああ。しっかりした護衛のようだ。僕が二人の側にいる間はずっと剣の柄を握っていた。さらには僕に仲間がいないかと細心の注意を払っていた」


「なるほど。エリオが誘う係ってこともありえるわけだしね。よく知り合えたね?」


 クレメンティは首を傾げた。


「迷子でな」


 エリオは女の子サーラのことを言ったつもりだが、二人はエリオが迷子だからととった。


「ホントに勘弁してくれよな」


 イルミネがエリオの背中をポンポンと叩く。


「すまん」


 三人は並んで宿屋の食堂へ向かった。

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