第2話 学園入学
セリナージェは得意そうに鼻をツンと可愛らしくあげた。
「ベルティナは将来、王都の文官になりたいのよね。よぉく知ってるわ」
セリナージェはベルティナの夢を知ってることが嬉しくてさらに自慢なのだ。
『フフン』という顔でクッキーをポイッと口に入れた。その仕草があまりにも可愛らしくて、ベルティナは笑わずにはいられない。セリナージェは少しだけはしたなかったかもと思いメイドをチラリと見た。メイドは反省していそうなセリナージェを見て苦笑いをして暗黙で許してくれた。
ベルティナはハンカチで笑いの涙を拭く。
「それは私のことでしょう? それならセリナはなぜお勉強するの?」
「あのね。私、先日お兄様から初めて聞いたのだけど、高等学園は成績でクラスが決められるのですってっ!」
王都にある王立貴族学高等園には十五歳の貴族は入学の義務がある。平民は十一歳まで貴族は十五歳まで勉学において守られている。
「私、高等学園でもベルティナと一緒がいいわ。ベルティナが勉強するなら私もやらないと同じクラスになれないでしょう?」
セリナージェは手はお菓子を摘むことを止めず、まるで当たり前のことをしているという口調で答えた。
ベルティナは目を丸くする。まさか自分のためにやってくれているとは思っていなかった。
「セリナ! 嬉しいわ! では、早速再開しましょう!」
ベルティナが果実水を飲み干そうとした。
「ま、待ってよっ! ベルティナっ! お菓子の時間は大切だわ、ね」
セリナージェは可愛らしく上目遣いで肩を少しあげて小首を傾げてお願いする。これをされるとベルティナは嫌と言えない。末っ子の甘え上手はここにも活かされている。
しばらく楽しいお茶時間を過ごすのだった。
ベルティナたちが中等学校三年生の秋、学園から家庭内テストが配布された。このテストによって高等学園のクラス分けがされるのだが、家庭内テストにも関わらずこれに不正を働く者はほぼいない。学園に行けば実力はバレてしまうし、学期の途中であってもクラスの降格はありえるシステムになっている。なので、不正をやるだけ無駄である。
めでたく二人とも高等学園一年Aクラスでの進学が決まった。四月からは高等学園の生徒だ。
〰️
この国の王都には貴族専用のスピラ学園がある。十五歳からの全寮制学園で貴族子女は入学することが義務だ。入学は義務だが卒業は義務ではない。入れば後は本人次第ということだろう。
学園内は『爵位に関係なく幅広い交友を』という建前のもと、国によって運営されている。基本的には全てが無料で制服も二着ずつ支給されている。クラスはAクラスからEクラスの成績順に分けられていて各クラス三十人程度だ。
今年の一年Aクラスには、ロゼリンダ・アイマーロ公爵令嬢、ランレーリオ・デラセーガ公爵子息、キアフール・エスポジート伯爵子息、フィオレラ・ムーツィオ伯爵令嬢、ジョミーナ・リニティ伯爵令嬢とこの学年の高位貴族は見事に揃った。
「ねぇ、ベルティナ。私、危なかったわね。高位貴族の子女はみんなこのクラスじゃないの。私だけ違うクラスだったら、恥ずかしくて学園に通えなかったわね」
セリナージェは入学式で隣に座るベルティナに小さな声でそう言った。
「ふふ、こうしてAクラスなんだもの。よかったじゃないの。あとは、落ちないようにこれからも頑張りましょうね」
ベルティナはセリナージェと一緒であることがとても嬉しかった。セリナージェがベルティナと一緒にいるために頑張ってくれていたことをよく知っているからだ。
「ベルティナ。これからも一緒によろしくね」
「もちろんよっ!」
二人は笑顔で確かめあった。
新学期が始まればすぐに友達グループができる。自由席なはずだが、座る席も自ずと決まっていく。『爵位に関係なく幅広い交友を』というのは、女子にとってはやはり建前で、クラスに四人しかいない高位貴族令嬢の三人はいつも一緒にいる。窓側の一番後ろ付近が三人の席となっている。
ちなみに、廊下側の真ん中あたりに隣同士で座っているベルティナとセリナージェは、三人とは基本的に接触はない。
「セリナ。貴女、ロゼリンダ様とご一緒の方がいいのではないの?」
最高位の公爵令嬢であるロゼリンダとまるで対象的な席に座ってしまっているセリナージェにベルティナは心配して聞いてみた。
「えー! 面倒くさくない? 私はベルティナといれればそれでいいわ」
セリナージェがかわいい舌をペロッと出した。セリナージェは相変わらずマイペースで面倒くさがりな末っ子であった。
ロゼリンダたちから特に虐められたりするわけではないので、ベルティナもこれ以上は何も言わなかった。
〰️ 〰️ 〰️
一年生、二年生と何事もなく終わり、成績優秀な二人にティエポロ侯爵夫妻もとても褒めてくれた。
二年生が終了した春休み。ベルティナとセリナージェは、春休みは短いからと、領地に戻らず、王都のティエポロ侯爵邸で過ごすことにした。ベルティナの戻る家はもちろん侯爵邸である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます