第3話 彼女
そもそも、俺たちの出会いは嘘だらけだった。俺はその子と将来結婚なんてあり得なかった。彼女にするのも無理だ。人に紹介できない。2人だけで過ごすとしても、俺達には落差がありすぎた。彼女は難しい漢字が読めなくて、それはレストランに行って料理を選ぶ段階で発覚した。
例えば「
俺はこれはえびって読むんだよと教えてやって、次に会った時に覚えているか聞くと忘れていた。でも、素直でいい子だった。電話は毎日掛かって来て、毎週会っていた。彼女も俺のことを慕ってくれていたと思う。エッチなこともしないで、普通に話し相手になってくれる男に女性は心を開いてくれる。男は女性のオチのない話や愚痴を聞くのが苦手だと思う。そんな話に興味がありそうなふりをして、ひたすら付き合う。俺は彼女の話を聞くのが好きだった。内容のない話だが、彼女がいかにも楽しそうに話しているから、その様子を見ているのがかわいかったのだと思う。
付き合ってないのに一緒にイタリアに旅行に行った。ツインで同じ部屋で寝たけど、何もしなかった。彼女はちょっと年下の友達みたいな感じだった。
その後、バレンタインデーがあり、チョコレートをくれた。その時初めて、『本命チョコ』と言って渡してくれた。
「前田さんって、彼女いるの?」
何か月も会っていて、聞かれたのは初めてだった。
「いないよ」
「じゃあ、つきあって」
「いいよ」
俺はやったと思ったが、内心この子は無理だと思っていた。
それからは、手を繋いでキスをしたが、セックスはしなかった。彼女の人生をしょい込む気はなかったからだ。途中で彼女から、「何で何もしないの?」と聞かれたから、「君を大切に思っているからだよ」と臭いセリフを吐いた。実際はよそで遊んでいたから、その子とエッチしなくても不都合はなかったからだ。
ある時、一緒にでかけて、カバンの中身がちらっと見えたことがあった。カバン自体は若い子が持つような3000円くらいの合皮の安物なのだが、中にヴィトンのモノグラムの手帳かなんかが入っていた。あの経済力で、財布ならともかく、小物までは買わないよなと思った。それか、誰かがくれたんだろう。俺はちょっと心配になって、距離を置くようになった。
俺が友達にこの話をして、女の子の写真を見せると、思いがけないことを言われた。
「この子、俺が前に行ったソープランドの女の子に似てる」
「え?まじで?」
俺はショックを受けていた。
「どこ?」
「吉原にある〇〇〇って店で、2時間で7万くらいするとこ」
「随分高いとこ行ってんだな。さすがに金もったいなくない?」
「もとAVの人とかがいるとこだから、外れはないだろうと思ってさ。高すぎて一回しか行ったことないし、リピートも無理思った」
「で、この子が出て来たわけ?」
「似てると思う」
「へぇ・・・名前覚えてる?」
「由梨乃ちゃん」
「まだいるよ。時々ホームページ見てるから」
俺がそのホームページを見たら、顔出しはしていなかった。でも、鼻から下がよく似ている気がした。取り敢えず週末に会いに行くことにした。初回からプレゼントを持って。
部屋に入って、お互い「あ!」という感じだった。
「うそ!」
ドレスを着てたけど、ちょっと貧乳のアイドルという感じだった。
「前田さん」
「君、ソープランドで働いてたんだ。どうして?」
「お母さんが病気で・・・」
「だから、生活保護の人は医療費無料じゃないの?」
「私、馬鹿だからよくわからない」
「君は馬鹿なんじゃない。ただの嘘つきだろ?」
俺は意地悪く言った。
「いいじゃない。早く始めようよ」
ショックすぎて俺はその気になれなかった。
「何でそんなに金が必要なわけ?」
「親の借金を返すために・・・」
「生活保護の人に金貸す人いないって」
「生活保護の人もお金借りれるよ」
「じゃあ、いくら借りてるの?」
「500万」
「自己破産しなよ。司法書士紹介してやるよ」
「でも、お母さんがパチンコ依存症で・・・」
「それで、君が風俗で働いてるなんておかしいよ。君って、ほとんど毎日、朝から晩まで出てるよね?月収いくら?300万くらい?」
「そんなにあるわけないよ」
「お母さんが毎日パチンコやったって、月そんなに負けるわけないだろ?嘘つくなよ。君自身が何かやってるんじゃないと、とてもじゃないけどモチベーションあがらないよね」
彼女は泣き出してしまった。
「実は・・・私、、、」
俺はどうせホスト狂いとか、薬物中毒か、男に吸い上げられてるんだろうと思っていた。
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