第2話 出会い

 俺は嘘のプロフィールを乗せていて、起業したばかりの小さな会社の社長ということにしていた。名前も嘘をついていて、年齢も1個上に書いていた。


 俺は出会い系で30人くらいの人に会ったと思うけど、そのうち実際関係を持ったのは5人くらいだった。割に合わないと思うかもしれないが、元々遊んでいる感じの人は嫌だったし、かといって地味な子には魅力を感じなかった。色んな人がいたが、学生も多かった。おごってもらえる遊び相手を求めている感じだった。こういう子は、おじさんは嫌だから20代に魅力を感じたんだろうと思う。


 その他の職業だと、看護師、美容師、介護士、保育士、OL、無職、フリーター、色々だった。人妻やシングルマザーの人もいた。


 一番かわいかったのは、無職の子だった。お母さんと2人暮らしで、都営住宅に住んでいた。年齢は20歳くらいだったと思う。顔が美形なだけでなく、佇まいがたまらなくかわいかった。肌が白くて、目がぱっちり、黒目がち。ほぼ完ぺきなビジュアルだ。アイドルでもおかしくなかった。なぜ、そんな子が出会い系にいたのかわからないが、いわゆるパパ活目的だったようだ。


 普段は仕事をしていなくて、家にいるということだった。小学校から不登校で、中卒だった。通信制高校に通ったが合わなくて行かなくなったそうだ。俺は普通のサラリーマンだったが、月数万なら援助できると思った。しかし、精神的にヤバそうだったから、手を出していなかった。今まで彼氏がいたことがないという話だった。何となく俺みたいなパパが複数いそうな気もした。やはり、申し込んできたのが、女からだったから、自営業というのが決め手だったんだろう。


 初めて彼女に会った時、彼女は俺の仕事について細かく聞いて来た。俺は5年働いた会社を退職して、小さな事務所を借りて、起業したことにしていた。社長1人にバイトが3人という設定だ。彼女はIT系の社長だと思ったらしく、がっかりしたようだったが、それでも俺に会ってくれた。多分、飯を奢ってくれて手も出さず、しかも若いと言うのがよかったのだろう。


 彼女はお母さんと住んでいるが、お母さんが病気でお金がないと言っていた。彼女も無職だった。アホな男だったら、そこで小遣いを渡すのだろうけど、俺は「生活保護受ければ?」と言った。すると、最初は「お母さんがそういうのダメな人で・・・」ということだった。しかし、病気で生活保護もらうのは悪いことじゃないよと説得すると、実はすでにもらっていると打ち明けた。家も都営住宅で2DKで家賃は1万5千円だった。しかも、住所は下町でなく、結構いいところだった。いいなぁと一瞬思う。本人も精神障害者の手帳を持っているそうだ。収入は母親の生活保護と本人の障がい者の手当だ。


 それだけあったら、質素に暮らせば何とかなる気がしたが、本人曰く、留学したいそうだ。中卒なのに、どういう所に留学するか聞くと、イタリアでアートの勉強をしたいらしい。じゃあ、今は何かしてるの?と聞いてみた。すると、趣味で絵を描いていると言う。俺は見せてと頼んだ。すると、次に会った時にイラストを見せてくれたが、漫画だった。絵は上手いけど、イタリアで何を学ぶんだろうか。「君は何を目指してるの?」と聞くと、「〇〇さんみたいな、イラストレーター」と答える。

「じゃあ、日本でやれば?日本でイラストレーターになる学校もあるんじゃない?」

「でも・・・私、うつ病で学校通うの無理で・・・」

「じゃあ、イタリア行くの無理じゃない?だって、海外なんてもっと大変だよ。イタリア人でクセが強いらしいし」

 俺は正論を言う。

「でも、海外に行って本場のアートを見てみたいの」

「本場のアートってどんなの?」

「システィーナ礼拝堂とか・・・」

 天井画だから油絵かなんかじゃないかと思う。言っていることが滅茶苦茶だった。


「じゃあ、今度一緒にイタリア行こうよ」

「え、いいの?」

 彼女の表情がぱっと明るくなった。俺たちは付き合ってなかったけど、妹みたいな感覚に陥っていて、彼女を応援してあげたかった。彼女はパスポートを持っていなかったから、申請してもらった。費用は写真代を含め俺が出した。都のパスポートセンターは新宿、有楽町などにある。その時、彼女はちょっとおかしなことを言っていた。

「1ケ月くらいかかる場合もあるんだって」

「パスポートは書類が揃ってれば決まった日にできるから、そんなことはないよ」

 後から聞いたら、彼女は外国籍だった。出会い系で使っていたのは偽名だったのだ。俺もだけど・・・。


 





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