第7話

「バンドやってるんだって?面白そう私も入れてよ」

奏はクラスで一番人気があり、とても可愛い女の子だった。

最初は断るつもりだったが、瞬がOKしてしまった為、断れなくなってしまった。

奏を入れて、四人のバンドが結成された。

瞬は、見た目が良くて運動神経も良かったから、すぐにクラスの中心的な存在となった。

隼人は、身長が高くスポーツ万能、勉強もそこそこできて顔もイケメンだった。

俺はと言うと……自分で言うのもなんだが、かなり地味な方だ。

しかし、そんな俺にも話しかけてくれる奴がいた。

それは、奏だった。

「何で、教室でも話しかけてくるの?」

「薫が友達いないからだよ」

今思うと失礼な話だが、当時の俺には嬉しかった。

「そこは、バンドメンバーだからじゃないのかよ」

彼女は笑っていた。

それから一年後、バンドは人気が出始めた。

文化祭のライブでは体育館中が人で埋まるほど人が来ていた。

その時に俺らの人気も更に上がった。

二年になると、隼人はサッカー部に入り、瞬は生徒会長に選ばれた。

俺は、特に何もやる事がなく……そのまま帰宅部を続けた。

バンドは続けていたが、二年生になってからはあまり上手くいかなくなり、解散しようかと思っていた。

その頃から、奏とは学校で話す事は無くなり、放課後にたまに遊ぶ程度の関係になっていた。

解散を考えていた頃、瞬に呼び出された。

「あのさ、もう解散した方が良いんじゃないかな」

「俺もそう思ってた、皆忙しいみたいだしな」

「じゃあ、明日みんなに言おうか」

次の日、解散の話をしようとした時だった。

「ちょっと待って!もう少し頑張ってみようよ」

今まで静かだった奏が言った。

「そうだよ、もう一回だけやってみようぜ!」

隼人も珍しくやる気になっていた。

「分かった、もう少しだけ頑張ろうか」

そうして、もう一度チャレンジする事にして、再始動する事になった。

解散寸前でまた再スタートを切る事になり、その日は解散をした。

次の日から、また練習を始めたのだが、やはり前の様にはいかなかった。

――そんな中あるイベントに参加した際に、偶然に幼馴染の阿久戸に会った。

「もしかして、お前らまだバンドやってたの?」

「当たり前だろ、お前に言われなくても続けてるよ」

「ふーん、そうか」

「お前こそ、まだバンドやってんの?」

「ああ、一応な」

「何だよ、一応って」

「いや、バンド自体は楽しいんだけど……なんか違くてさ」

「何が言いたいんだ?」

「いや、何でもない」

阿久戸はそのまま帰っていった。

それから、一年経ち俺達は中学3年になり受験シーズンに突入した。俺と隼人は同じ高校を受ける事に決めていたので、一緒の塾に通う事にした。

同じ時間帯には、他に誰も居なかったため、同じ席で勉強をしていた。

しばらくして、隣の席に誰か座った。

横目で見るとそこには奏が居た。

奏は俺の視線に気付いた様でこっちを見て微笑んだ。

「もう中学も終わりだね」

「そうだな、あっという間だったな」

「そうだね、あと一年で卒業だね」

「寂しいのか?」

「ううん、全然寂しくないよ」

「そっか、なら良かった」

奏は何か言いたげな顔をしていた。

奏は俺から目線を外して、前を向いた。

「私はね、本当に大切な物は失くしてから気付くと思うんだ」

「急にどうした?」

「だから、大切なものはしっかり握っておかないと駄目なんだよ」

奏が何を言っているのか分からなかったが、奏はその後も何かを呟いていた。

その後、奏は何も言わずに帰ってしまった。

結局その日以来、奏と話す機会は無かった。

3年ということもあってバンド活動は休止して高校から再開する事が決まっていた。

俺達四人は同じ高校を受験しようとしていた。合格発表の日、みんなで一緒に見に行く約束をしていたが、俺だけ寝坊してしまい一人で見に行くことになった。

合格者番号が張り出されている掲示板を見たとき、俺の番号は一番右にあった。

(あった!!)心の中で叫んだ。

その時、後ろから肩を叩かれた。振り向くと隼人がいた。

「やったな!!」「うん、お前もな」

隼人と二人で喜んだ。

「瞬は?」

「あいつは、頭良いし大丈夫だろ」

それから、瞬に電話を掛けた。

「もしもし、どうだった!?」

瞬は嬉しそうに言っていた。

「あぁ、受かったぞ」

「本当か!?おめでとう」

しかし奏の受験番号だけが無かった。その日の夜、奏の家に電話をした。

『お掛けになった電話番号は現在使われておりません』

俺は唖然とし、しばらくその場に立ち尽くしていた。

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