最強の黒龍を討伐するってときに、それ言います!?

ああたはじめ

カミングアウトは突然に

「どうしたショーン。震えているぞ。恐いのか」

「いや、その」

「無理もない。最強という黒龍の討伐だ。恐れを感じない方がどうかしている」

「そうじゃなくて」

「心配するな。俺達には聖水がある。それを使えば黒龍の力は弱体化する。その隙にこの伝説のバスターソードでトドメをさせば倒せるというものだ」


 勇者様は伝説の剣を掲げた。

 キラリと光る剣。勇者様は僕の肩にポンと手を置き、そして僕が持っている黄色い液体が入ったビンを見た。


「もう一度言う。心配するな」

 もう勝っちゃった気でいらっしゃる。どうしよう。これ。


 僕のおしっこなんですけど。


 ああぁ、こぼした時素直に謝っておけばよかった。こんなんドラゴンの洞窟まで来ちゃって実は……とか言って今更カミングアウトしても困るだろーし。ドラゴンすぐそこよ、そこ。


 だいぶ前に聖水こぼして、近くに池とか水とかなんも無くて、バレるの嫌で替わりにおしっこを、なんてアホな事やらなきゃよかった。


 勇者様は能天気に洞窟を進んでいらっしゃる。今度は仲間のシールに話しかけてる。

 シールも緊張しているのか、言葉の数は少ない。ああ悪い事しちゃったなぁ。


 このままドラゴンのとこ行ったら全滅だぞ。さすがに僕よりも小さい女の子が、ドラゴンのご飯になっちゃうのは心が痛む。もうこれは謝っちゃった方がいいな。みんな食べられるよりもマシだもの。


「あのう。勇者様」

「どうしたショーン」

「あの、その……ずっと黙っていた事がありまして。実は」

「言わないで。あたしの口から言うから」


 へ? シールは立ち止まり、うつむきながら言った。


「気付いていたのねショーン。あたしが黒龍の配下で、勇者を暗殺する為にパーティに紛れ込んだ事を」


 なにぃぃぃ。シールさん、敵だったんですかっ。


「あたしは貴方達の敵だった。でも、旅をしている間に心が揺らいだ。敵なのに、貴方達は優しかった。殺すなんて、どうしてもできなかったの」


 シールは持っていた短刀を地面に投げ捨てた。


「これであたしを殺してちょうだい。あたしはあなた達、そう勇者の敵なんだから」

「それは違う!」


 勇者様は伝説の剣を地面に刺し、手を離した。

「俺は勇者じゃないんだ」


 えええええっ。 じゃあ何様だったんですか!?


「前のパーティで旅をしていた時、勇者様は冒険の途中で死んでしまった。それでも世間は勇者の助けを求めていて、俺は勝手に勇者を名乗って活動していたんだ。だから俺は勇者じゃない。シールを殺すなんて、仲間を殺すなんてできないよ」


 抱き合うシールと勇者を名乗っていた人。なんなんだこのカミングアウト大会は。


『ワレもひとつ言わしてくれないか』

 すぐそばで声が聞こえた。勇者じゃない人もシールも、辺りを見回している。

『ワレはここだ』


 地面に刺さった伝説の剣から声がした。

「バスターソード……話すことができたんですか」

 シールが恐る恐る話しかける。伝説の剣は口もないのに再び喋り始めた。

『そうだ。ワレは話すことができる』

「すごい。さすが伝説の剣だ」

『そうではない。ワレは伝説の剣ではないのだ』


 ちょ、急になに言い出すんだ。


『魔王を斬ったのはワレではない。伝説の剣は、魔王との戦いで折れてなくなった。ワレは伝説の剣の代わり、代役でしかない。ワレの伝説とは、語り継がれる間に尾ひれがついただけなのだ』


 ちょちょちょ、なに自分語りしてんの。カミングアウトしてんの。僕より先になに重大なこと言ってんのよ。デカいって、規模がおしっこよりデカ過ぎるって。


『だが黒龍を倒し、ワレは本当の伝説になりたいのだ。力を貸してくれぬか』

 シールは頷いた。勇者じゃない人は両手の拳をぶつけていた。

「もちろんだ。俺達は仲間だろ!」

『おぬしら……』


 伝説じゃなくて、代役をがんばってた光る剣は、再び輝きだした。

『ワレを手に取れ。勇気ある者よ』

 勇者じゃない人が剣を手に取る。本物の勇者と伝説の剣に見えた。


「なんだか全部話したら心が落ち着いたわ」

「本当だ。真の仲間になれた気がするよ」

『ワレもだ』


 仲間たちは全員スッキリした顔をしていた。


 このあと言わなきゃいけないの。味方だった子が実は敵で、勇者だと思っていた人が実は勇者じゃなくて。伝説の剣だと思ってたのが、ただの代役で。聖水は僕のおしっこ…………って。いや場違いぃぃぃ。カミングアウトの場違いぃぃぃ。言えるかあぁぁぁぁ!


「うわああああああああんっ」

「ショーンのヤツ、走っていったぞ。気合入ってるな」

「あたし達も続こう。ショーンの勇気に」

『同意だ』


 僕の後ろにつく二人。絵面的には最高に勇者と仲間だった。


 もういいや黒龍倒して僕のおしっこ伝説にしとこっ!


 僕は黒龍との戦いを、それはそれはがんばったのであった。

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最強の黒龍を討伐するってときに、それ言います!? ああたはじめ @tyomoranma2525

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