ショウヘイの決意
「ショウヘイ殿!」
「ああ、カティア。わかってる。
ビクッ。
シャーリィの体が硬直する。
俺は魔法で彼女を拘束した。まるで見えない縄に縛られたように、肩から下の体が動かなくなる。手に集まっていた魔力も、支配を失って消えていった。
「こ、これはなんだ? 魔力をめぐらせた体を拘束するなんて……そんな強力な魔法があるわけがない」
「へえ、そうなのか。【大賢者】の魔法なんだから、もっと有名なのかと思った」
「【大賢者】の魔法はほとんどが伝説だ。
「ふうん、そうすると私の叔父さんは誰に殺されたのかしら……」
「おい、リーリア。わかるけど。これ以上は混乱させるだけだから、やめとけ」
俺はリーリアの言葉をさえぎった。
彼女は自分の叔父さんを勇者に殺されている。勇者パーティーは伝説ではなく、身近な現実だ。もう百年以上も前の話らしいが、ドラゴンの寿命はそれよりもずっと長い。
「シャーリィ、私の目を見てください」
カティアがシャーリィの正面に立った。
「ごめんなさい。私は姫様を守るためにスキルを使っていました。【真実の目】のスキルの効果は、真実を見抜くことだけではありません。真実を隠すこともできるのです。
……王国が滅亡した時、姫様は死んだと思われていました。でも、本当は生きていたのです。私はそれを利用して、誰もがその真実に、たどり着けないようにしました。この効果は、私の目を見るまでは解除されません」
「ラジョア……いや、違う。その目は先生の物だ。あなたは先生……カティア先生、なのですか」
「ええ。あなたなら当然、私たちのことを探していたでしょう。シルフィという冒険者がいることも知っていたはずです。
私たちが名前を変えずに生活していたのは、その必要がなかったからです。あなたは私たちのことを、悪質な偽物だと思っていたようですね」
「も、もちろんです。姫様やラジョアの名前を使って、ヌケヌケと冒険者をしているふざけた連中……そう思っていました。
カティア様。姫様を守っていただいたことには感謝します。あなたは私の知っている中でも有数の愛国者でした。でも、それなのにどうして、ルネリス王国を滅亡させるようなことをしたのですか」
「それは、どういう意味ですか?」
「先生が正しい判断をすれば戦争に負けることはなかったのです。そのために何十万人もの国民が命を落とし、多くの女性も……私の姉も帝国の男の慰み物になりました。奴隷になった者は数知れません。先生は、それを止められたのに放置した。私はそのことを、どうしても許せません」
「あなたを人間爆弾として使えばよかったのですか?」
カティアの言葉に、俺はドキリとした。
「ええ、そうです。それが最善の選択でした。直接、申し上げたはずです。あの時点で、人間爆弾になれる素材は私だけでした。帝国軍も無警戒だったはずです。
帝国内に潜入して皇帝ともども帝都を破壊すれば、戦争は終結していました。あなたは私ひとりの命を犠牲にすることをためらったせいで、ルネリス王国を……そこに住む数十万人の国民を殺したのです」
「あなたなら、そう言うと思っていました。いや……本当に、そのとおりなのでしょう。私は国を滅ぼした大罪人です。そのことを弁解する気はありません」
「もう、いいんじゃないか」
たまりかねて、俺は間に入った、
「カティアは精一杯やったんだ。そのおかげで、シャーリィだって死ななくて済んだんじゃないか。それが悪いことなのか?」
「あなたに何がわかるのです。……死ねばよかった。なまじ生き残ってしまったことで、私は永遠の大罪人になってしまいました。毎夜、苦しみながら死んでいった人々の夢を見ます。……その無念を、私はどうすればいいのですか」
血を吐くようにシャーリィは言った。
確かにそうかもしれない。王国が滅びた原因については、俺は部外者だ。
だが、これからは違う。俺だってもう、運命に片足を突っこんでしまった。
俺のせいでドラゴンが戦争に介入した。二万人の人間が死んだ。戦争の勝敗が決定的になった。そのせいで、これから何十万、何百万人もの人間が奴隷にされるかもしれない。
「だから、俺がやる」
「えっ?」
「過去のことは変えられない。でも、未来は違う。
これからは俺が、自分の意思でやる。カティア……ごめんな。忠告してくれてありがとう。カティアがいなければ、絶対にひどいことになってた。俺はバカだから、カティアみたいな人が必要なんだ。
個人が戦争に介入するなんてバカげてる。でも、俺には戦争をこのまま放置することはできない。俺にはまだ、何かができるはずなんだ。
シルフィ、カティア、リーリア……それに、シャーリイ。俺に何ができるのか、これからどうすればいいのか。正直言って、まだ俺にもわからない。これから必死に考えるから、みんなも知恵を貸してくれ。絶対に何か、いい方法がある。いや、なくても作ってみせる。それが俺のケジメだ」
「ショウヘイ殿」
「ショウヘイ」
「お兄ちゃん」
「ダーリン」
「ショウヘイさん」
「佐野クン……」
仲間の言葉が、俺の背中を押してくれた。
もう迷わない。俺は自分の意思で未来を変えてみせる。
シャーリィは俺を見ながら、初めて微笑んだ。
「エランド。君はとんでもない女たらしだな。
もう、気づいているんだろう。君は私の裸を初めて見た男性だ。君の世界ではどうか知らないが……貴族の娘として、私は自分の素肌を夫になる人以外には決して見せてはいけないと教えられてきたんだ。
ふふふ、おかしいだろう。帝国の密偵になっても、まだあの頃の気持ちが残っていたんだな。私はいつか、君と結婚するものだと勝手に思いこんでいた。
もちろん理由はそれだけじゃない。君となら一緒に悩んだり、笑ったりできると思ったからだ。……でも、忘れてくれ。私は姫様を裏切れない。それに私はもう、人から奪うのも奪われるのも嫌なんだ」
「意見が合うわね。私も佐野クンのことは好きだけど、愛人枠はごめんだわ」
委員長は俺に向かって宣言した。
まあ、そうだよな。
俺はその日、俺に好意を持ってくれていた二人の女性にあっさりと振られた。
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