カティアの罪
「シルフィの従姉妹だって……」
「とりあえず、彼女をテントに運んでください。目覚めさせる時には、注意しないといけませんね。シャーリィは私のことを恨んでいるはずですから、殺そうとして暴れるかもしれません」
「恨んでるって、どうして? 弟子には慕われていたんだろう」
「それぞれに事情があるのですよ。私たちは、ひとつの王国の滅亡に立ち会ったのです。多かれ少なかれ、この手は血と罪で汚れています。特に私は、国王陛下が亡くなった時にそれなりの地位にいました。姫様を守るという使命がなければ、生きていてはいけないはずの人間です」
「……おい、ちょっと待て。バカ言うな。生きてちゃいけないなんて、誰が決めたんだ。カティアがいなければ、シルフィだって助からなかったんだろう。少なくとも俺は感謝してるぜ」
「ショウヘイ殿は優しいですね。姫様が好きになるのも、わかるような気がします」
カティアはかすかに笑うと、仲間の方を振り返った。
話をしている間に、サプライズも終わったんだろう。ミオが委員長に抱きついていた。まわりでソラも、飛び跳ねて喜んでいる。
「感動の再会も終わったようです。さあ、みんなと合流しましょう。姫様もずっとショウヘイ殿が戻るのを心待ちにしていました。エッチなことはダメですが、みんなの前でハグするくらいは許可しますよ。
……ただし、いいですね。これで、今回の作戦は終了です。くれぐれも、これ以上戦争に介入しようなどとは思わないでください。ドラゴンの件は、後でリーリアさんに話をつけてもらいましょう。私たちは今までどおり、普通の冒険者として生活していけばいいんです」
「そのことなんだけど……」
俺は、肩にかついだままのシャーリィをチラリと見た。
「彼女は奴隷を救いたいと言っていた。やり方はアレだけど、そのために命懸けで戦ってたんだ。シャーリィがシルフィの従姉妹だというなら、救いたかったのは奴隷にされた国民のことなんだと思う。なあ、カティア。このまま放っておいたら、結果的にその人たちを見殺しにすることになるんじゃないか」
「そんなことはショウヘイ殿の考えることではありません」
「どうしてなんだ? 俺が暴れたらダメなのはわかってる。でも、どうにかできるのも俺たちだけなんだ。この力をうまく使えたら……救える命を放っておいて、のんびりと眺めているなんて俺にはできない」
「ふう……」
カティアは深くため息をついた。
「みんな、そう思うのです。『力』は正しく使えばいい。『力』そのものには責任がない。もちろん私も、そう思っていました。
でもその結果がどうなったか……。ショウヘイ殿には知る必要があるようです。そのテントの裏に行って話をしましょう。いくら意識がないとはいえ、女性を肩にかついだままする話ではありません」
「ああ、わかった」
俺たちは他人のテントの裏側に回った。
どうせ住人たちは外に出ている。隙間に入りこんでシャーリィを横たえると、俺たちは肩を寄せ合うように並んで座った。
「ショウヘイ殿。一応ですが、私にもステルスをかけてもらってもいいですか?」
「あ、ああ。そうか。わかった」
俺とシャーリィはステルス状態だ。誰かが通りかかった場合、このままだとカティアひとりが、ブツブツとつぶやいているように見える。
ステルスをかけると、一時的にカティアが見えなくなった。ぎゅっと手を握られる感覚と共に、再び彼女の姿が現れる。
姿が見えるようになっても、カティアはまだ俺の手を握っていた。
「これから、私の罪についてお話ししましょう」
「罪?」
「言葉どおりの意味です。前にも話したと思いますが……私はシルフィ様の生まれた王国で、王室付きの魔法使いをしていました。ラジョアやシャーリィはその時の弟子です。恵まれた環境の中で自由に研究をしながら、弟子たちと一緒に充実した日々を過ごしていました。
私のユニークスキル【真実の目】は研究者にとっては破格のスキルです。実験の検証が一瞬でできてしまうのですからね。スキルは私に、研究者としての成果と世界的な名誉を与えてくれました。
たとえば、人工精霊を最初に開発したのは私です。ウィルスのように肉体を持たぬ精霊はやがて異世界にまで到達し、スマートフォンなどのAIと融合することで全く新しい存在となりました。人工精霊を媒介とした『召喚魔法』の基礎理論を確立したのも私です」
「えっ、すると俺や委員長が異世界に連れて来られたのは……」
「はい、間違いなく私が原因です。最初は異世界との交流を目的とした研究でした。
召喚した人間を戻す技術の開発が進まずに中断していましたが、その有効性は以前から注目されていました。魔法のない世界で生活していた人間は、高いステータスを持つと考えられていたからです。空気の薄い場所で育った人間の心肺能力が高いように……ショウヘイ殿が持っているチート級のステータスはそれだけでは説明できませんが、ある程度の関連性はあると思います。
その技術を盗んでエミリア王国に売りこんだのが、今では魔法大臣にまで昇りつめたジェロンドです。彼も元々は、私の弟子のひとりでした。彼の心変わりを見抜けなかったのも私の罪です」
げっ、アイツか。
俺は王都で会った魔法大臣の顔を思い出した。自分の醜い容貌を、スキルでゴマかしていた奴だ。
「でも、そういうのは【真実の目】でわかるんじゃないか」
「私だって、日常的にスキルを使っているわけではありませんよ。親しい人間をいちいち疑っていては心が壊れてしまいます。……ああ、ごめんなさい。これもただの言い訳ですね。責任を逃れる理由にはなりません」
「余計なことを言って、悪かった」
俺は心から悔いた。
その言葉が重いとわかったからだ。俺の手を握っているカティアの指が、小さく震えている。
「魔力爆発の理論を証明したのも私です。過去にあった神々の戦いの伝説が、魔力爆発によるものだったと明らかにしたのです。その時は有頂天でしたが、今となっては後悔でしかありません。
委員長さんのネックレス……あれは魔力爆発を起こすための起爆装置ですね。すぐにわかりました。私が遺跡から出土した遺物を参考にして再現した物と同じでしたから。
どうです? 私が、生きていてはいけないと言った理由がわかったでしょう。この戦争も異世界人の拉致も、全て私が原因なのです。ショウヘイ殿もその被害者のひとりです。その罪は、決して消えることはありません」
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