ネタバレの時間

 ブー、ブー、ブー。

 俺のポケットで携帯電話が鳴った。


「警告、警告! 【重大なネタバレ】によりユニークスキル【経歴偽装】が解除されました。シャーリィ様とシオリ様に対しては、過去のものも含めて全ての【偽装スキル】が無効化されます」


「わかってるさ。ミリア、ありがとう」


「ハイ、ショウヘイ様。それと同時にシャーリィ様の【契約の証文】のスキルも、契約者エランドの消失によって効力を失いました。契約による拘束も無効化されています」


 俺は委員長から手を放した。

 それと同時にスマホで入力を始める。シャンクスが動揺している、この瞬間を使わない手はない。


「おいっ、エランド! どういうことなんだ!」


「佐野クン、もしかして佐野クンなの?」


「エランド、答えろ。答えてくれ。契約は絶対のはずだ。どうして命令を聞かない」


職業ジョブ設定、【大賢者】レベル99』


 よし、設定が終わった。

 頭の中に知識があふれてくる。これで今の俺は【大賢者】だ。今までに人類が開発したあらゆる上級魔法が使える。


「眠り魔法スリープ!」


 呪文と共にシャンクスが昏倒した。

 ぐらり。体が床に崩れ落ちる前に、あわてて体を支えてやる。


 うわっ、コイツ。なんか、やたらに柔らかいぞ。ぐにゅっとしてる。

 そうだ……それよりもスマホだ。あれは情報のかたまりだ。絶対に回収しないといけない。たしかシャツの中に入れてたはずだ。


 俺はシャンクスを床に横たえると、シャツのボタンを外した。


 なんだ、これ。

 シャンクスの上半身は包帯のような布で、ぐるぐる巻きになっていた。そこにスマホとナイフが挟みこんである。

 

「佐野クン……思い出した。召喚された時、一緒に王宮の広間にいたよね。どうして忘れてたんだろう。大事なことなのに」


「ごめん、委員長。今は忙しいんだ。説明は少し待ってくれ」


 そうだ、ケガしたらいけない。まずはナイフを取り上げないと。でも、ずいぶんと固く縛ってるな。……どうしたら緩むんだ。

 プツッ。

 ナイフの刃に布が断ち切られ、その瞬間、はちきれるように胸が膨らんだ。

 な、なんだ。これって、もしかして……。

 コロン。乳房から押し出されるようにスマホが落ちた。む、胸だ。それも女性の。つまり、コレはオッパイだ。


 うっ、うわっ。やばい。

 あわわ、元に戻さなきゃ。反射的に上から押しつけたが、それは俺の手にムニュッとした感触を残しただけだった。


「佐野クン、何してるの? 佐野クン! きゃっ!」


「チ、チカンじゃないからな。俺だって今、初めて知ったんだ。えっ、えっと。そうだ。委員長。シャツのボタンをしめてやってくれ。女どうしなら、いいだろ」


「えっ、ああ。うん。わかった」


 ハア、ハア、ハア。動悸が止まらない。

 それにしても、あの胸。どこかで見たことがある。乳房の右上にホクロ……そうだ。お風呂で見たあの女性だ。

 シャンクスは女であることを隠して潜入した。

 それで、頼みこんで時間前に風呂に入れてもらったんだろう。俺とカチ合ったのは、たぶん偶然だ。

 えっと、そうすると俺は、彼女の裸を全部、見てたってことか……。


「佐野クン、終わったわよ。……どういうことか、説明してくれるよね」


「ごめん、後でいいか。あまり時間がないんだ。もうすぐ、この要塞はドラゴンの襲来で大騒ぎになる」


「ドラゴンが?」


「ただの威嚇だから、心配ない。それより早く、ここから逃げ出そう。委員長も付いてきてくれ」


「で、でも佐野クン。ドラゴンはどうなるの? 誰かがドラゴンを止めなきゃ」


「大丈夫だよ。実は、ドラゴンにはちょっとした知り合いがいるんだ。……なんとかなると思う。さあ、手をつないでくれ。これから姿をくらます魔法を使う。ステルスって魔法だ。これを使えば、誰からも気づかれずに外に出られる」


「この人はどうなるの?」


 委員長はシャンクスの方を見た。

 自分を誘拐しようとした人間を気づかうのが、実に彼女らしい。


「もちろん連れて行くさ。こんな所に帝国のスパイを置いて行ったら、間違いなく拷問される。……それに俺はなんとなく、こいつは悪い奴じゃないと思うんだ。スパイになったのも、ちゃんとした目的があったからって言ってたし」


「もしかして美人だから?」


「ち、違うよ。そんなわけあるか。俺にはもう彼女がいるんだ」


「彼女……」


 ハッとして見ると、委員長は固まっていた。

 くそっ、俺の馬鹿野郎。そんなデリカシーのない言葉を聞いたら、嫌な思いをするに決まってる。少なくても、ここで言うことじゃない。


「いい、いいよ。そうだよね。彼女くらいできるよね。こんなすごい魔法を使えるんだもの。異世界の女の子が放っておかないよ」


「ご、ごめん」


「謝らないの。そういうの、最悪だよ」


 委員長はそう言うと、正面から俺に近づいて爪先立ちになった。唇が、かすかに触れる。


「ありがとう。これは助けてくれたお礼よ。カノジョさんも、これくらいは許してくれるでしょう。また会えて、嬉しかった。……さあ、行きましょう。私をどこかに連れて行ってくれるんでしょう」


 俺はシャンクスを肩にかつぐと、もう片方の手を伸ばした。

 委員長は何もなかったような顔をして握り返してくる。だが俺は、彼女の手がかすかに震えていることに気づいていた。

 

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