もうひとつのユニークスキル

「でも、そんなスキルがあるんだったら人間爆弾なんか必要ないじゃないか」


 俺は当然の疑問を口にした。

 一回きりの破壊と脅威を完全に追放するスキル。どっちを使えばいいかなんて、考えるまでもない。


「シオリは絶対に使わないよ。メールの履歴を読んでみればわかる。……サチコは先に召喚されていた異世界人の仲間なんだ。同じ女子高生という人種だったらしい。同族のよしみで仲良くなり、メールで相談なんかもしていた。

 送還アンサモンは、異世界に生物を追放する。その行き先は、シオリがいた世界だ。自分のいた世界に凶悪なモンスターを送りこむなんて、シオリの性格ならできるわけがない。王国の連中もそれがわかっているんだろう。だからドラゴンと一緒に処分することにした……」


「ふざけるなっ!」


 俺は思わず叫んでいた。

 使えないとわかれば殺す。これじゃあ、俺にしようとしたことと同じだ。


「まあまあ、熱くなるなよ。……これは僕の想像だ。でも真実と、それほどかけ離れてはいないと思う。彼女は優しい。それも信念を持った優しさだ。

 だから王国には、爆弾にして殺すしか利用方法がない。でも、僕は違う。

 戦争が終われば、ドラゴンはそのまま帝国に対する潜在的な脅威として残る。わかるかい? 帝国は、人間が決して手を出してはいけない物に触れてしまったんだ。

 帝国は必ずドラゴンを持て余すことになる。……僕は彼女のスキルを、皇帝に対する交渉材料として使うつもりだ。

 僕たちにドラゴンを制御する力があると思わせれば、有利な状況で取引ができる。僕の理想を話せば、シオリは必ず協力してくれるはずだ」


「理想ってなんだ?」


「帝国内にいる奴隷の解放だよ。僕は奴隷の出身なんだ」


 その時、俺は一瞬だけシャンクスの悲しそうな目を見たような気がした。


「奴隷だって……」


「君だって知らないわけじゃないだろう。戦争に負けると、負けた国の人間は奴隷になる。金で買われた主人に好きなようにされるんだ。特に女性は悲惨だ……意味はわかるだろう。殴られても、凌辱されても、誰も助けてくれない。望まぬ子どもを産めば、その子も奴隷に売られる。それが普通なんだ」


 俺の頭にふと、委員長と一緒にいたミオの顔が浮かんだ。

 この理不尽な制度には、俺も前から怒りを感じていた。

 シルフィのいた国は帝国に滅ぼされた。つまり、ミオは帝国から王国に売られたことになる。たぶん王国よりも帝国の方が、奴隷の数がずっと多いんだろう。


「さあ。この話はもう、やめにしよう。長々と身の上話をしていたら、作戦行動に差しつかえる。……後で君には僕の全ての秘密を話すよ。君はもう、僕との契約に縛られてるからね。裏切ることも、断ることもできないはずだ」


 シャンクスは俺の前に、例のスマホを出した。

 待ち受け画面は、俺でも知ってる三人組のイケメンアイドルだ。元の持ち主はアイドルが好きな女子高生だったらしい。


「そう言えば、このスマホの持ち主……幸子はどうなったんだ?」


「まだ生きているよ。捕虜として大切に預かっている。シオリを動かすための切り札のひとつだからね。他にもスマホの記録から、彼女と親しい人間が、あと二人いることがわかっている。奴隷のミオ……それに『サノクン』だ。特に『サノクン』は、シオリにとって特別な男性らしい」


「恋人とかってことか?」


 俺は、動揺していないフリをして聞いた。


「たぶん彼女にとってはそれ以上だ。……シオリがどうしてそんな男に惹かれるのか、僕には理解できないけどね。そいつは彼女と一緒に召喚されるはずだったのに、ギリギリの場面で自分だけ逃げ出した卑怯者だ。

 シオリはそれでもまだ、『サノクン』とやらが王子様みたいに助けに来てくれるって信じてたようだ。サチコは『忘れなさい』ってアドバイスしていたけどね。僕の知っている彼女の恋バナはそれだけだ。

 さあ、そんなつまらない男の話はよそう。まだ少し時間がある。この中に記録されているシオリの情報を頭の中にたたきこんでくれ。操作はわからなくても大丈夫だ。人工精霊のシェリーが説明してくれる。このスマホは、帝国には4台しかない貴重品だ。絶対に壊さないでくれよ」


「わかったよ。シェリー、頼む」


「ハイ、エランド様。それではまず、シオリ様の写真から表示していきます。イラストや文字が入っている部分もありますが、人物には修正が入っていません」


 スマホの画面に委員長の写真が表示された。

 ああ、委員長だ。俺は胸がジンとした。異世界に来て、王宮で別れてからの委員長がそこにいる。奴隷のミオと一緒に笑っている写真は自撮りだろう。ちょっと右に傾いている。


 どんなに心細かったか。どんなに苦しかったか。

 それを見せないようにしている姿が痛々しい。


 もうすぐだ。もうすぐ助ける。

 心に誓いながら画像を目で追い続ける。

 痛っ……。気がつくと俺は、皮膚を爪で破るほど強くコブシを握りしめていた。




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