委員長からの返信

「どうしたんだい? 顔が青いよ」


「い、いや大丈夫だ。それにしてもドラゴンか……帝国軍はすごい秘密兵器を持っていたんだな。王国の連中がかわいそうになってくるよ」


 俺は体の震えを、適当な言葉でごまかした。

 委員長を救う。それだけが目標だった。でも、本当にいいのか? それで。

 もうすでに大勢の人間が死んでいる。帝国の思うとおりに戦況が進めば、王国の人間はみんな奴隷になってしまうかもしれない。そうなった原因が、もし俺だったとしたら……。


「もちろんその通りだが、安心はできない。ドラゴンは人間を対等な相手だとは思っていないからね。約束通りにもう一匹のドラゴンを見つけられなかったら、最悪の場合、今度は帝国に牙を向けることもあり得る。これは帝国にとっても賭けなんだ。

 エランド、頼む。この仕事にけりがついたら、そのドラゴンを見つけるのを手伝ってくれ。成功すれば、報酬は望むがままだ。僕と一緒に、帝国でのし上がろう」


「そうだな、それもいいな」


 そう答えたものの、俺の心はそこにはなかった。

 どうすればいい、どう行動すればいい。迎えの兵士が来るまで、俺はずっと自問自答を続けていた。



  ※  ※  ※



 勇者候補生を歓迎する夕食会に、委員長は欠席した。

 どうやら体調不良らしい。馬に乗って毎日何十キロも行軍してきたんだ。普通の女子高生なんだから無理もないと思うが、まわりの雰囲気はそうじゃなかった。


 こんなのが候補生の筆頭で戦争ができるのか。やはり女はダメだ。いざ出撃って時にも生理だとか言って逃げ隠れするんじゃないか。


 委員長はそんな卑怯者じゃない。反論してやりたかったが、俺はグッとこらえた。

 これから救出するんだ。その時までは目立ちたくない。


 他の勇者候補生も観察してみたが、シャンクスが言ったように大した戦力になりそうな人間はいなかった。平均的なステータスは高いが、明らかに訓練不足だ。護衛部隊がいなければ、あっという間に全滅してしまうだろう。



 夕食会が終わると、俺たちは部屋に戻って深夜になるのを待った。


 ブー、ブー、ブー。

 聞きなれた音がした。シャンクスはもう、俺の前ではスマホを隠してはいない。


「エランド、メールに返信があったぞ」


「どうだった?」


「ちょっと待ってくれないか。いま、シェリーに読み上げさせる」


 シェリーは、シャンクスのスマホに宿っている人工精霊だ。

 初期設定はミリアだが、ユーザーは名前を自由に変更できる。


 人工精霊は異世界のスマホにウィルスのように侵食し、乗っ取ることで人格を持った魔法道具になる。その養分となるのが使用者の魔力だ。

 人工精霊の能力は使用者の魔力に比例する。

 使用者のレベルによって勝手にバージョンアップしていく優れ物だ。


「ハイ、シャーリィ様。メールを原文のまま読み上げます。スマホに保存された音声データから、シオリ様の声にできるだけ近くなるように再現しました」


「よし、それで頼む」


『幸子、あなたなのね。驚いた。もう……私がどれくらい心配したと思う? 11時半ね。わかった。とにかく会って、これからのことを相談しましょう。

 私、今回の戦いでうまくやれば、自由になれるんだ。家とか買って、ミオと暮らすつもり。もう、元の世界に戻るのはあきらめた。できないことを考えるより、もっと前を向かなきゃ。幸子は私のスキルで帰れるから……それも考えておいてね。

 まだいっぱい書きたいことがあるけど、これくらいにしておくね。同室の子にバレちゃうと困るから。後は会った時に話しましょう。

 でも、本当に楽しみ。抱きついてキスしちゃうかも。ファーストキスをあげるつもりだった男の子も、もういないから。私ってけっこう重い女なのよ。覚悟してね』


 委員長だ。委員長の言葉だ。

 ようやくここまで来た。彼女はもう、すぐそこにいる。


「シェリー、シオリの画像を出してくれ」


「ハイ、シャーリィ様。データにある画像を続けて表示します」


「シオリは夕食会に来なかったからね。これを見て顔を覚えておいてくれ。ここからが本当の勝負になる。気合いを入れていこう。シオリさえ仲間にできたら、僕らは最強の力を持つことになる。皇帝陛下と直接に交渉することも可能だ」


「おいおい、ちょっと待ってくれよ。勇者候補生はドラゴンには絶対勝てないんだろう。だから人間爆弾にされるんじゃなかったのか」


 思わず、俺は言い返した。

 ガルシアも言っていた。委員長の実力はまだ、Sランクの冒険者には及ばない。皇帝陛下と交渉するなんて、話が飛躍しすぎている。


「ドラゴンを倒すことはできないが、シオリなら『消す』ことは可能なんだよ」


「消す?」


「シオリのユニークスキルは送還(アンサモン)だ。自分以外の誰かを、異世界に強制的に追放することができる。それをドラゴンに使ったら、どうなると思う?

 ドラゴンはこの世界からは消えてなくなる。戻る方法がなければ、僕らの世界から見ればあの世に行ったのと同じだ。つまりどんな強力なモンスターでも確実に排除することが可能なんだ」



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