11 委員長からの返信
ドラゴンの思惑
コンコン。
ノックの音がした。
ああぁ、まだ喉がイガイガする。
あのクソ不味い薬を洗い流そうとして、俺は水をしこたま飲んで、部屋の水差しを空にしてしまった。
シャンクスは笑っていたが俺の方は冗談じゃ済まない。ジャンプしたら揺れるくらいに腹の中がタプタプだ。
「勇者候補生の皆さんが到着しました。午後6時から、歓迎の夕食会を行います。護衛部隊の方も参加してください」
伝令の兵士は、部屋の中には入らずに戻っていった。
えっと……今は5時ちょうどか。
これから委員長に会う。そう思うと緊張する。
スキルを使っている間は、俺はエランドだ。彼女だって例外じゃない。でもいったい、どんな顔をして会えばいいんだろう。
「何を考えているんだい」
シャンクスが俺の肩に、ポンと手を置いた。
「これから、勇者候補生と会うんだろう。スパイだってこと、バレないかな。その、なんか。顔に出そうで……」
「ははは、普通にしていれば大丈夫さ。君を疑う人は、どこにもいないよ。怪しいって言葉から一番遠いのが君だ。この僕が言うんだから間違いない」
シャンクスは自信満々に請け負ってくれた。
まあ、それもスキルの効果だろうけど。
「……とにかく夕食会は、シオリの顔を覚えることだけに集中してくれ。会話と情報収集は僕がやる。作戦の決行は今夜だ。シオリを呼び出して説得する。できなければ拉致して一緒に脱出する。どうだ、簡単だろう」
「いや、でも。どうやって呼び出すんだ。それにノコノコひとりで現れるかな」
「それについては秘策があるんだ。秘策と言うよりは秘密兵器かな。
そうだな。君にはもう、話してもいいだろう」
シャンクスはシャツの間に手を入れて、何かを取り出した。
えっ、これってスマホじゃないか。どうしてシャンクスが持っているんだ。
「なんだよ、それ。田舎じゃそんなもん見たことないぞ」
「異世界のスマートフォンという道具だよ。敵の兵士から奪った。王国軍が進めている異世界人召喚プロジェクトのカギになっているアイテムだ」
「それが、どうしたんだ」
「人工精霊を使って魔道具に改造してあるけど、これは元々は通信機の一種なんだ。メールっていう機能があって、特定の相手に文章を送れる。送信リストの中に彼女のアドレスもあった」
「彼女と連絡が取れるってことか?」
「ああ、数十メートルの範囲内ならメールが届く。どうやら僕のレベルが関係しているらしい。
これの元の所有者はサチコという女性だ。シオリとの間に、かなりの数の通信履歴があった。その女性のフリをして呼び出せば、たぶん来てくれるだろう」
なるほど。
シャンクスが勇者候補生のことに詳しいわけだ。改造されたスマホには、それぞれミリアのような人工精霊が宿っている。流出した情報はかなりの量だろう。
「それで、俺は何をすればいいんだ」
「説得に失敗したら、サチコの画像を見せて彼女を捕虜にしていると脅す。動揺している隙に睡眠薬を飲ませるから、君にはその間シオリを拘束しておいてほしい。彼女が眠ったら、そのままかついで脱出だ。力仕事は頼んでもいいだろう」
「わかった」
よし。シャンクスには悪いが、俺にとっては好都合だ。そのまま委員長を奪って逃げればいい。
「シオリにケガをさせないでくれよ。彼女は帝国にとっても必要な人材だ。……作戦を援護するために、深夜0時ちょうどにドラゴンが現れることになっている。近くを飛んで威嚇するだけだが、混乱に乗じれば脱出は難しくないはずだ」
「ドラゴンが?」
「昨日、将軍閣下から聞いただろう。帝国はドラゴンを味方にしているんだ。あれがいる限り、帝国軍の敗北はあり得ない」
「でも、どうやってそんなこと……ドラゴンは誇り高い種族なんだろう。人間に従うなんてあるわけがない」
リーリアと一緒にいて、俺はドラゴンの性格を理解するようになっていた。
自分より強い者は尊敬するが、普通の人間のことなんか虫ケラくらいにしか思っていない。ただし仲間と認めた場合は別だ。ドラゴンは友情に厚い。リーリアは、シルフィやソラにも親しみを持って接している。
「もちろん普通はそうさ。でも、それには秘密があるんだ。
実は、帝国はあるドラゴンと取引をした。別のドラゴンを探す手伝いをする代わりに、一度だけ戦場で戦うという約束だ。帝国にはドラゴンの言葉を話すスキル持ちがいる。その人物が交渉の窓口になってくれた」
「でも、相手はドラゴンなんだろう。象よりデカいんだから、探すのなんか簡単じゃないか。どうしてわざわざ、人間の手を借りる必要があるんだ?」
「それが、そのドラゴンは人間に変身する能力があるらしいんだよ。王国領の森で何度か目撃されてから、ぷっつりと目撃情報が消えている。たぶん人間として暮らしているんだろうと、そのドラゴンは言っていた。……だから帝国は、王国を征服した後で領内にいる全ての人間を調査する約束をした」
げっ、間違いない。リーリアだ。
すると、アレか。王国軍の壊滅も間接的に俺が関わっていたってことか。
俺は全身の血の引いていくのを感じていた。そのせいで二万人が死んだ。責任はともかくとして、関係があることは否定できない。少なくとも原因を作ったのは俺だ。
「さっきの話じゃ、協力する約束は一回きりだけだったんだろう。どうしてまた今夜、ドラゴンが来るんだ」
「その理由はコレだよ」
シャンクスは俺にスマホを見せた。
げげっ、要塞の上空をドラゴンが飛んでいる。これもリーリアだ。
日付を見ると、撮影したのは俺たちがここに来た日だった。幸いにも下からのアングルだから、背中に乗った人間の姿は写っていない。
「スマホの人工精霊に、ドラゴンが現れたら撮影するように命令しておいたんだ。
ただ不思議なことに、この大きさなのに誰も目撃していない。たぶん何かの魔法がかかっていたんだろうと思う。僕もこれを見るまでは気がつかなかった」
すると、つまりアレか。俺たちがここに来たから、未来が変わったってことか。
最初のソラの夢にはドラゴンが出てこなかった。つまり、もう一匹のドラゴンを呼び寄せたのは俺たちだ。
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