選抜試験【その3】
「続いて52番と53番!」
歓声に応える間もなく、次の試合のコールがあった。
まだ半分以上の参加者が残っている。俺はそのまま会場に残って、次の対戦相手と戦うことになった。
「……さっきのは、どんな手を使ったんだ?」
俺の前に立ったのは、背が高く目つきの鋭い傭兵だった。背だけでなく、手も足も長い。
その男はギザギザのついた、大きなナイフを持っていた。ホラー映画で殺人鬼が使うようなやつだ。そいつは蛇のような長い舌でペロリとナイフを舐めた。
「ふふん、言わなくてもいい。わかってるぞ……毒だろう。卑怯者がよく使う手だ。
ただの打撃で、完全武装の男があんな風に倒れるわけがない。毒液をすぐ割れるような小ビンに詰めて、コッソリと投げたんだ。あの重装備でも、毒液ならヨロイの隙間から十分に体に届く。あいつはもう、生きていないかもしれないな」
なんだ、コイツ。ドヤ顔で解説してる。
それも大外れだし。でもまあ、想像力だけは大したものだ。
「違いますよ」
「それなら、他の理由を説明してみろ……できないだろう。あれは絶対に毒だ。毒に決まってる。そうでもなければ、オマエみたいな弱そうな奴が勝てるわけがない」
やれやれ。思いこみってのはおそろしい。
絶対に友達にはなりたくないタイプだ。
「それより、武器はナイフでいいんですか。リーチがないから圧倒的に不利ですよ」
「これはオマエ専用だ。毒を使う相手には、距離を取ればいい。ナイフ投げは得意なんだ。……軽装がアダになったな。近づく前にナイフで串刺しにしてやる」
「ちょっと試験の趣旨とは違うような気がしますけど……」
俺はチラリと試験官を見た。
これは別に、異種格闘技戦じゃない。戦場で役に立つ人間を選抜する試験だ。ナイフ投げなんか披露しても意味がない。
「毒を使うような卑怯者が、何を言ってるんだ。ほうら、試験官だって黙認してる。ナイフを使うのはオマエを殺すまでだ。次からは普通にやるから問題ない。さあ、かかって来な」
「時間がない。さっさとやれ。試験の判断はこっちでする」
試験官が面倒くさそうに命令した。
「どうだ。お墨つきが出たぞ。オマエが毒を使ったのは確定だ。小ざかしい手なんか使いやがって。傭兵の風上にもおけない奴だ」
ええい。毒、毒って、うるさいな。
どうやら話してもムダなようだ。こうなったら、体でわからせてやるしかない。
俺はさっきのように、対戦相手にゆっくりと近づいていった。
「ふふっ、これで終わりだ」
ヒュン。ヒュン、ヒュン。
ナイフが頬をかすめる。もちろん当たらない。
ちゃんとかわしているんだから当然だ。ただ、最小限の動きしかしていないから、相手が勝手に的を外したように見える。
「くそっ、なんで当たらないんだ。これも、まさか毒か。毒の霧が……」
「だから、毒じゃないって言ってるでしょう」
パワー、魔力、素早さ。俺のあらゆるステータスは、相手と比べて圧倒的に高い。
攻撃をさけて近づく。ただそれだけだ。作戦は必要ない。
「はい、これで終わりです」
俺は、男の腕をつかんでねじり上げた。
「う、うわあ。いつの間に腕を取った?」
「さあ、もう外せませんよ。ギブアップしてください。折れちゃったら、これからの仕事にさしつかえると思いますよ」
「ひっ、痛っ、痛え……わかった、わかった。ギブアップだ」
パッと手を放すと、男は脱兎のごとく逃げていった。
地面にはナイフが落ちたままだ。拾って返してやろうかとも思ったが、もう視界の中にはいない。
やれやれ。こんなのが続くのか。負ける気はしないが、これはこれで疲れる。
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