ギルド本部
救出作戦を終えて戻ってみると、王宮は兵士に取り囲まれていた。
それだけではない。
敷地も含めた建物全体をシールドで覆い、魔力のある者の出入りを完全に封鎖していた。連中はステルスという魔法の存在を知らない。俺がとっくの昔に脱出したことにも気づいていないのだろう。
もちろん俺のステータスをフルに解放すれば、突破して侵入することも可能だ。
だが結界を壊せば、当然、敵にバレる。
どうせ永久に封鎖を続けるわけにはいかない。
俺は門の外から眺めただけで、侵入をあきらめた。
チャンスはまたある。カティアの言う通り深追いは禁物だ。
それから俺は、また別の人間に偽装した。
今度はガルシアの知り合いの冒険者だ。背丈が同じくらいなので、俺の服や装備がそのまま使えるのがいい。
市中を歩き回ってうわさ話を拾ったりしてから、俺はギルド本部に行った。
「よう、ゼリス。なんだ、実家に帰ってたんじゃなかったのか」
「昨日、飲み過ぎちまってな。昼まで起きられなかったから、明日にしたんだ。それにしても夕方にしちゃあ、ずいぶんと人が多いな」
「おまえ、知らないのか。王都にシルフィが来てるんだってよ。モンスターを討伐して、そろそろここに戻ってくるはずだ。ギルドで一番の美女をひと目見たい。さっきからここは、そんな連中でいっぱいさ」
「へえ、女ひとりにね……どうでもいいけど、暇な連中ばっかりだな」
俺は、ふふんと鼻で笑った。
わざと関心のないふりをしたが、自分の彼女をほめられて悪い気はしない。
「それが、ひとりじゃないんだってよ。シルフィと同じパーティーに、新顔の姉ちゃんもいるんだ。髪は銀髪で、胸はこう……シルフィほどじゃないが、細身で尻がしまってて、それがまたイイんだってよ。実はオレはそっち狙いだ。ええと名前は、なんて言ったっけ。リディアだったかな」
リーリアだ。
教えてやりたいところだったが、設定上、黙っているしかなかった。
あいつは名前にうるさい。目の前で間違った呼び方をしたら確実に殺される。
「女の名前には気をつけた方がいいぜ。オレもベッドで別の女の名前を呼んで、髪の毛をむしられたことがある」
「ご忠告、ありがとうよ。後で誰かに聞いとくさ。……さあ、いよいよ美女たちの帰還らしいぜ。今回は三つのパーティーの合同作戦だ。リーダーはガルシアだから、失敗しっこない。大歓声で迎えてやろうぜ」
そういえば、ギルドの中が急に騒がしくなった。人間の動きが激しくなる。
「ちょっとそこ! 道を空けてください。討伐隊のメンバーが帰ってきます。
勝手に話しかけないで! ギルドへの報告と戦利品の査定が先です」
あのエルフの受付嬢だ。
声を張り上げながら交通整理をしている。
「さてと。おまえがそこまで言うんだ。オレもその美女とやらを見にいくとするか……。じゃあな、今度また一緒に飲もうぜ」
「おう。どっちの美人が好みか、後で教えろよ」
俺は人の波をすり抜けて、ガルシアたちに近づいていった。
先頭のガルシアは、これ見よがしに大きな袋をかついている。モンスターの牙なんかの戦利品だろう。続いている人間は1、2、3……総勢で13人。オマケに子どものソラまでいる。堂々とした隊列だ。
「あっ、偽物のお兄ちゃんだ!」
さっそく俺のことを見つけたらしい。ソラが駆け寄ってくる。
体が小さくて機敏だから、人が多くても関係ない。わずかな隙間をすり抜けて、あっという間にこっちにくる。
「おいっ、偽物はやめろよ。ゼリスだ。昨日、教えといただろう」
「うん、覚えてるよ。性病持ちのインキン野郎だよね。病気をうつされたせいで『じょせいふしん』になってるんだ。治療に失敗してタマが一個ないんだよ。『タマなしのゼリス』ってあだ名なんだ」
「そんなこと、大勢の前で言うな」
俺はバレないかと、ハラハラした。
良かった。とりあえず誰もこっちには注目してないようだ。みんなシルフィとリーリアを目で追うのに忙しい。
それにしても、冒険者ってのは口が悪い。
女性不信のインキン野郎ってのは、ガルシアのセリフだ。悪い言葉を子どもは……特にソラは、よく覚える。
ちなみに病気の方は、作戦に協力する報酬として治療したから完治している。失ったタマも戻ったはずだ。
「それよりお兄ちゃん、すごかったんだよ。モンスターがいっぱいいて、それをみんなで片っ端からやっつけたんだ。ソラも戦ったよ。ゴブリンを二匹も倒したんだ。ガルシアのおじちゃんもホメてくれた。それって『はちゅせんか』って言うんだよね」
初戦果のことだな。
見習い冒険者のソラは、今回は見学者として同行していた。シルフィとガルシアがついているから大丈夫だとは思っていたが、予想よりも成長していたらしい。
「よしよし、よくやった。偉いぞ。それじゃあ、こっそり戻ってシルフィたちに報告してくれ。『頼まれていたプレゼントを買ってきた。部屋にあるから、これからみんなでパーティーをしよう』。いいな、間違えるんじゃないぞ」
「うん、わかった。そう言うよ。じゃあね、インキンのタマなし野郎……」
隣で女性の冒険者がクスクス笑っている。
顔が急に熱くなった。
頼むから、タマなしだけはやめてくれ。他人の姿を借りているといっても、恥ずかしいものは恥ずかしい。
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