空き部屋と探索
「俺は敵じゃない。味方だ。向こうの世界にいた頃の委員長の友だちなんだ。だから助けに来た。すぐには信じられないかもしれないけど……」
さっきまで、ジェロンドの姿で酷いことを言ってきたんだ。そう簡単に信用してもらえるとは思っていない。
だが、ミオの反応は予想外のものだった。
青い目を見開いて、輝くような顔に変わる。
「ショウヘイさん、異世界から来たサノショウヘイさんですね。知ってます。ああっ、本当にいたんだ」
「えっと、俺がわかるのか?」
「シオリ様が見せてくださったんです。私を助けに来てくれるかもしれない異世界の王子様だって。写真も見せてくださいました。
いつでも見れるように、スマホの待ち受けになってたんですよ。シオリ様はいつもショウヘイ様の話をしてくださいました」
「そうなんだ……」
ズキリと胸が痛んだ。
王宮から逃げ出してから、俺は結局は、自分のことしか考えていなかった。
色々と大変だったのは間違いない。だが、それは委員長も同じだ。恋だ冒険だと浮かれている間にも、委員長は俺の助けを待っていた。
「シオリ様が教えてくださいました。すごいステータスなんですよね。もし、一緒に異世界に来ていたら……ショウヘイさんなら、とっくに本物の【勇者】になっていたって言っていました」
実はもう、勇者の力も使える。大賢者にもなれる。
それもこれも破格のユニークスキルの効果だ。
だからもっと早く、委員長の元に行くこともできた。これだけの力を持ちながら、今まで何もしなかった。
「……ごめん。自分のことだけで精一杯だった。遅くなってすまない」
「いいえ。こうして来てくれただけでも十分です。少なくともシオリ様なら、そうおっしゃると思います。
でも、わかりません。どうして私なんかを助けたんですか。お私なんか、なんの価値もないただの奴隷なのに……」
「バカだな。委員長なら、絶対にそうは言わないぜ」
「えっ?」
「人間に上とか下とか考えない。あいつは昔から、そういう奴なんだ。
とにかく話は後だ。これから俺は、ステルスって魔法を使う。これの魔法がかかっていると、目の前にいても誰も気づかない。声も聞こえない。……でも、触れることだけはできるから、気をつけてくれ。自分から誰かにさわると、その相手にだけは魔法が解ける」
「そんな魔法、聞いたことがありません」
「俺だって最近、知ったばかりだ。何十年も絶えていた究極魔法らしい。ええと……くそっ、間違えた。【勇者】じゃない。【大賢者】だ。よし、これで実行っと。
さあ、魔法をかけるからな。しばらく手を握ってるんだぞ……うん、それでいい。ステルス!」
ドンドンドン。
その時、激しくドアがたたかれる音がした。
「おいっ、この部屋。鍵がかかってるぞ。誰かいるんじゃないか」
「よし、ドアをぶち破れ。ジェロンド様から許可は出ている。ただし、奴隷を見つけても殺すなよ。大事な人質だ。何があっても、傷ひとつつけるなとのご命令だ」
「意外に早かったな」
俺は感心した。
あれからまだ、十分くらいしか経っていない。
何か別に証明になるものでも持っていたのか……そうか。スマホだな。アイツも俺と同じ魔法道具を持っている。人工精霊がとびきり優秀なのは、ミリアで実証済だ。
「そんなに落ち着いていていいんですか」
「触りさえしなければ大丈夫だ。声も聞こえない。念のため、部屋の隅にでもいてくれ」
ズバーン!
大音声と共に、ドアが破られた。
ほぼ同時に、三人の兵士が部屋に入ってきた。そのうちひとりのは
「外に出ているかもしれない。まず窓を確かめろ! それから部屋の中を隅々まで探すんだ。見逃したら、ジェロンド様に皮をはがされるぞ」
男たちは、部屋の中を荒々しく探し回った。
イスを蹴り、シーツをはぎ、衣装ダンスを片っ端から開ける。まるで野盗だ。
「そんなところにいて、見つからないんですか?」
ミオはカーテンの裏に隠れて、首だけ出していた。
不用心だと言いたいんだろう。俺は堂々と姿をさらしながら、兵士たちを避けて動き回っている。もちろん、侵入した男たちは俺のことを気にもとめていない。
「もっと大きな声を出しても大丈夫だ。それより、奴らはカーテンも開けるぞ。そこから出て、こっちへ来てくれ」
シャー。
ミオが飛び出したすぐ後に、カーテンが開けられた。
「うわわわっ」
完全に見られた。そう思ったんだろう。
だが、兵士は何もなかったようにスルーした。
「くそっ、どこにもいない。……なんで空き部屋に鍵なんかかけておくんだ。まぎらわしいったら、ありゃしない。後で、部屋を掃除した奴を締め上げてやる。このオレに、ムダな時間を使わせやがって」
「文句を言う暇があったら、次に行くぞ。みすみす侵入者を逃したと知ったら、どうなるか。おまえだってわかってるだろう」
兵士たちは、文句を言いながら出て行った。
ミオはまだ、ポカンとしている。
「本当に気づかないんですね」
「……魔法だからな。さあ、俺たちも脱出しよう。こんな場所に長居は無用だ」
俺たちは堂々と部屋を出た。
途中、何人もの兵士に会ったが、その誰一人として俺たちの姿に気づくことはなかった。
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