作戦会議
「シルフィお姉ちゃん、何してるの?」
うわっ!
死ぬほどビックリした。
腰を落としかけた俺のことを、寝ぼけマナコのソラが見ていた。いつの間にか、布団から体を起こしている。
「夜這いなら、先に脱ぐのはダメだよ。脱ぐのを見せた方が、男は『こうふん』するんだ。こんなの『じょうしき』だよ」
「あ、ありがとう」
とっさに出た声は明らかにシルフィのものだった。
自分の口から他人の声が出ると、なんか、すごい違和感がある。
「ちゃんとソラが教えてあげる。ショウヘイお兄ちゃんのためだもん」
ふわぁあ。
ソラは大きなあくびをすると、また眠ってしまった。
言ってることは大胆だが、寝顔はまるで天使のようだ。
「……俺はショウヘイだ」
俺は下ばきを腰まで引き上げてから、そうつぶやいた。
ミリアの説明だと、こう宣言することが【外見偽装】の解除呪文になるはずだ。
「これじゃあ、ノゾキと一緒だもんな。シルフィに失礼だ」
ブーンという低い音がした。
元の姿に戻った俺は、よじれた服を直すとまたベッドに横になった。
※ ※ ※
朝食後、パーティーの仲間は部屋に集合した。
さっきと同じ、シルフィとリーリアが寝室に使っている部屋だ。ここが借りている中では一番広い。
食事の後で入れ替わったのだろう。右目が赤いから、今いるのはカティアだ。
「……まずは、状況を整理しましょう。
現在、委員長さんは、帝国との戦争のために国境付近に向かっていると思われます。異世界から召喚された人間で構成された精鋭部隊の一員としてです。
召喚者たちは、それぞれ国王に専用の奴隷を与えられているそうです。それは報酬であると同時に、人質にもなっています。だから、委員長さんは逃げられない。そういうことですね?」
「ああ、それで間違いないと思う」
俺はうなずいた。
「今回の作戦の難しいところは委員長さんだけでなく、彼女の奴隷も一緒に救出する必要があるということです。……そうしないと、委員長さんは逃亡することに同意してはくれないでしょう。
ソラちゃんの予知夢でショウヘイ殿が失敗したのは、おそらくそのせいです。
だから私たちはまず奴隷がいる場所を特定して、先に救出しなければなりません。問題は、その情報をどうやって手に入れるかです」
「それなら俺に任せてくれ」
「ショウヘイ殿が?」
「実は、俺のユニークスキルがレベルアップしたんだ。タイミングが良すぎて怖いくらいだけど、情報収集には役に立つはずだ」
俺がスキルの説明をすると、全員が驚きの声を漏らした。
それはそうだろう。こんなチートスキルは、アニメやマンガでも、なかなかない。
写真を撮るだけで、どんな人間にも完璧に変装できる。そんなスキルがあったら、お宝でも情報でも盗み放題だ。
「……それが本当なら、この状況には最適のスキルですね。
人質にされているとすれば、奴隷は別の場所にいるはずです。委員長さんを追いかけるよりも、先に王宮に潜入して情報収集した方がいいかもしれません」
そう言うと、カティアは俺をじっと見つめた。
右目の赤い瞳は【真実の目】だ。あらゆる嘘を見抜いてしまう。
「それで、ショウヘイ殿は実際にそのスキルを試してみたんですか?」
「いや、それはその……」
俺は口ごもった。
シルフィの姿になって服を脱ごうとしたとか。とても言えない。
「まだなら、ここで披露してください。ただし姫様だけはダメですよ。ショウヘイ殿が良からぬことを考えるといけませんからね」
うわっ、心を読まれた。
カティアは俺にだけわかるように、唇の前に人差し指を立てた。
騒ぐな、という意味だろう。
「ショウヘイ。良からぬことってなんだ?」
シルフィが不思議そうな顔をした。
「姫様は知らなくてもいいことです。……そうですね。私で試してみてください。
コピーした人間と同じステータスになるという話でしたが、ユニークスキルもコピーできるのか。確認しておいた方がいいと思います」
「わかった。じゃあ、写真を撮るから立ってくれ」
俺はカティアの全身が写るように距離を調整した。
ラジョアの時はあまり意識していないが、こうして見ていると中々の美少女だ。
もっとも中身は俺の何倍も生きているオバさんだ。シルフィがお姫様だった王国で、王宮魔法使いのリーダーだったらしい。
「オバさんは余計ですよ」
「ご、ごめん」
また心を読まれた。
この力がコピーできたら最強だ。
ただ他人の心をのぞいているだけで、諜報活動ができてしまう。
でも、それだとカティアの姿にならないといけないのか……。
パシャ。
「今度は後ろを向いてくれ。何枚か撮った方が再現度が高くなるらしい。あと、声の方も頼む」
写真の準備ができると、俺はさっそく【外見偽装】の設定をした。
ブーンと低い音がする。
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