作戦会議【その2】
「うわっ!」
ガクン。
俺は急に、腰がくだけたみたいなった。
背が急に縮んだせいだ。視線がグッと下がる。
なんだか不思議な気がした。目の前のカティアが同じ大きさになった……ということは、シルフィたちがまるで巨人になったように見える。
「ショウヘイ、これがショウヘイなのか?」
「へえ、凄いじゃない」
「カティアだ。カティアおばちゃんだ!」
「おばちゃんは余計です!」
ソラを叱りつけると、本物のカティアは俺を値踏みするように眺めた。
「ふうん……なかなかの再現度ですね。とりあえず目の色も同じですが、中身はどうでしょうか。ショウヘイ殿は、私が何を考えてるかわかりますか?」
俺はカティアの顔をじっと見つめた。
瞳の中に、カティアの姿をした俺が映っている。
「……ごめん。ダメみたいだ。わからない」
「他の人はどうです。リーリアさんは?」
俺はリーリアに視線を移した。
だが、気になるのはやはりシルフィだ。
彼女が何を考えているのか。もし、知ることができたなら……。
『どうしよう。ショウヘイに心を読まれたら困る。はしたない女だとバレてしまう』
えっ、今の何だ?
俺は動揺を気づかれないように、心の耳を傾けた。
『考えるんじゃない。でも、ああ、ダメだ。今朝だって、もう少しでショウヘイの物になれたのに。触れられることを想像しただけで、もう……』
その後すぐに、頭にイメージが流れこんできた。
あんなことや、そんなこと……うわっ、すごいエッチだ。シルフィが、そんなこと考えてるなんて知らなかった。
「ショウヘイ殿、どうですか?」
ドキン。
ああ焦った。カティアか。
「全然、ダメだ。何も感じられない」
裏返りそうな声を抑えて、必死にゴマかした。
恋人がエッチだって構わない。むしろ嬉しい。
でも、それを他人に知られることとは話が別だ。カティアをだましてでも、シルフィの秘密は守らないといけない。
でも待て……そもそもゴマかせるのか。
こんなこと考えてるな時点で、バレてるはずだ。
いや、でも。俺もカティアの心は読めなかった。もしかして、互いの能力で効果が相殺されたとか……。
「さすがにユニークスキルは対象外のようですね。でも、【外見偽装】の効果のせいか、私もショウヘイ殿の心が読めなくなりました。
まあ、心を読むスキルなんて、そうはありませんから。その辺はあまり気にしなくてもいいでしょう。……問題は、変装している間の弱体化です。ミリアさんに聞いてみてください。たとえば【職種偽装】を同時に使用することで【勇者】の能力をキープしたりはできないんですか?」
「ミリア、どうなんだ」
「イイエ、それは不可能です。【外見偽装】の使用中は、他の偽装スキルとの重複使用はできません」
「なるほど……スキルの性質を考えれば、当然そうなるでしょうね。それと確認ですが。偽装を解除した瞬間に、ショウヘイ殿は本来のステータスに戻るんですよね」
「ハイ、次に設定するまではそうなります。ただし爆発的にステータスが上がるので注意が必要です」
「ショウヘイ殿の本来のステータスは驚異的です。ソラちゃんの夢にもあったように、一気に解放されると大惨事にもなりかねません。ここは慎重に計画を練りましょう。
ところで、そろそろ元の姿に戻ったらどうですか。その姿が気に入ったのなら構いませんが。たぶん後でラジョアから『死んだ方がいい』とか、さんざん言われますよ」
「あっ、あ。そうだった。……俺はカティアじゃない。ショウヘイだ!」
ブーン。
例の音と共に、視界が急に高くなる。
体がキュッと締まるような感覚がある。膨張したから、服が絡みついたんだ。俺は体をよじって、服を直した。体格の違う人間に偽装する時には、このことも考えておかなきゃならない。
とりあえず俺はすぐに、ステータスを調整した。
ギルドに登録している【回復術師】としてのステータスだ。攻撃力は高くないが、かなり優秀な回復魔法が使える。
「ああ良かった。ショウヘイ……男に戻ってくれて。女のままだったら、どうしようかと思った」
「あの、写真っていうやつ。私にも撮らせて。夜のオカズになるような、スゴイのを撮ってあげる」
「お兄ちゃん、やってやって。ソラにも変身して」
カティアはうんざりしたような顔をした。
「……感想は後にしてください。さて、それで当面の目標ですが、そのことはミリアさんに聞いた方がいいでしょう。委員長さんの奴隷がどうなっているか。知っている可能性の高い人物を教えてください」
「ハイ。私のデータにある人物の中で、最も可能性が高いのは魔法大臣のジェロンド様です。彼は『勇者募集計画』の中心人物でした。奴隷や麻薬を与えることで、異世界の人間を都合よく利用することを考えたのもジェロンド様です」
「麻薬だって……」
「ハイ。しかしそれは、使い捨てにできる低レベルの召喚者に限られています。麻薬を大量に投与すると数年間しか生きられません。委員長様のようにステータスの高い人材には適用されないはずです」
あのクソ野郎……。
俺は思わずコブシを握りしめた。最初に王宮で会った時の、やけに上品ぶった顔が思い出される。
全てはそこから始まった。
俺に役立たずの烙印を押し、殺そうとしたのもジェロンドだ。
「あいつだけは許せない。俺が思い知らせてやる」
「ショウヘイ殿、いいですか。目的はあくまで委員長さんの救出です。……ソラちゃんの予知夢を思い出してください。気持ちはわかりますが、余計なことを考えると全てが台無しになりますよ」
「わかってるさ」
その通りだ。
カティアは正しい。
だが感情は別だ。俺は、召喚者たちを物のように扱うジェロンドのことを、どうしても許す気にはなれなかった。
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