オマケのラジョア
俺は頭が真っ白になった。
なんだそれ。
とても現実にあることとは思えない。
「そんなこと、ショウヘイがするわけないだろう」
シルフィが弁護してくれた。
そのシルフィを、カティアが手で制止する。
「ソラちゃんが見たのは『可能性の未来』です。別な言い方をすれば、『無策で突き進むとそうなる』ということです。
タイミングを考えると、この夢はメールを送った委員長という人のことで間違い無いでしょう。ショウヘイ殿はこの後、どうするつもりでしたか?」
「えっと、あんまり考えてなかった。とにかく戦場に行けば、どうにかなるんじゃないかって……」
ふう。カティアはため息をついた。
「なまじ最強なだけに、始末におえないですね。何千、何万の軍隊の中でどうやって委員長さんを見つけるつもりだったんですか。それに委員長さんは人質を取られているんですよ。助けてやると言っても、大人しくついて来るとは限りません。
ステータスを解放すればショウヘイ殿は無敵でしょう。でも、普通の人間は剣で刺されれば死にます。戦場から無傷で助け出すことがどれほど難しいことか。少し考えればわかりそうなものです」
俺はぐうの音も出なかった。
カティアの言う通りだ。圧倒的なステータスのせいで、いい気になっていた。
「……でもまあ、私たちに相談しようとしたのは賢明でした。ソラちゃんの夢も、そのための警告のひとつだったのでしょう。分岐した未来を見るとか。ユニークスキルがまた、一段階、進化したのかもしれませんね」
ブー、ブー、ブー。
何か言いたそうにスマホが鳴ったが、俺は放っておいた。
ソラのスキルのことなら、また後で確認すればいい。
「ところで、委員長が死んだ後の光って、なんだったんだ?」
「おそらく魔力爆発ですね。強大な魔力が行き場をなくすと、たまりにたまった魔力が爆発する……と、理論上は考えられています。私もそれだけしか知りません。
ショウヘイ殿、その人工精霊に聞いてみてくれますか。大惨事を起こしかねない現象なら、詳しく知っておく必要があります」
「ミリア、魔力爆発について教えてくれ」
「ハイ。ただしこの現象については、まだ検証されたデータはありません。
魔力が圧縮されて臨界点に達すると、空間に揺らぎが発生し、そこに魔力が流れこむことで巨大な爆発が起きるといわれています。その威力はショウヘイ様の世界に存在する核兵器に匹敵するほどです。
神話における神と悪魔との戦争の描写こそが、魔力爆発が現実に起きた証拠であると指摘する研究者がいますが、推測の域をこえてはいません。魔力爆発が起きると、半径数キロにわたって百年間は死の世界になるとされています」
「そんなこと、俺に可能なのか?」
「ハイ。理論上では、勇者の50倍の魔力があれば再現が可能だとされています。ショウヘイ様はすでに、単独でその条件を満たしています。強烈な感情などの要因で魔力が圧縮されれば、魔力爆発が起きても不思議はありません」
なんだそれ……圧倒的にヤバいやつじゃないか。
俺は背筋が寒くなった。
「カティア、俺はどうしたらいいんだ」
「どうもこうもありません。圧倒的な力があれば、責任が大きくなるのは当然です。
幸いにも、ショウヘイ殿には魔力を抑えるユニークスキルがあります。うまく力をコントロールしながら生活すればいいだけのことです」
「ショウヘイ、私が支えになる。そんな恐ろしいことは絶対にさせない」
「ちょっと見てみたい気もするけど、あきらめておくわ。ショウヘイが『オス』として役に立たなくなったら困るもの」
「ショウヘイお兄ちゃんは、ソラのヒーローなんだよ。ずっと優しいお兄ちゃんなんだよ」
仲間のみんなの言葉が心の中に染みこんでいった。
災厄を起こすかもしれない俺のことを、ちゃんと受け止めてくれている。
「ありがとう。……そうだよな。俺がしっかりしなくちゃな」
「言うまでもないことですが、委員長さんを助けることには賛成します。ただし、しっかりとした作戦を立てた上でのことです。みなさん、いいですね」
全員が深くうなずいた。
「そうと決まったら、朝食までの間、少し休みましょう。あせりは禁物です」
「でも、その間に委員長が遠くに行ってしまったら……」
「冷静に考えてください。普通の軍隊は空を飛べないんですよ。どんなに急いでも、戦場に着くまでに二週間はかかります。
それに、こちらにはリーリアさんがいます。ドラゴンの背中に乗って飛べば、二日とかからないはずです」
「全速力なら一日で着くわ」
「時間はまだ十分にあります。ショウヘイ殿は、朝食後の作戦会議までに頭を冷やしておいてください。私もラジョアの中にこもって、少し考えてみます」
「ちょっと待ってくれよ。まだ聞きたいことが……」
「未練がましい男は最低だ。死ねばいい」
うわっ、もうラジョアに代わってる。
赤かった右の瞳が緑色に戻っている。この体の本来の持ち主はラジョアだ。
俺はあきらめて、自分の部屋に戻った。
後ろから、ソラがついて来る。
「一緒に寝ていい?」
「俺より、ラジョアの方がいいんじゃないか」
「ううん、ショウヘイがいい。ショウヘイが魔王にならないように、ソラが守ってあげる」
眠れないのは承知で、俺はベッドに横になった。
ソラは布団にすべりこむと、ギュッと抱きついてきた。
相変わらず目は醒めたままだったが、それでもその間だけは心が騒ぐことはなかった。
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