15 ドラゴンの理由

再びギルドへ

「えいっ、えいっ、えいっ」


 ソラが一生懸命に木刀を打ちこんでいる。

 相手をしているのはシルフィだ。

 冒険者の見習い試験は、後見人になるパーティーの仲間が試験の相手をする。

 それをギルドの職員が見て、最低限度の技量があるかを判断する。今回の審査員は例のエルフの受付嬢だ。彼女は【鑑定士】だから、資格には問題がない。


「これで、7才ですか。驚きました。ちゃんと魔力のオーラが体を回っています。この木刀でも、ゴブリンくらいは倒せますよ。これなら、本物の冒険者として推薦してもいいくらいです」


「子どもなんで、あまり持ち上げないでください。気が大きくなって無謀なことでもされたら、大変です」


「それはそうですね。本来なら私が注意する立場なのに、余計なことを言いました。

 もちろん、ソラちゃんは合格です。それで今日は、もうひとり試験を受けるんですよね。まったくの未経験者って話ですけど、どういう職種を目指しているんですか」


「そうですね……」


 俺はリーリアを見た。

 彼女は無防備な美貌で、すでにギルドにいる男どものハートをつかんでいた。

 魔力検査はさっき済ましている。

 ちなみに表示された数値は、体力52、攻撃力38、魔力163だ。新人としてはこれでも驚異的らしいが、もちろんドラゴンのステータスはこんなもんじゃない。リーリアのスキルで、普通の人間に見えるように【偽装】している。


「剣を使うのは面倒くさいから。素手でいいそうです。職種は、えっと……強いて言えば【武闘家】ですかね」


「【武闘家】? ……そんな職種、聞いたことありませんよ」


 それはそうだ。

 どうせ魔力を変換して戦うなら魔法戦士の方がいい。

 武器を持たないことにメリットなんてない。それがこの世界の常識だ。


「まあ、試験だけでもしてください。えっと、できれば試験官はこの前とは別の人で……」


「おうおう、聞いたぞ。『疾風の銀鷲』が新人を取るんだって? それもまた、すごい美人って話じゃないか。もちろん、冒険者試験の試験官はオレにやらしてくれるんだろうな」


 げっ、デスリーだ。

 Sランクパーティー『疾風のドラゴン』のリーダーで、シルフィのファン……ていうか、美人ならなんでもいい色ボケ野郎だ。

 ムダに盛り上がった胸筋をピクピクさせながら、親指を立ててリーリアにアピールしている。

 うわっ、ニタっと笑った。相手にされていないのにも気づいていないらしい。


「ちょっと待ってください。あなたはダメです」

 ギルドの受付嬢が毅然として言った。


「なんだそれ、どういう理由だ」


「脅してもダメすよ。あなたはこの前、ショウヘイさんの試験で、行き過ぎた審査をしました。本来なら懲戒処分ですよ、それを無理矢理……」


「前のことは、話がついているはずだ。なあ、ショウヘイ。オレたちはダチだよな」


 うげっ、コイツ。どういう神経してるんだ。

 だが俺だって試験前に、よけいな争いは避けたい。


「ええ、まあ。尊敬する先輩ってことにしておきます」


 やめとけばいいのに。

 俺は心の中でつぶやいた。どう考えても、コイツがドラゴンに勝てるわけがない。


「それなら、反対しないよな。ふふふっ、こりゃあ楽しみだ。お互いに素手でやり合うんだろう。寝業なら、俺の得意分野だ。もちろん胸とか尻とか触っても事故だよな」


「ねえ、ショウヘイ。この色気づいた豚野郎、殺してもいい?」


「だから、人間を殺すのは禁止!」


「まあ、約束だから仕方ないか……でも、ちょっとキツめにおしおきするわよ。

 コイツ、ショウヘイのことをバカにしているもの。私の大事な『ツガイのオス』を下に見るなんて許せない」


「さあお嬢ちゃん、話し合いは終わったかな。オレと遊ぼうじゃないか。ギルドの姉ちゃんも構わないよな。今度は危険なことはないぜ。まあ、オレの体を忘れられなくなりゃあ別だが……」


「別に付き合う必要はありませんよ。ギルドマスターも、この前のことには批判的なんです。私だって、怒ってるんですから」


「邪魔するなら、先にあんたを味見してやってもいいんだぜ。オレみたいに強い男に抱かれたら本望だろう。オレはこれでもテクニシャンなんだ。どの女も、ヒイヒイ言って喜んでるぜ」


「最低……ギルド本部にセクハラ申告します」


「おっと、今のはナシだ。Sランクパーティーの評判に傷がつく。

 もう、いいだろう。さっさと許可してくれ。オレみたいな実力者に相手をしてもらえるチャンスなんて滅多にないぜ」


「いいわよ。ちょうど、あなたみたいな人で試してみたいことがあったから。でも、途中で音を上げないでよ」


「いいぜ。よし、試験開始だ。どっからでも……」


 その瞬間、リーリアが動いた。

 両腕でデスリーの右足を取って、そのまま回転するように投げ飛ばす。


「ドラゴンスクリュー!」


「ぐぼぉおお!」


 デスリーは、そのまま腰と頭を床に強打した。

 だが、コイツは頑丈さだけが取り柄だ。頭を振ってなんとか立ち上がる。


「くそっ、なかなかやるじゃねえか」


「ドラゴンパンチ!」


 パシッ。


「ぐはっ。でも、まだまだだな……」


 パシッ、パシッ。


「ぐぼっ、頼む。ちょっと待ってくれ」


 パシッ、パシッ、パシッ。


「ひ、ひひょうだぞ」


 パシッ、パシッ、パシッ、パシッ。


「ひゃ、ひゃめて」


 パシッ、パシッ、パシッ、パシッ、パシッ。


「どひゃっ、ぐひゃっ、ぶひゃっ」


 デスリーの顔はアッという間に腫れあがった。

 最初から見ていなければ、もう、誰だかわからない。


「ハア、ハア、ハア。やってくれたな。今度はコッチの番だ……」


 だがその時にはもう、リーリアはデスリーの後ろに回っていた。


「ドラゴンスープレックス!」


「ぐばぁああ!」


 げっ、これインチキだろう。

 この体格差で腕が届くはずがない。それなのにちゃんと脇を固めて投げている。

 デスリーは反り返ったまま、後頭部から床にたたきつけられた。


 この前、ミリアを貸してくれって言ってた意味がわかった。

 プロレス技を検索してたんだ。


 それにしても、やばい。これ、殺してないか。

 倒れたままピクピクと動いているデスリーに、仲間の【回復術師】が駆け寄った。

 エクスヒーリングで即席の治療をしている。このギルド支部だと、俺とこの男しか使えない上級魔法だ。

 

 応急処置が終わると、デスリーはまた立ち上がった。

 この根性だけは尊敬する。


「も、もう女だって容赦はしねえ。裸にむいて……」


「ドラゴン✖️✖️✖️拳!」


 な、なんだ。今の技。

 技の名前が、途中から聞こえない。


「ぎゃあぁあああああ!」


 しまった。技の名前に気を取られて見るのを忘れてた。

 いつの間にか、デスリーが吹っ飛んでいる。

 

「ミ、ミリア。今のは何て言ったんだ?」


「著作権上、問題があるのでセリフの一部を翻訳できません。翻訳を続ける場合は端末で設定してください」


 なんだよそれ。


『課金しますか【YES】、【NO】』


 課金額は……。

 げっ、高い! 金貨2枚とか。ボッタクリじゃんか。

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