ドラゴンの理由
デスリーの仲間の【回復術師】が首を振った。
「内臓がぐしゃぐしゃだ。オレの回復魔法でも治療に半日はかかる。あんたの勝ちだ」
タオルが投げられると、ギルドのロビーは歓声に包まれた。
「すげえ、本当に勝っちまったぜ」
「オレ、断然リーリアちゃんのファンになる」
「勝手にしろ。オレはシルフィちゃん一筋だ」
どうでもいい感想が飛び交う中で、リーリアはボロボロのデスリーをゆっくりと見下ろした。
「わかった? あなたごときが、パーティーの名前にドラゴンを使うなんて百万年早いのよ。『疾風のドラゴン』じゃなくて、『疾風のエリマキトカゲ』にしなさい」
「エリマキトカゲって、なんだ?」
回復術師の男が、呆然としている。
「スマホで見たのよ。知らないの? こぉおんな、ちっちゃい奴」
まずい。リーリアの奴。色々と毒されてる。
「とにかく、早く解放してくれ。もういいだろう。
ちゃんと治療しないと死んじまう。こんなバカでもオレたちのリーダーだからな。さっさとアッチへ行ってくれ」
「でも、まだ試験結果を聞いていないわよ」
「決まってるだろう。試験官がぶっ倒れたんだから合格だ。オレがデスリーの代わりに認定してやる」
試験が終わって登録手続きが済むと、ギルドマスターの部屋に呼ばれた。
ユニークスキル【経歴偽装】の設定では、俺たちは調査を終えてたった今、戻ったことになっている。
『スタンピードの危険なし』
ここに来る前に、それだけは伝言しておいた。
だから最初から、ギルドマスターの表情に緊張感はない。
「やあ、おはよう。先ほどの活躍は私もこっそり見ていたよ。
これで、パーティーのメンバーがそろったようだな。
君たちの実力なら、『疾風の銀鷲』がSランクになるのも夢ではない。まずは『おめでとう』と言わせてもらおう」
「ありがとうございます」
「君たちにも面倒をかけたな。ウワサの方は、どうやら昨日あたりから落ち着いてきたようだ。デマの正体がわかったとか……どうやら出どころは、この辺を仕切るマフィアだったらしい。英雄祭で外の人間が増えているからな。パニックを起こして大規模な掠奪をするつもりだったという話だ」
この新しいウワサは、昨日のうちに傭兵隊長のガストーに流してもらった。
もちろん犯人はいないが、それでも問題はないらしい。
カティアの話では『人間は信じたいものを信じる』んだそうだ。
作戦参謀のカティア、万能知識のミリア。俺は本当に恵まれている。
「それでも一応、異変の痕跡のようなものは見つけました」
「痕跡?」
ギルドマスターは片方の眉を上げた。
「リーディアの森の入口のあたりに、モンスターの大量の死骸がありました。それも普通の死に方じゃありません。
何百ものモンスターが、ミンチした肉みたいになっていたんです。こんなことができるのはドラゴンか……」
「勇者の『ギガブレイク』くらいだな」
俺はギョッとした。
まさか、バレているのか? いや、そんなことはないはずだ。
俺が『ギガブレイク』を使ったところは誰にも見られていない。それに、ごていねいに【偽装】スキルまで使っている。
「はっはっは。冗談だよ。私も冒険者の端くれだからな。勇者の伝説的な技には興味があるんだ。そういえば、面白い話を聞いたぞ。伝書鳩からの最新情報なんだが、『シーリン』で奇跡が発生したらしい。
あの勇者パーティーの魔法使い【大賢者ダルム】が現れて、孤児院の子どもたちを治療したということだ。まあ、ダルムと言えば何十年も前に死んだ英雄だ。眉ツバだとは思うが、ギガヒーリングが使われたという話もある。現地のギルドが調査中だそうだが、なんとも夢のある話じゃないか」
「そういえば、明日は英雄祭ですね」
俺はわざと話をそらした。
「あ、ああ。そうだな。英雄祭が惨劇の場にならないで、本当によかった」
「ミンチになったモンスターは、たぶんドラゴンにやられたんだと思います。前にリーディアの森に、ドラゴンが出るってウワサがあったじゃないですか」
「それは知っている。あのウワサは本当だったということか……。だが、どうしてだろうな。なんでわざわざ、あんな辺鄙な場所にある森にドラゴンがこだわるのかがわからない」
「名前に決まってるでしょう」
いきなり、リーリアが口をはさんだ。
「人間がつけた名前が気に入らなかったのよ。誇り高いドラゴンの一族をバカにするにも程があるわ」
「ほう、それは斬新なご意見だ。そういえばお嬢さんの名前はリーリアでしたかな。確かにリーディアとは発音が似ている」
俺はまた、ギョッとした。
「ぐ、偶然ですよ。ただの偶然です。リーリアは、たまたま田舎で見つけた冒険者の卵です。ドラゴンとは関係ありません」
「君、なにをあせっているのかね。こんなに綺麗なお嬢さんが、恐ろしいドラゴンと関係があるわけがないだろう。いくら仲間とはいえ、失礼なんじゃないか」
「はい、そうでした。ごめんなさい」
「私ではない。リーリアさんに謝るべきだと言っているんだ」
俺はリーリアに向けて頭を下げた。
チッ。俺の舌打ちに気づいたのか、リーリアはコッソリと舌を出した。
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