ドラゴンの少女

「ショウヘイ、大丈夫か。ショ……」

 心配して駆け寄ってきたシルフィが絶句した。


 まあ、当然だ。


 俺は全裸で、銀髪の美少女にまたがっていた。

 もちろん彼女も裸だ。胸の大きさはシルフィほどではないが、魅惑的な曲線が美しい。乱れた呼吸のせいで、その胸が大きく上下している……なんて、冷静に描写している場合じゃない。


「これは違う、違うんだ」

 俺は彼女の首にかけていた手を、あわてて放した。

 これだけでもヤバい。変態性欲者だと思われたら、もう立ち直れない。


「わかっている。私だって子どもじゃない」


「そ、そうじゃないんだ。これはさっきのドラゴンで……」


「ああ、そうだ。これを拾っておいた。大切な物なんだろう。その女との事が終わったら呼んでくれ」


 シルフィは俺の横にスマホを置くと後ろを向いた。

 機械的なのが、かえって怖い。


「ちょっと待ってくれ。シルフィ、誤解なんだ」


「……ちょっと、ちょっと。この私を力ずくで自分のモノにしておいて、誤解はないんじゃない」


 俺の下の方から、女性の声がした。

 さっきまでの地響きみたいな声とは違う。まるで、普通の女の子みたいだ。


「えっ、なんだ。コレ……」


「ふふん、驚いてるわね。私はユニークスキル持ちなのよ。ドラゴン族の長老の話だと【人間ヒューマン偽装】って言うらしいわ。

 ドラゴンがこんなに可愛い少女になって、人間と同じ生活ができるのよ。もちろんアッチのコトもね。卵じゃない子どもだって産めるんだから。すごいでしょう」


「ああ、すごいすごい」


 反応が薄いと怒られそうだったが、今の俺はそれどころじゃなかった。


 どうやって、シルフィの誤解を解こう。

 やはり定番は土下座だろうか。謝罪はやはり形からだ。いっそのこと、頭を丸めるっていう方法もある。


「ふん、私を無視するとはいい度胸ね。普通のオスなら問答無用で殺すところよ。

 それより早く、これをどうするか決めてよ。負けたんだから陵辱されることくらいは覚悟してるけど、ここで始めるのは、いくらなんでもマズいんじゃない。金髪の女……あれって、あなたの彼女メスでしょう。たぶん怒ってるわよ」


 うわっ。そうだ。女の子の上に乗ってるんだった。

 俺はあわてて立ち上がった。うわっ。俺のアソコ、元気になってやがる。ムチャクチャ恥ずかしいのに、このままだと前を隠す物がない。


「わ、悪かった。どくから早く服を着てくれ。その……」


「リーリアよ。これからは『ツガイ』になるんだから、名前で呼んでちょうだい」


「ツガイ?」


「別に驚くことじゃないでしょう。ドラゴンのメスは、2回連続して同じオスに負けると、そのオスのモノにならないといけない決まりなの。

 あーあ。まさか、『ツガイ』になるオスが人間になるなんてね。予想外もいいところだわ」


「ちょっと待て。そんなの聞いてないぞ」


「そんなこと言っても説得力ないわよ。アソコはやる気満々みたいだし……それにあなた、さっき私にエッチなことしたでしょう?」


「えっ?」


「忘れたとは言わせないわ。ムリヤリ胸触ったり、キスしたり、それに大事なところまで……私だってドラゴンのメスなのよ。あれだけやったんだから、責任くらいは取ってくれるわよね」


 大事なところってなんだ?

 胸……それは、仕方ないだろ。さわらないで、どうやって戦うんだ。

 キス……あれか。口をこじ開けて噛みついたことか。

 大事なところ……げっ、さっきのボディスラムの時、股のところに手を入れてる。ドラゴンが最初から裸だったとすると、確かにエッチだ。


「これを着なさい」

 カティアが、ぶすっとした顔でポンチョを差し出した。


「こんな物どうするの。この長さじゃ、下半身丸出しじゃない。まさか、そういうのが好きなの?」


「お願いだから、あまり手間をかけさせないで。少しは頭を使いなさい。引き裂いて、腰と胸だけでも隠せばいいでしょう」


「あのう、俺は……」


「どうせまた脱ぐんでしょう。その辺の葉っぱでも拾って、くっつけておけばいいんじゃない」


 ひ、ひでえ。

 やっぱりカティアも怒ってる。

 シルフィが、ようやくこっちを向いた。

 目に、決意の色が見える。


「ショウヘイ、私は決めた」


「な、なんだ」


「王家では、敵を倒した時にその縁者を妻に迎えることになっていた。私の父にも、正妻以外に二人の妻がいた。別に色恋だけの話ではない。恨みを残さず、その勢力を自分のものにするためだ。

 私はショウヘイの妻になるんだ。強い男には責任がある。そういうことにも、少しずつ慣れていこうと思う」


 なんか、勝手に話が進んでる。


「ふぅん、よくできた彼女さんじゃない。

 私は構わないわよ。ドラゴンは力が全てだから。強いオスが何人ものメスを従えるのは珍しいことじゃないわ」


「おまえ、このまま俺と一緒にいるつもりなのか」


「当たり前でしょう。人間に負けたドラゴンに居場所があると思う?

 大丈夫よ、ちゃんと人間として暮らしてあげるから。人間がドラゴンと『ツガイ』になれるなんて幸運なことよ。五千年前のイーリアお婆ちゃん以来だわ」


「ミリア、そうなのか」


「ハイ、伝説では古代の最初の王朝の始祖は、ドラゴンと人間との間に生まれた子どもだったと伝えられています。伝承に真実の一部が含まれていたとしても不思議はありません。その王は代々、強い魔力で国民を支配したそうです」


「子どもを産んだら、すぐに離婚して戻ってきちゃったけどね。あのドラゴン、浮気性だったから。自分のユニークスキルを試してみたかっただけみたい」


 なんかすごい話だ。

 神話を普通に語ってる。リーリアって、いったい何才なんだ。


 俺は落ちている服の残骸を見つけると、なんとか腰だけは隠した。

 死ぬほど疲れた。もう帰りたい。


「ミリア、【大賢者】に偽装するから、ステータスを表示してくれ」


 俺は最後の力をふりしぼって、ザルフの町に向かって飛んだ。もちろんシルフィとカティアを運ぶのは俺の仕事だ。

 この精神状態で飛行を安定させるのは、かなりツラい。それに気まずくて、二人の顔をまともに見られない。


「なかなか面白い魔法を使うのね。さすが私が、生涯のツガイに選んだオスだけのことはあるわ」


 恐ろしいことをサラッと言う。 

 お通夜のような重苦しい雰囲気の中で、リーリアだけが俺の隣を楽しそうに飛んでいた。


 


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