二回目の死闘

 俺はイラッときた。

 因縁とか復讐はわかる。でも、そのために何万人もの人間を犠牲にするのは許せない。モンスターだってそうだ。俺が言うのもなんだが、あんな風に使い捨てるなんて間違ってる。

 

「わかった。相手になってやる」


「威勢がいいな。……だが、魔力がなければ、得意の巨大化もできまい。

 頭から踏み潰して終わりだ」


「ウスラハゲ……」

 俺はステータスを解放した。


 ベリベリベリ。

 巨大化すると共に服が裂けた。

 ドラゴンの全長は20メートルはある。俺が肩を並べた頃には、それまで着ていた服は下着も含めてどこかに消えていた。

 素っ裸でも、魔力のオーラがあるから寒くはない。

 問題は、シルフィとカティアに見られているってことだ。


 でも、恥ずかしいなんて言っていられない。

 ここで俺が負ければ、二人の命だって危ない。スタンピードを阻止できなければ、ソラも含めた無数の人間が死ぬ。

 

「うぉぉおおお!」


 俺はコブシを握ったまま、腰を深く落とした。

 力があふれてくる。それも、前よりもずっと強い力だ。

 レベルアップを繰り返したからだろう。それに比べれば巨大なドラゴンでさえ、ちっぽけなトカゲのように感じられる。


「バ、バカな。おまえの魔力はもう、尽きていたはずだ」


「悪いが、見こみ違いだ。俺のステータスは、こんなものじゃないんでね」


「でも、裸のままでどうするつもりだ。人間には硬いウロコも鋭い牙もない。口から火を吹くこともできまい。

 この前は油断していたが、今度は違う。どう考えても勝ち目はないぞ」


「試してみるか。俺の全てを、おまえの体に刻みこんでやる」


 ドシン!

 俺はドラゴンと、がっぷり四つに組み合った。

 正面から組み伏せてやる。まずは相撲、上手投げだ。マワシはないが、ウロコが立っている。そこに指を引っかけて、気合と共に投げ飛ばす。


「エイ!」


「ひ、ひえぇぇぇ」

 そいつはドラゴンとは思えないような情けない声を出して、ゴロゴロと転がった。

 だが、ドラゴンには翼がある。

 翼を大きく羽ばたかせると、そいつは物理法則を無視してすぐに立ち直った。


「わ、わかった。待て。仕切り直そう」

 ドラゴンは翼を使って浮き上がると、自分から距離を取った。


 有利なポジションのつもりだろうが、俺には関係ない。

 この距離なら、一気につめられる。スピードもパワーも圧倒的に俺が上だ。


「実は、ドラゴンと会ったら、前からやりたかった技があったんだ」


「なんだ、おまえ。ドラゴンを知っていたのか」


「名前だけだけどな。だって強そうだろう」


 俺は両手を前に出し、タックルの姿勢をとった。

 ふう、と息をつく。

 

 実は小さい頃から、死んだオヤジに連れられて何度もプロレスを見に行った。

 そのことは今でも鮮明に覚えている。ただし、客席に乱入したレスラーにチビったことは内緒だ。


 バチン!

 体がぶつかる直前に両手をたたいて音を出した。猫だましだ。


「ふぅわぁあ」


 俺はドラゴンがひるんだ隙に後ろにまわり、脇に手を入れた。後ろを取るのは格闘技の常識だ。史上最強生物とかほざく奴ほど脇が甘い。


「ドラゴンスープレックス!」


 俺はそのまま体をそらせて、ドラゴンを後ろに投げた。


「うひやぁぁぁあああ」


 ドッシーン。

 よし、見事に決まった。

 タフなはずのドラゴンが、今度はなかなか立ち直れない。

 フォールしてやるか。そう思ったが、ここにはレフェリーがいなかった。


「こ、こうなったら容赦しないぞ。あそこにいる、おまえの女を殺す。私を怒らせたことを地獄で後悔するがいい」


 ドラゴンは上半身だけ起き上がり、口を大きく開けた。

 ……バカが。ミエミエだ。息を吸えば、次に火を吐くことくらいは想像がつく。


 俺はドラゴンを組み伏せて、アゴに手をかけた。ガチン! そのまま、こっちの方から上アゴに噛みついてやる。


「ふ、ふわぁああ」


 なんだこれ。

 ウロコはムチャクチャ硬いのに、口は意外なほど柔らかい。。


 でもまあ、そんなことはいい。

 俺はドラゴンを無理矢理立たせた。


 アレ、いけるかな。

 実はまだ、試してみたい技があった。

 尻尾が邪魔なのは間違いない。だが、それが逆に興味をそそる。


 俺はドラゴンの股に腕を差しこんだ。


「い、いや。待て。さすがにそこは……」


「ボディスラム!」


「ひいいぃぃぃ。助けて」


 そのまま股をすくいあげて、ひっくり返すようにして投げる。

 ドドーン。

 地響きが轟いた。

 グプッ。青いスライムのような痰を吐く。

 ピク、ピク、ピク……ドラゴンはまだ、ひきつるように動いていた。ただしもう、抵抗する力はない。


 俺はドラゴンにまたがって、両手で首を絞めた。


「く、くるひぃ……」


「さあ、どうする? もう勝負はついたんだ、降参しろ。そうすれば、命までは取らない。約束する」


「ひ、ひい。お助けを……」


「命乞いがしたいなら、ここで誓え。『この俺に従う。もう、むやみに人間は殺さない』。それが命を助ける条件だ。いいな、この感覚を体に刻みこんでおけ。生涯、忘れるんじゃないぞ」


「わ、わかった。もういい、誓う。おまえの女になる」


「へっ、女……?」


 またなにか、とんでもないことをしてしまった。

 まさか。メスだったのか?

 不穏な予感がする。

 

 その予感にを裏付けるようにドラゴンが縮み始めた。パンパンになった風船から空気が抜けていく感じだ。

 同時に俺も縮んでいく。

 そうしないと、彼女がつぶれてしまう。

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