10 スタンピード
夢のお告げ
その日はどっぷりと眠ってしまった。
決闘のダブルヘッダー、それに二回ともシルフィにボコボコに殴られた。
最上級の回復魔法を使っても、精神的なダメージまでは回復できない。俺はそれを身をもって体験した。
ゆっさ、ゆっさ、ゆっさ。
体が揺れる。俺を誰かが揺すっている。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、ショウヘイお兄ちゃん……」
ああ、そうか。ソラか。最近、あまり構ってやれなかったから、怒ってるのか?
俺とソラは同室だ。隣の部屋には、シルフィとラジョアがいる。
シルフィは俺と一緒の部屋で寝るつもりらしかったが、ラジョアとソラが猛烈に反対した。残念だったが、ホッとしたのも事実だ。俺にはとても、そんな状況で理性を保てる自信がない。
「お兄ちゃん、大変だ! モンスターが来るよ。それも、すごくたくさん。人がいっぱい死ぬよ」
「モンスター? どこにいる」
俺はあわてて飛び起きた。
ベッドに置いてあったスマホをつかむ。
「ミリア、何かわかるか」
「イイエ、索敵可能な範囲内にモンスターはいません。都市の魔法結界も正常に稼働しています」
ミリアは冷静だ。人工精霊……AIみたいなものだから、当たり前か。
「夢だよ、夢で見たんだ。ソラの夢はよく当たるんだよ。お兄ちゃんが、ソラの『うんめい』を変えることだって知ってた」
「ああ、ああ。わかった。わかったから、もう少し眠らせてくれ。後で一緒に、ソラのお姉ちゃんを探してやるからな。先にみんなと朝飯を食ってていいぞ」
ふうぁあああ。アクビが出る。
ん? 体を伸ばした瞬間、俺は他にも誰かがいることに気づいた。
シルフィとラジョアだ。……うわっ、シルフィが、スケスケのネグリジェみたいな寝巻きを着ている。朝から、いや、朝だからこそヤバい。
俺は掛け布団を腰の所まで引っ張った。
動揺を隠すために、わざと咳払いをする。
「みんなそろって、どうしたんだ」
「ショウヘイ殿が起きないので、ソラちゃんが私たちの所にも知らせに来たのです。姫様は……着替えるように言ったのですが、聞きいれてくれませんでした。『目の毒』という言葉を、もっと早いうちに教えておくべきだったかもしれません」
ああ、カティアの方か……。
右の瞳がルビーのように紅い。左はヒスイのような緑色だ。ファンタジー小説なんかに出てくる『オッドアイ』というヤツだ。
「でも、ソラが言うんだ。そういうのを着て、もっと、その……アピールした方がいいって。男はそういうのが好きなんだろう」
シルフィが恥ずかしそうにしている。
胸がドキドキする。いや、それよりも下半身の状態だ。
このままじゃ、いつまで経っても布団から出られそうにない。
そうだ。話を変えろ。こういう時は、子どもの話をするのに限る。
「ま、まあ。そういう男もいるかもな。
それにしてもソラの奴、ずいぶんと協力的になったじゃないか。この前までは『お兄ちゃんと結婚する』とか言ってたのに」
ソラはふん、と鼻を鳴らした。
「仕方ないよ。夢で見ちゃったんだもん。ショウヘイがシルフィと『けっこんしき』をしたあとのことだよ。二人で、ずっとイチャイチャしてるんだ。
二人だけになったら、すぐに✖️✖️✖️になって、✖️✖️✖️して。それから朝になるまで、ずっと✖️✖️✖️してるんだ。あんなに✖️✖️✖️したいなら、しょうがないよ。どうせ、ソラの順番なんかこないもん」
うわっ、話を振る相手を間違えた。
「夢をバカにするものではありませんよ。それにこの子には、何か特別な力を感じます。あなたは優秀な魔力検査機を持っているのでしょう。調べてみたらどうです」
あっ、そうか。
「ミリア、ソラのステータスを測定してくれ。スピーカーモードで頼む」
「ハイ、現在のステータスは『【スラム街の少女】レベル1、体力23、攻撃力8、魔力21』になります。
通常のステータス以外に、ソラ様はユニークスキルを所持しています。そちらも読み上げますか?」
「えっ? ソラの奴、もう魔力が覚醒してるのか……」
「ショウヘイ殿、ステータスの方は大きな問題ではありません。重要なのは、ユニークスキルの方です」
「あ、ああ。そうでしたね。ミリア、教えてくれ」
「ハイ、『ユニークスキル、レア度最大。【夢占い】。効果……夢により、未来に発生する出来事を、ほぼ 100パーセントの確率で予知することができる。……ただし、この予知を知った者に限り未来の変更は可能』
ショウヘイ様やカティア様と同じ、極めて稀なスキルです。同じスキルを持った人間の記録はありません」
なんだこれ、ムチャクチャ優秀じゃないか。
特に、未来を変えられるってところがチートだ。好きな夢を見られない制限はあるが、場合によってはこのスキルだけでも歴史を変えかねない。
でも待てよ。そうするとシルフィとのことも……✖️✖️✖️って、もしかしてアレか? いや、どう考えてもアレだろう。シルフィとずっと✖️✖️✖️って……。
げっ、想像したら鼻血が出てきた。
鼻の奥から血が流れ落ちる感覚がある。誰にも気づかれないうちに、俺は密かにヒーリングを使った。
今の設定はギルドで登録した【回復術師】のままだ。鼻血くらいなら、一瞬で止められる。
「でも、最大レアが3人って……そんな偶然なんかあるんですか?」
「偶然ではないでしょうね」
カティアが答えた。
「統計はありませんが、偶然なら何十万分の一とかの確率でしょう。
でも、私も自分の肉体を持っていた頃に、何人かの【レアスキル持ち】と出会ったことがあります。
魔力や能力は互いに引き合う傾向があるのですよ。特にショウヘイ殿のような規格外の能力なら、なおさらです。ソラちゃんのような小さな子どもがスキルを発動したのも、そのせいかもしれません」
「ソラがハッキリ夢を見るようになったのは、ショウヘイお兄ちゃんに会ってからだよ。お兄ちゃんは、ソラを本物の冒険者の仲間にしてくれるんだ」
冒険者の仲間?
俺はドキッとした。確かにそんな約束はした。しかしそれは、ただの友だち的な意味のつもりだった。子ども相手だから。そう思って軽く考えていたのも事実だ。
「それも、夢で見たのか?」
「うん。ギルドで冒険者のカードをもらったんだ。昨日の夢だけど、ハッキリ覚えてるよ。みんなも一緒だった」
「でも、まだ子どもだぜ……。カティアさんはどう思いますか?」
「『さん』づけはよしてください。ショウヘイ殿は姫様の婚約者です。結婚すれば、私にとっても主君筋になる方ですから。それにラジョアと話し方を変えたのでは、誰かに不審に思われるかもしれません」
「あ、ああ。そうだな。それで、カティアはどう思う?」
「スキルで見た未来なら、必ず実現するはずです。それに私は、むしろ冒険者として一緒にいた方がソラちゃんのためには安全だと思います」
「安全?」
「ええ。未来を100パーセント予見するスキルがあることを知ったら、あらゆる権力者がソラちゃんを手に入れようとするでしょう。
私がいつも、ラジョアの陰に隠れている理由もそれです。もし、利用しようとする連中から完全にソラちゃんを守れるとしたら……そんな人物は、ショウヘイ殿くらいしか思いつきません」
「私も賛成だ。ソラには色々と教えてもらった。私が、ああいうことに前向きになれたのもソラのおかげだ」
いや、だから子どもに聞かないでくれよ……とも思ったが、スケスケの服にときめいている身としては、何も言えない。
「わかった。ソラ冒険者になれるように、できるだけのことをする。ただし、お姉さんが見つかって、許可をもらえたらの話だ。それでいいな」
「うん、わかった」
ソラは嬉しそうにうなずいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます