ギルド登録試験


「試験官の資格なら、先月更新したばかりだ。文句はないはずだぜ」


「は、はい。でも、デスリーさんはSランクパーティーの方ですよね。収入だって他のランクの方とは違います。新人の試験官には規定で銀貨一枚しかお支払いできませんが、よろしいんですか」


「金の問題じゃあない。オレたち冒険者の誇りの問題だ。ポッと出の新人にナメられて、おまけに憧れのお姫様まで奪われたんじゃあ、メンツが丸つぶれだ。オレが新参者に冒険者の礼儀ってモノを教えてやる」


「わかってますよね。試験です。あくまで試験ですからね。不慮の事故でも、受験者を傷つけた場合は試験官の責任になります」


「ああ、わかってるさ。オレを誰だと思ってる。Sランクパーティー『疾風のドラゴン』のリーダーだぞ。ギルドに恥をかかせるわけがない」


「あいつは嫌いだ」

 シルフィがポツリと言った。


「私を自分のパーティーに引き抜こうとして、シグマを困らせていた。メンバーに空きがないだろうって断ったら、仲間のひとりを理由もなくクビにしたらしい。その人は冒険者を続けられなくなって、どこかへ消えてしまった」


「最悪だな」

 そんな奴ならぶん殴ってやりたいが、これからの冒険者活動のこともある。余計な争いごとはしない方がいい。


 最初の試験は魔力検査だった。

 ロビーの正面にはステータス検査機が付いていて、冒険者が自分のステータスを確認できるようになっている。対抗意欲をあおるためか、大きな掲示板つきだ。


 受付嬢が検査機の上に手のひらを置いた。

「最初に私が、表示がズレていないかをチェックします。終わったら同じように、ここに手を置いてください」


 ブーンという低い音がした。

 俺が【経歴偽装】を使った時と同じ音だ。魔力が何かと干渉する時に発生する音なのかもしれない。


 真っ黒だった掲示板に、何か文字のようなものが現れた。


「おい、ミリア。何て書いてあるんだ。全然、読めないぞ」


「ハイ、私と掲示板との距離が離れているので、自動翻訳機能は無効化されます。表示されているステータスは『【鑑定士】レベル23、体力23、攻撃力5、魔力32』です」


「げっ、この受付嬢って【鑑定士】だったのかよ。それって能力とかアイテムを鑑定する職種なんだろう。俺が【ステータス偽装】を使ってることがバレるんじゃないか」


「イイエ、大丈夫です。【ステータス偽装】は上位スキルなので、【鑑定】では見破れません。ショウヘイ様のスキルを無視できるのはカティア様の【真実の目】だけです」


「さあ、あなたの番です。手を置いてください」


 俺は検査機に手を置いた。

 受付嬢の時と同じ音がする。だが、ギャラリーの反応は全く違っていた。


「おおっ、すげえ」


「機械が壊れてるんじゃないか」


「【回復術師】でこれって、反則だろう……」


 ちなみに設定したステータスはこうだ。

 『【回復術師】レベル80、体力80、攻撃力80、魔力240』


 回復術師が到達できる理論上の最高ステータスの約80パーセントだ。これなら回復系の上級魔法であるエクスヒーリングが使用できる。


 これも考えた上での選択だ。

 攻撃役はシルフィ、援護魔法はラジョアがいる。【回復術師】くらいがパーティーのバランスとしてはちょうどいい。


「ふん、ステータスだけはご立派だな。だが、実戦になったらどうだろうな」


「ちょっと、デスリーさん。このステータスだけで十分でしょう。この支部に登録している【回復術師】の最高ステータスなんですよ。有望な新人を潰そうとするなら、ギルドマスターと相談しないといけなくなります」


「ふん、まさか。潰そうなんて思ってもいないさ。……有望な新人だからこそ、実力を試しておく価値があるってことだ。

 回復魔法ってのは、実際に使ってみないとわからないもんだ。発動の速さや冷静さが必要だからな。そこでオレの出番だ。全身の骨をボキボキ折ってやれば、実戦でも役に立つかどうかわかるってもんだ」


「いや、ちょっと……」


「ぐだぐだ言うんじゃねえ!」

 たまりかねて口を挟もうとした瞬間、俺はピシャリと言い返された。


「……おまえも、いいな。嫌なら実技試験は辞退しろ。

 ただし、新人が試験を受けられるのは一年に一回だけだ。再試験はない。これはギルドの規定だから、オレのせいじゃないからな。どこかで修行をして、別の町にでも行って出直せばいい。その時は、推薦状くらいは書いてやる」


 この人、ムチャクチャだ。

 だが、ロビーにいるほとんどの観衆は同じ気持ちのようだった。

 『そうだそうだ』とか、『殺せ』とか、無責任なことを口々に言い合っている。


「さあて、久々に人間相手の戦闘だ。剣は使わない……殺すと困るからな。素手での勝負だ。足腰が立たなくなるまで相手をしてやるから覚悟しろ」


「受験者への暴行は禁止されています」


「どうせ自分で治すんだ。暴行じゃない。治せなければ、ウチのパーティーの【回復術師】が手伝ってやる。なあに、後で骨がうまくくっつくように、上手に折ってやるよ。試験の方法は、試験官に一任されているはずだぜ。ギルドの受付嬢が決めることじゃない」


「それは、そうですが……」

 受付嬢が口ごもった。


「そうと決まれば、さっさと始めるぞ。ここにいる全員が見届け人だ。さあ、ロビーの真ん中を空けろ。ショータイムだ!」

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