7 シルフィの決意
森からの脱出
「よぉおし、森を抜けたぞ!」
歓声が隊商を包んだ。
念のために森から十分な距離を取ってから、ようやく馬車が停止した。
午後4時30分。まだ日没には一時間以上あったが、馬の方がもう限界だった。リーディアの森を一日で抜けるため、朝からずっと休息なしで行動している。
「馬に水をやれ。飼い葉もだ。嫁さんにするみたいに大事にしてやれよ」
「焚き火の準備だ。結界ができるまで気を抜くな」
飛び交う指示も、なんとなく声が弾んでいる。
俺は野営の支度をサボって、切り株に腰をおろした。
この場所も少し前までは森の一部だったんだろう。リーディアの森も、いつかは消える日が来るのかもしれない。
それにしても、もうヘトヘトだ。いくらステータスが高くても、精神的な疲労はどうにもならない。
着替えを終えたシルフィがこっちに歩いてきた。
青いチュニックの裾が、悩まし気に揺れる。いつもより薄い生地だ。肩まである金色の髪が、まるで光の束のように見える、
「ラジョアの具合を見てきた。かなり消耗していたが、なんとか結界だけは張れるそうだ。それにしても……だましているみたいで、つらいな。本当はラジョアも功績者のひとりなのに、何も覚えていないんだから」
ドラゴンが襲撃してきた時。ラジョアは
「隣に座っても、いいか」
俺がうなずくと、シルフィはピッタリと体を寄せてきた。
まずい。下半身に血液が回り始める。バレないようにしないと……。
「こうしていると、幸せな気分になるんだ。どうしてだろうな。胸の鼓動も早くなってしまう。もしかして、病気か何かだろうか」
伏し目がちに俺を見る。
ああっ、いい。天然でもいい。俺の彼女は最高だ!
「ようよう、お二人さん。熱いな。イチャイチャするなら、よそでやってくれ。他の連中が、作業に身がはいらなくなる」
その時、ガストーが邪魔をしに現れた。
「プライベートのことは放っといてくれ。それより何か用でもあるのか」
よし、言い返してやった。
ふふん。一生に一度は言いたかった『余裕のセリフ』ってヤツだ。
「いいや、ただ冷やかしに来ただけだ。ドラゴンも出なかったし、ジェイロウの旦那も上機嫌だ。今夜は宴会になるから、覚悟しておけよ」
「いや、でも俺はまだ酒は……」
「なんだ、その年になって酒も飲めないのか? それともアレか。イイコトしたくて控えてるってか。どうでもいいが、妊娠だけはさせるなよ。魔法使いは冒険者ギルドから借りてるんだ。高い違約金を払わされちまう」
アホくさい。
そうつぶやいてガストーは行ってしまった。
だが、シルフィが変だ。固まってる。
「妊娠……そうだ。私もショウヘイの子どもが欲しい。私はおまえの女なんだから、当然の権利だ。教えてくれ。何でもする。どうやったら子どもが産めるんだ」
「そんなのダメだよ!」
ソラだ。ソラが乱入してきた。
「お兄ちゃんの子どもはソラが産むんだ。オマエになんか渡さない」
「そんなこと言って、おまえだって知ってるのか」
俺はソラをたしなめたつもりだった。
ソラはまだ7才だ。コウノトリとかキャベツとか。子どもの知識なんて、せいぜいそんなものに決まっている。
「知ってるよ。裸になって✖️✖️✖️を✖️✖️✖️するんだ。ソラは子どもだから無理だけど、大きくなったら絶対、ソラがお兄ちゃんの✖️✖️✖️を✖️✖️✖️するんだ」
げっ、なんだ。言葉が消えたぞ。何が起こったんだ。
その時、スマホが鳴った。
「警告、倫理規定に違反する言語が使用されたので、翻訳を一部制限します。解除する場合は画面をクリックしてください」
俺は急いでスマホを取り出した。
『あなたは18才以上ですか? ……Y E S、N O』
うわっ、あと二週間足りない。
「それにしても、どうしてソラがそんなこと知ってるんだ?」
「ハイ、ソラ様はスラム街の出身です。ドアもないような住居にはプライバシーは存在しません。そのような行為は日常的に目にしていたと思われます。
それにスラム街の女性は早熟です。12才までに売春や強姦により性体験をする女性の比率は、80パーセント以上だと推定されています」
そういえば、助けた時のソラも売られる寸前だった。
俺はゾッとした。あのまま放っておいたら、ソラもそうなっていたってことだ。
「なるほど、そんなことをするのか……」
ややこしい人間がもうひとり、青ざめた顔をして立ち上がった。股間のあたりをモジモジと手で隠すようにしている。
「ショ、ショウヘイ、すまない。心の準備をする時間が欲しい。おまえの物になっているのに、わがままだとは思うが……それにしても✖️✖️✖️が、✖️✖️✖️するためにあったなんて。そんなことをしたら、私の体はどうなってしまうんだ」
シルフィは逃げるように立ち去ってしまった。
やっぱり、『天然』って大変だよな。
俺はまた、ガックリと腰を落とした。その俺を、まだ小さいソラが勝ち誇ったような顔をして眺めていた。
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